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先日のブログで「低周波音の問題が少しずつ分かってきました」について記載しましたが、この後も少しずつ低周波音の問題について調べています。

私は随時低周波音について書籍やサイトなどを確認していますが、先日この関連本を読んで思うことがありましたので、こちらにその内容を記載します。紹介する本は
「あの音が私を苦しめる」
中野有朋:著 技術出版2005年4月発行 です。

環境庁と低周波音の定義が異なるため誤解を招きやすい本です

あの音が私を苦しめる表紙

出典:技術書院

昨日読んだ本はこちらです。この本を読むときに最初に注意しなければならないのは、この本の著者:中野有朋氏による低周波音の定義が環境省で定める定義と異なることです。中野氏の定義によると、
低周波音 20Hz~80Hzの音(本書32p)
超低周波音または超低周波音波 20Hz以下の音波(本書91p)
となっています。

これは環境省や消費者庁が定義している基準とは異なります。環境省では聞こえる音も聞こえない音も含めて100Hz以下の音を低周波音、その中で特に20Hz以下の音を超低周波音と規定してます。

低周波音の内容

低周波音には人が聞こえる範囲と聞こえない範囲が混ざっているようです。
出典:消費者庁

この定義の違いにより本の内容が私にはとても分かりにくくなっています。
例えば「音が聞こえない場合は低周波音トラブルはない(本書45p)」などと書かれている場合に、びっくりさせられます。中野氏の定義では低周波音は聞こえる音なので、聞こえない以上、低周波音トラブルではないという主張です。低周波音トラブルがない、とは言っていないので、間違いではないのかもしれませんが大変紛らしい表現です(もっとも後のページで超低周波音は人の健康に悪影響を与えない、と主張していますので、定義の問題ではないかもしれません)。

聞こえない音は空気の振動であって音ではない、というこの方の主張は分からなくはありませんが、それであれば何か別の言葉を使って、言葉を混同させないようにして欲しいと思いました。

調査方法に問題があるように感じます

調査のイメージ

この本で書かれた調査は本当にこのやり方で問題ないのでしょうか。

定義の違いは読む際に注意すれば何とかなりますが、低周波音(この場合は100Hz以下全て)の調査方法も本当にこれで良いのかと疑問に感じる部分があります。この本による低周波音トラブル解決の流れは次のようになっています。

1.低周波音が聞こえるかどうかを最初に確認(本書47p、57p)
2.測定器には分析器付き騒音計で充分であり、低周波音の測定器は必要ない(本書58p)
3.測定は原則20Hz~80Hzの間を測定(本書59p)

測定に先立ち、最初に音が聞こえるかどうか、つまり聞こえる範囲の低周波音なのか超低周波音なのかを確認して、聞こえる低周波音であれば、その聞こえる分だけを調査するという内容になっています。この区別がなぜ必要なのかが分かりません。

音を発生させる機器は、一定の周波数の音だけを出している訳ではないはずです。ですので音が聞こえたからといっても、聞こえる範囲の低周波音だけでなく、聞こえない超低周波音も併せて、その機器が音を出している可能性があります。それを聞こえるから聞こえる部分しか測定しないのは問題だと思います。

低周波音で体調を悪くされる方は、その原因が正しく分かっている訳ではありません。測定を依頼された時点では、聞こえる範囲の低周波音が問題なのか聞こえない超低周波音が問題なのかは分かっていません。それなのに、聞こえる低周波音があったからといって、聞こえる部分のみ調査するという方針は問題なのではないかと思います。

これも聞こえない超低周波音は人の健康に影響を与えない、という前提で組まれている測定方式なのでしょう。しかしこの前提が間違っていれば、調査そのものに意味がないどころか、間違った結論を出しかねません。本当に超低周波音がその人の健康に影響を与えなかったとしても、超低周波音の数値を出した上で説明すべきではないかと思います。

