中古住宅が最近の住宅と比べて大きく劣っていると思われる機能がこの断熱です。構造は1981年以降はそれなりの耐震性を持つ住宅になっているのに対し、断熱については昔の住宅であれば無断熱もありますし、断熱されていたとしてもレベルの低いものが多くあります。
もっとも今の住宅でも、日本の住宅は欧米の住宅と比較すれば断熱性能はさほど高い訳ではありません。また、断熱工事の施工も雑に行われているケースも多く、断熱材の詰め忘れや、防湿層を逆にして施工したりと正しく施工されていないケースもよくあります。
それでも昔の住宅と比べれば今の戸建住宅は断熱性は良くなっているように感じます(例外もかなり多いので一概には言えないかもしれません)。
断熱が正しく行われていないと不快な空間になります
さて、この断熱がされていないと快適性が大きく損なわれます。断熱がきちんと行われていないと部屋の熱が逃げていくため、冬場の暖房費が余分にかかる、と考えている人が多いと思います。もちろんこれは間違いではありませんが、少し捉え方が違うような気がします。下の図を見て下さい。
断熱がきちんとなされていないと、冬には部屋の床や壁、天井、窓の温度が低くなるため、そこから輻射冷却を受けます。そのため断熱されている住宅と比べ、同じ室温(空気温)であっても体感温度は低く、寒く感じます。
そのため寒く感じないようにするために、室温をさらに上げることになり、結果として暖房費が高くなります。単に熱が外に逃げていくだけではなく、室温をより高く設定することでより大きな暖房費の負担となります。
これは単に暖房費だけの問題ではなく、体への熱の受け取り方も不自然なため、あまり快適ではありません。空気は温かいのに床や壁の輻射冷却で冷えるという感覚はあまり気持ちの良いものではないからです。
新築であっても断熱性能が低い住宅はたくさんあります
断熱性があまり優れていないケースは、中古住宅だけでなく新築住宅でもよくあります。これは建築のプロである建築士や建設会社の人も熱環境や断熱についてはそれほど詳しくない人が多いからです。
よくある問題となるケースは、断熱性が低い建物なのに床暖房を入れているから大丈夫、と主張される場合です。
床暖房を入れることで床からの輻射冷却は無くなります。暖房ですから逆に中にいる人を輻射暖房で温めます。しかし壁や天井からは引き続き輻射冷却を受けます。床・壁・天井の6面あるうちの1面は輻射暖房で残りの5面は輻射冷却です。
もちろん床暖房の効果も無い訳ではありませんが、同じ予算をかけるのであれば断熱に費用をかける方が効果的です。
しかし住宅販売の現場では断熱性が高いです、と言うよりも床暖房が付いています、と言う方が営業しやすいために、断熱は後回しにされ、床暖房の設置が優先されます。床暖房自体あって困るものではありませんが、本来は断熱性能を高めた後に設置すべきということを、覚えておいてください。
プロでも断熱の意識が低い人が数多くいます
建設会社の人でも断熱について知らない人が本当に多くいます。また断熱の意識が低いために、断熱材の施工が適当に行われている現場も数多く見ます。
私の知人が購入した建売住宅は、断熱材は壁の一部にしか入っておらず、家全体を断熱材でくるむという発想が無いまま、多くの断熱欠損の部分を作っていました(そのため一部で結露がひどいことになっていました)。数年前の新築でもこういったレベルの会社があります。
新築で戸建住宅を建てる方は、その会社の他の工事現場を確認し、構造とともに断熱の施工が正しくされているかどうかを確認した後に、建てる会社を決めた方が良いと思います。
また建設会社が断熱に注意を払っているかどうかを確認する方法の1つに、その会社が建てた建物のUA値(ユーエーちと読みます)やQ値(キューち)を聞くという方法もあります。
UA値とは外皮平均熱貫流率のことで、建物の外皮(外壁や屋根のことです)1平米あたりから逃げていく熱の量のことです。少し前まではQ値という床面積1平米あたりから逃げていく熱量で計算していましたが、床面積で割るという計算方式のため、住宅の広さによって数値に大きな差が出ていました。そこで2013年から表記はUA値が使われるようになっています。
