前のページでは竣工図書を見て、床や壁のコンクリートの厚さを見ることである程度防音性を予想しましょうという話をしました(「3-03-04.マンションの竣工図書で防音性や管理状況を確認しましょう」参照)。このページではもう少し防音やマンションの騒音問題について詳しく解説します。
騒音の基準を把握し、照らし合わせることで客観的な判断ができます
音がうるさいかどうかは人によって感じ方が違います。しかし全く基準が何もないと判断のしようがありませんので、まずは自治体による騒音の環境基準を見てみましょう。
ふくろう不動産がある千葉市では、上記のように騒音についての基準を設けています。各市町村や環境省でも基準を作っていますので、皆さんもお住まいの自治体のサイトなどで確認してみてください。
これを満たしているから問題ないとは言い切れませんが1つの基準にはなります。マンションで上の階の人や隣の住人がうるさいと思った場合、騒音計などで計測して数値を測ることで、そのうるささが問題のある範囲かどうかをある程度は客観的に判断することができます。
よくあるシチュエーションとデシベル数の目安も知っておきましょう
もっとも何デシベルが基準、と聞いてもどのくらいの音量が何デシベルなのかは普通分かりません。騒音調査会社が音の目安表を作っていましたので、こちらを見て参考にしましょう。
正式な調査は費用がかかりますので、まずは簡単にどのくらいの音量なのかをか調べたい時には騒音計を借りて計測します。騒音計は自治体によっては無料で貸し出しを行っています。千葉市でも1週間限定で騒音計や振動計を貸し出してくれます。
千葉市 環境規制課騒音対策班
多くの自治体でこのような貸出制度がありますので、皆さんも自治体のサイトを確認してみてください。
マンションの構造がS造の場合は壁のD値を押さえておきます
さて、音についての基準が分かったところで実際にどういったマンションであれば音の問題が少なそうなのかを考えていきましょう。
まずはマンションの構造です。今のところ木造で作られるマンションは無いと思いますので、ほとんどのマンションはRC造(鉄筋コンクリート)かS造(鉄骨造)です。高層マンションであればSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)もありますが、防音という点ではRC造と違いはありません。
この2つで音の問題が起きやすいのはS造の方です。一般的に音は重量があるものを通しにくくなっています。RC造では床も壁も厚みのあるコンクリートで作ります。そのため床も壁も音を通しにくくなっています。
これと比べ、S像は壁がコンクリートではなくもっと軽いもので作られていることも多いため、その分音を通しやすくなっています。S造では壁をALCと呼ばれる板で作ることもよくあります。
ALCは軽量気泡コンクリートのことで、名前にコンクリートと付いてはいますが、大変軽く作っているため、通常のコンクリートよりもずっと音を通しやすい素材です。S造ではこういった軽い材料で壁を作ることが多いため、防音性が低いマンションもたくさんあります。
壁の防音性(この場合は遮音性)はD値で表されます。D値は通さない音の量を表したものです。
例えば隣の部屋で70dbの音があって、壁の向こう側に届く音が30dbであればD値はD-40と表示されます。40db分の音を通さなかったからです。あくまでも目安ですが、RC造で言えば、
壁120mm D-45程度
壁150mm D-50程度
壁200mm D-55程度
と考えておけば良いのではないでしょうか。
S造ではコンクリートの壁厚で判断できませんので、このD値などを押さえておくと良いでしょう。
また、住宅性能表示で示されている場合には、その等級でも判断できます。
壁120mm 等級2
壁180mm 等級3
壁260mm 等級4
といった、イメージです。実際には他の条件もあるため目安にしかすぎませんが、参考にしてください。
私見では住宅性能表示で言えば等級3以上、D値で言えばD-55以上の性能の壁をお勧めします。
床の防音性能はL値で表します
マンションの床の防音性能はL値で表します。なぜ壁の時はD値で床は違うのかとお考えの方が多いと思います。
どちらもうるささを判断する指標なのですが、D値は空気を伝わって届く音であることに対し、L値は固体が、具体的には床から壁や天井を伝わって届く音であるため、基準が少し異なっています。
昔はL値もD値のようにLL-50とかLH-45といった表記をしていましたが、今ではΔLLとかΔLHで表示されるようになりました。
ただ、これは床スラブが200mmある前提で特定の条件で試験を行った場合の防音性能ですから、実際のマンションでこの表記のあるフローリングを使っていたとしても、実際の防音性能がはっきりと分かる訳ではありません。ただ、ある程度の目安にはなります。
