この05項では中古住宅を購入した場合に、リフォームが必要とな可能性が高い建物について考えます。
利用価値が低い戸建住宅であれば、安い価格で購入できたとしてもトクとは言えません
これまでのページで、戸建の建物は一定期間経過すると利用価値はあっても資産価値はあまりないので、経済的に考えればお勧めだというお話をしました。
ただ、それは使用上の問題がない建物を選んだという前提があった上での話です。資産価値が無いだけでなく、実際の利用価値も低いとなると、別にお買い得ではありません。
では、その利用価値が低いというのはどのようなケースでしょうか。これは機能的に問題がある場合と、快適性に問題がある場合に分けられます。ただ、どちらの場合でも問題の解消のためにリフォーム工事などが必要となり、かつそのリフォーム工事費が多額になる場合は、本来のメリットである経済性が大きく損なわれることになります。
安くてお買い得だと思っていたら、実際にはリフォームなどでお金がかかり、最終的には損をしてしまう訳です。このようなケースに巻き込まれないようには、何に気を付けたら良いでしょうか。
機能的に問題がある戸建住宅はリフォーム金額が高くなります
まず購入する中古一戸建てが機能的に問題がある場合は、リフォームの工事金額が大きくなります。機能的な問題はいくつかありますが、一般的なものは耐震性に問題がある場合と、雨漏りがある場合です。どちらの問題もそのままにしておくのは危険ですので、何かしらの対策、修繕工事を行わなければなりません。
まずは耐震工事のリフォーム費用ですが、日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(通称:木耐協)の調査(別ウインドウで開きます)によると、下のグラフのような結果が出ています。
耐震補強工事の平均は、この調査によると150万円強となっています。建物の面積や古さなどによって金額は異なりますが、一般的には建物面積が広いほど高くなりますし、古いほど高い傾向にあります。
建物が40年以上ですと工事費が190万円近くと高くなりますが、築40年の建物ですと建物代金もゼロに近い金額と思われますので、この範囲でリフォーム費用が収まれば充分ではないかと思います。
もっともこれは建物の基本的な部分の問題がないという前提の上での金額になります。基礎そのものや屋根に大きな問題がある場合は、この金額では収まりません。構造の基本的な部位に問題がある建物は修繕には新築とさほど変わらない費用がかかることがありますので、そういった建物は建て替え前提でない限り、購入はお勧めできません。
耐震補強工事の前には耐震診断が必要で、そちらにも費用がかかります
さて、この費用は耐震補強工事の費用ですので、実際にはこの前に耐震診断があり、そちらにも費用がかかります。耐震診断の費用は、日本耐震診断協会によりますと、図面がある前提で15万円から25万円くらいとなっています。
ただ今の相場ではもう少し金額が安いのではないかという気はします。また、耐震診断は自治体から補助金が出るケースもあります。例えば千葉市では上限が4万円ではありますが、耐震診断の費用の3分の2までを補助してくれます。
無料の耐震診断はあまりお勧めできません
一方で耐震診断を無料で行います、という会社もありますが、そういった会社はその後の耐震工事を受注したいが故に耐震診断を無料にしているようです。個人的には、無料の耐震診断は公共機関が行っているもの以外はお勧めしません。
耐震診断はそれ単体で費用がかかります。それを無料にするからには、その分のお金をどこかで回収しなければなりません。それが耐震改修工事で上乗せされたり、必要のない過剰工事で耐震診断分の費用を回収される危険がありますので、できれば診断と工事は分けて考えた方が良いと思います。
見た目でもある程度は耐震性がイメージできます
また、見た目で多少は耐震性を判断できます。開口部が多くて壁が少ない建物、1階を駐車場にして、かつ2階を片持ちで支えている建物、ピロティ形式の建物などは一般的に耐震性はあまり高くありません。
1階が店舗となっており、1階の壁が少ない建物もあまり耐震性は高くありません。もちろんこういった建物でも法律上問題はない建物もたくさんありますが、耐震性から見れば、あまりお勧めしたくありません。