このUA値の話を聞いて、何のことか分からない、という会社であれば、あまり断熱に気を付けている会社ではないと判断できます。
このUA値はエリアによって、推奨される数値が違いますが、千葉県ですとほとんどのエリアは0.87以下という数値になっています。この数値を満たさないと、長期優良住宅や低炭素住宅の認定が取れないという数値で、これを守らないからといって違法な建物となる訳ではありませんが、できればこの数値以上の性能は欲しいところです。
建築家や建設会社に工事を依頼する前には、その建物のUA値がどのくらいになるのか、図面上で計算するといくつになるのか、などを聞いてみてください。その際の応対で、相手が温熱環境に詳しい人かどうかが分かると思います。
ちなみにこのUA値は個人でも計算ができます。ソフトは住宅性能評価・表示協会(別ウインドウで開きます)が、無料でエクセルのソフトを公開しています。エクセルと建物の平面図・立面図、そして窓と断熱材の仕様書があれば、そこから拾った必要な数値を入れていくだけで計算可能です。
中古住宅は窓のみ手を入れる方法がお勧めです
さて、新築の場合は、設計段階で断熱性能をどうするかを考えれば良いのですが、中古住宅ではそうもいきません。もちろんリフォームで断熱補修をするという方法もありますが、これが建物全体だと結構な金額がかかります。断熱材を入れるだけでなく、内装の大半を交換することになるからです。
そこでお勧めなのは窓のみ手を入れる方法です。下記の図を見てください。
図の左は夏のイメージ、右は冬のイメージですが、どちらも熱損失が1番大きな場所は窓です。熱損失が大きな場所はその場所からの輻射冷却も大きくなります。そしてこの窓が熱損失の半分以上を占めていますので、窓の対処だけで対策の半分以上が終わります。
冬場の窓の対処としては、インナーサッシを入れることをお勧めします。インナーサッシとは今ある窓の内側に新たに付ける窓のことです。
費用の割には断熱効果も高いですし、商品によっては防音効果も期待できます。窓を開けるのに2回開けなければならないという面倒さや室内が若干狭くなるというデメリットはあるものの、費用効果では1番良い対策なのではないかと思っています。
夏場の窓の対処は、すだれやよしずを付けるか、外付けブラインドを付けるなどの対処がお勧めです。直射日光が室内に入らなければ夏の暑さはかなり緩和されます。日光の熱線を防ぐLOW-Eガラスよりも効果が高いというデータもあります。よしずは外に付けるだけという簡易さや価格の安さを考えるとお勧めです。
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このページの内容の一部を動画で説明して見ました
このページで説明しました、壁などの表面温度が体感温度に影響を与えるなどの話を動画でも説明してみました。その動画がこちらです。
よろしければ、動画もご確認ください。
ふくろう不動産でもUA値の計算ができます
ふくろう不動産では、お客様から要望があればUA値を計算してお客様にそのデータ書を提出しています。私は以前の仕事でUA値について100回以上シミュレーションを行っていますので、割とこの作業に慣れています。
また、ふくろう不動産はサーモグラフィカメラを所有しています。これは温度差を画像で見ることが出来る装置ですが、これで壁面の表面温度を確認することも可能です。
サーモグラフィカメラで断熱材の性能を確認することはできませんが、冬場であれば気温に対し、壁の温度がいくつのため、体感温度がこうであろうという説明が可能です。こちらも建物選びの参考にしてもらえればと思います。
また、ふくろう不動産では皆さまからのご質問やご相談を随時受け付けています。ご質問やご相談はもちろん無料です。ご相談を受けたからといって、後で当社からしつこい営業の連絡をすることもありません。ご相談などは「お問い合わせフォーム」をご利用の上、ご連絡をお願いいたします。