しかしこの音については、本当に分かりづらいものです。正直に言えば、どこまでいっても正確に防音性を判断することは難しいと思います。ただ何の目安もないと選ぶ際に苦労しますので、床については次の2つについて、チェックしてみてください。
2つとは
1.床材(フローリング)のΔLL、ΔLHの等級
2.スラブの厚さ
のことです。
実際にはこれに加え、スパンの距離(柱と柱の距離)や梁などで囲まれた面積などが影響する(目安としては大梁や小梁で囲まれた面積が27平米未満が望ましいと言われています)のですが、そこまで調べるのは難しいですし、そこから防音性を判断することはプロでも難しいと思います。そこで簡易的ですが、床材の防音性とスラブの厚さのみでざっくりと判断するのが良いと思います。
個人的には、スラブ厚は200mm以上、フローリングは、LL-45以下(ΔLL(Ⅰ)4以上)、LH-50以下(ΔLH(Ⅰ)-3以上)がお勧めです。より高い防音性を期待するのであれば、スラブ厚がもっと厚くなっているものや、床がフローリングではなくカーペット仕様でフローリングへの変更が認められていないマンションが、更にお勧めです。
乾式二重床のフローリングでは怪しい商品がまだまだあるようです
もっとも二重床のフローリングは施工精度によっても音の伝わり方は大きく異なるようです。ただ施工精度を確認することはできませんので、スラブ厚やフローリングの材料を目安で考えるしかありません。
昔は二重床の方が遮音性が高いと言われていましたが、この意見は間違っているようで、現実的には直床の方が遮音性が高いケースが多いようです。
これは遮音性の実験方法に不備があったためで、2007年頃までに出ている二重床のフローリングについては、正しい遮音性能が出ていない可能性があります。実験室と実際の現場で遮音性能の差を調べたところ、10dB近く性能が劣っていたという実験結果もあるようです。
ですのでこの時期以前の二重床のフローリングのマンションについては、防音フローリングを使っていたとしても、実際には少し遮音性能が劣っている可能性があると考えてください。
2008年以降であれば正しい実験結果によるフローリングが使われるはずなのですが、実際にはそうなっていないマンションはたくさんあります。
フローリングの表示がLL-○○とかLH-○○のままになっている場合は昔の実験で診断された防音フローリングである可能性があります。新しい防音フローリングであれば、ΔLL-○○とかΔLH-○○となっているはずですので、カタログなどを見る際には注意して見てみましょう。
中古マンションではフローリングの表示が昔のLL-○○となっているものも多いと思います。これを現状の基準に読みかえることも可能です。読み替えを考えるには「推定L等級とΔL等級の読み替えと対応(出典:マンションを考えるヒント)」の記事が参考になります。
ボイドスラブの場合は、厚さを8掛けで考えましょう
ただスラブの厚さですが、1つ例外があります。それはボイドスラブの場合です。
ボイドスラブとは、コンクリートスラブの中に空洞があるタイプのスラブです。小梁が出ないなどのメリットがあるのですが、空洞があるため、同じ厚さでも通常のコンクリートスラブと比べると、遮音性は低くなります。
特に重衝撃音については、遮音性が低いようです。これも目安ですが、ボイドスラブの場合は、通常のスラブの80%の厚さの遮音性能と同等だと考えましょう。
また細かな話ですが、同じボイドスラブであっても空洞の断面が円になっている通常のボイドスラブと、断面が凹型になっているサイレントボイドスラブでは遮音性が異なります。
このサイレントボイドスラブは、空洞の中の音の反響を抑える形状となっているため、通常のボイドスラブよりも、遮音性は高いようです。
ボイドスラブのマンションを検討されている方は、このボイドスラブがどの形式のボイドスラブなのかも確認すると良いと思います。
次のページはこちら 「3-03-06.マンションの水廻りや設備の変更には制限があります」
この記事の一部を動画でも解説しています
このページでお話しした内容の一部を動画でも解説してみました。その動画がこちらです。
よろしければ動画もご確認ください。
ふくろう不動産では図面チェックと騒音計での確認も行います
ふくろう不動産は千葉市花見川区にある売買仲介専門の不動産会社です。図面でスラブ厚やフローリングの性能をチェックすることはもちろん、騒音計でその部屋のデシベル数もチェックしています。
騒音チェックは簡易的な測定ではありますが、マンションの購入を検討している方の参考にしてもらうべく、様々な測定機器で住まいに影響しそうな内容についてチェックしています。詳しくはふくろう不動産までお問い合わせください。
また、ふくろう不動産では皆さまからのご質問・ご相談を随時受け付けています。ご質問やご相談はもちろん無料です。ご質問などを受けたからと言って、後で当社からしつこい営業連絡をすることもありません。ご質問などは「お問い合わせフォーム」をご利用の上、ご連絡をお願いします。