地震などで被害が出たり、後から改修費などがかかる可能性は他の建物よりは高いと思いますので、その点は予め知っておいた方が良いと思います。
雨漏り対策工事は発見も修理も簡単ではありません
耐震工事よりも厄介なのは雨漏り対策の工事です。雨漏りの修理工事は皆さんが思う以上に難しいものです。
まず雨漏りの発生個所を見つけるのが簡単ではありません。雨漏り修理のためには、まず散水試験を行い、水が入ってくる場所を特定するのですが、ある場所の水の浸入を止めたことによって、別の場所から水が入ってくるということがよくあります。そのせいもあり、一度雨漏りの修理を行ったはずなのにまたどこからか雨漏りしている、という例が数多くあります。
最近は色々な雨漏り診断技術が発達しました。紫外線を当てることで発行する特殊な液体を流し、雨漏りしている部分を探す技術や、赤外線サーモグラフィカメラを使い、水が入っている部分との温度差で雨漏り部分を探す方法なども出てきています。しかしそれでも確実に雨漏り部分を確定できる訳ではありません。
また診断だけでも結構な費用がかかります。赤外線を使った雨漏り診断はそれだけで20万円近い費用がかかります(建物や調査会社にもよります。修復工事を前提とした会社であれば5万円位で引き受ける会社もあるようです。しかし低額で調査する会社の中には怪しい会社もあるとのウワサもあります)。
ふくろう不動産でも専門業者と提携していますので、雨漏り診断を行うことが可能ですが、費用はやはり20万円(税抜)かかります(簡易の雨漏りチェックを入れたインスペクションであれば、もっと安い金額で行っています「6-03.戸建住宅のインスペクションの費用と内容について」参照)。
余談ですが、赤外線サーモグラフィカメラの診断ですと、雨漏りをしているかどうかという判定では95%近い精度があると聞いたことがあります。ただし、雨漏りの有無の確認の精度は高くても、雨漏り箇所の特定まで精度が高いかどうかは分かりません。
また雨漏り確認のための試験方法もまだまだ確立されていない印象を受けます。先程散水試験のお話をしましたが、雨漏り調査を行うのにそもそも散水試験を行わない業者もいます。実際に上から水をかけただけでなく、強風時に下から水が吹き上げられる時のみ漏水する場合などは、散水試験では分からないこともあります。
そのため雨漏りの修繕は本当に簡単ではありません。
雨漏り修繕をどの会社が行うかという問題もあります
また雨漏り修繕工事を誰が行うのかという問題もあります。最近では雨漏り工事専門の修理業者もいるようですが、最近までは雨漏り修繕の専門家はほとんどいませんでした。
では誰が修繕などを行っていたかと言うと、塗装業者だったり、板金屋さんだったり、屋根や外壁のリフォーム業者さんだったりしました。もちろんこの中にも腕のいい人はいますし、経験からこの辺りから水が入っているのでは、と予想し対応できた人もいたでしょう。
しかし、雨漏りは建物のどの部分から水が入っているのかは分かりづらく、その人の専門外の部分から水が入っている場合には対応は難しいと思います。例えば屋根屋さんがサッシ廻りからの漏水に簡単に気が付くとは思えません。工事業者さんは自分の専門分野については詳しいのですが、違う部位の雨漏りなどについても詳しい人は多くはいません。
雨漏りしている建物は高い比率で存在します
そんなに雨漏りしている建物があるのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これはまあまあの確率であるようです。住宅リフォーム・紛争支援センターに寄せられる相談内容では、雨漏りも含めた外壁と屋根の問題で全体の37%を占めます。
また2000年に定められた品確法と呼ばれる法律では、新築住宅については10年間の雨漏り防止を義務付けられていますが、この法律のせい(効果?)で何度も補修工事を行わなければならなくなった建設会社も多いと聞きます。
住宅リフォーム・紛争支援センター「住宅相談統計年報」(別ウインドウで開きます)
実際工務店さんでも、自社が施工した建物以外での雨漏り補修は嫌がることが多いと聞きます。自社施工であればどのような施工をしていたかがある程度分かりますし、後々のイメージが悪くなることも避けたいですから、対応しない訳にはいきません。
しかし他社施工の場合は、どのような施工で建物を建てたかが分かりませんし、施工精度が悪ければ、一部手直しをしても別の場所から雨漏りすることがよくあるため、補修が複数回にわたることもあり、利益も出にくいのでやりたがらないと聞きます。
雨漏りの可能性が高い建物は最初から選ばないのが正解です
中古住宅であっても、雨漏りは瑕疵に該当しますので、売主に損害請求ができる場合もありますが、裁判にまで発展することも多いですし、何より手間がかかります。
ですので雨漏りをしている、または雨漏りしている可能性が高そう、という建物にはそもそも手を出さない方が無難だと思います。
では、雨漏りの建物が事前に分かるかと言われますと100%確実な方法はありません。何しろ新築建物であってもそれなりの確率で雨漏りがありますので、中古でその判断をしようというのは正直難しいと思います。それでもいくつかの対策はあります。
1つは建物のインスペクションを受けるということです。中古住宅はすでに建っていますので、雨漏りがあればその結果が残っていることがあります。壁や天井に濡れた後があったり、野地板部分にカビが生えている場合などは雨漏りしている可能性があります。インスペクションでそういった結果が出れば、その建物自体の購入を見送るという方法も選択できます。
もう1つはやや消極的な選び方ですが、雨漏りしそうな特徴を持つ建物を選ばない、というやり方です。建物の形状などで雨漏りしやすい建物としにくい建物があります。
例えばトップライトは割と雨漏りしやすい部分です。また屋根の形が複雑な建物も雨漏りしやすい建物と言えます。ドーマー窓なども雨漏りしやすいつくりです。また屋根の形が複雑でなくても、軒やけらばの出が少ない建物は、外壁との取り合いがうまくできていないと、雨漏りする可能性がより高くなります。
もちろんこのような建物でもきちんと施工されていれば雨漏りは無いと思いますが、こういった建物は選ばないと決めれば、多少は雨漏り建物に当たる率を減らすことができます。雨漏りしやすい住宅タイプについては「4-02-01.雨漏りしやすいタイプの戸建住宅について知っておきましょう」のページも参考にしてみてください。
他にも機能的に問題がある場合はありますが、大きな金額が出るのは主にこの2つではないかと思います。これとは別に快適性の問題でリフォーム費用が発生する場合がありますが、これは住む人の好みによる部分が大きいので、別の機会に説明したいと思います。
次のページはこちら 「06項.戸建の値段はそもそも何にいくらかかっているか」
このページの内容の一部を動画でも解説してみました
この動画でお話しした内容の一部を動画で説明してみました。その動画がこちらです。
よろしければ、動画もご覧ください。
ふくろう不動産は雨漏りの可能性をサーモグラフィカメラで確認しています
このページでは雨漏りがする建物は原則として選ばない方が良いとお話ししました。ただ見た目だけで雨漏りの有無を判断することは正直難しいと思います。
当社でも確実に判断できる訳ではありませんが、お客様が購入予定の建物はサーモグラフィカメラで念入りに調べることが可能です。トップライトがある場合はその周辺、バルコニーがあれば、壁とバルコニーのつなぎ目辺りは念入りに調べます。
調査する日の天候や気温差にも影響されますので、雨漏りがある建物を確実に発見できる訳ではありませんが、多少は危険を避けることができます。
私自身は赤外線建物診断技能師の資格も持っていますので、ある程度は注意してチェックすることが可能です。また瑕疵保険のための建物インスペクションや耐震診断の取次も行っています。ふくろう不動産ではこのようなサービスも行っております。詳しくは当社までお問い合わせください。
また、ふくろう不動産では皆様からのご質問やご相談を随時受け付けています。ご質問やご相談はもちろん無料です。ご相談されたからといって、後で当社からしつこい営業を行うこともありません。ご質問などは「お問い合わせフォーム」をご利用の上、ご連絡ください。