聞こえる部分のみの対処はさらに問題を大きくする可能性はないのでしょうか

聞こえる

聞こえる音のみの調査は本当に問題ないでしょうか

この聞こえる音の部分のみについて対処策を考えると、かえって問題が大きくなる可能性があるのではないかと危惧します。例えば聞こえる音は防音カバーなどである程度低減することができます。しかし超低周波音が問題であった場合には防音カバーは効果が無いケースもあれば、逆効果となるケースもあります

このように聞こえない超低周波音が問題なのに、聞こえる低周波音のみの対策を行った場合には問題がより厄介なことになりかねません。音を出している方は「ここまで対策を行ったのに文句が出るのは文句を言う人がおかしい」と思いますし、被害を受けている方は「口先だけで結局なにもしてくれない」と考えてしまいます。誤った測定と判断は、問題をより大きくする可能性があると思います。

著者は人が感知できないものは人の健康に影響がないと断言しています

感知のイメージ

感知できないから影響がない、と決めつけるのは危険です。

この本全体を通じて言えることですが、聞こえる低周波音、超低周波音の両方について人が感知できないものは人の健康に影響がないという前提で書かれています。聞こえる低周波音であれば耳の機能について、聞こえない超低周波音については、皮膚や三半規管で感知できるもののみを問題の対象としています。

この前提があるので健康に影響があるかもしれないという判断に、閾値(いきち)やG特性といった感覚特性を重要視しています。しかし、感じられるから影響がある、感じられないから影響がないという考えは私は間違いだと思っています

例えば私は1級電磁波測定士で他の方よりも多少は電磁波に詳しいと思います。そしてこの電磁波は人の感覚ではとらえることができません。しかしこれが健康にまったく影響がないかと言われれば、そんなことはありません。
他にも例をたくさん挙げることができます。インフルエンザウイルスを人は感知することはできませんが、感知できない人がインフルエンザに感染しないかといえば、もちろん違います。
これが低周波音、超低周波音についてはなぜ感知できるかどうかが大きな基準とされているのかが理解できません。

 感覚的な音と物理的な音を区別すること自体が問題だと感じます

この感知できないものは影響がないという観点があるので、感覚的な音と物理的な音というよく分からない基準ができているようです。

例えば「10Hzの周波数で90dBの超低周波音があったとしても、閾値以下なので感覚で感じられないため超低周波音は存在しない、具合の悪いのは超低周波音のせいではない(本書102p)」と書かれています。これも感知できなものは影響がない、それどころか存在しないとまで言っています。さすがにあるものを感知できないから存在しないと言うのは間違っていると思います。

この感覚的な数値を根拠にしている理由として「環境庁の委託調査研究を行った結果では、閾値以上の音圧レベルでなければ、人体に対する影響が起きないことが明らかにされている(本書104p)」とし、「超低周波音による人体への悪影響はない(本書104p)」と言い切っています。

この本では出典の明示がありませんでしたので、元となった環境庁の調査研究を私は見つけることができませんでした。ですから、その調査がどの精度でどういった内容だったのかを確認することができません。

しかしそれより後と思われる平成16年6月に発表された「低周波音問題対応の手引書」の巻末資料の中で、「全体としては低周波音による生理反応あるいは影響は聴覚・感覚閾値以下では起りにくいことを示唆するものであるが、そのことの強い根拠を示したものは未だないといえる(原文ママ)」と書かれています。

この時点で未確定なのであれば、前述の「影響がないことは明らか」という内容に疑問を感じます。本当に当時で影響がないことが明らかであったのであれば、環境省の資料で「強い根拠を示したものは未だないといえる」と書かれることは無いと思います。(環境省の定義では「低周波音」という表現の中に「超低周波音」も含んでいます)そしてこの根拠がはっきりとしない前提で、測定や判断が行われるのは大変怖いことだと思います。

 この本に書かれた解決事例があまり役に立ちません

解決のイメージ

この本の解決事例はほとんどが解決していないような…

他に気になった点として、この本では解決事例が13件載せられていますが、実際に低周波音問題を技術的に解決したのは4件のみです。13事例の解決の内訳は

事例1.医師が薬を出して治療した
事例2.医師の診断を受けた
事例3.調査結果では何も問題が出ていない→解決していない
事例4.音源に消音器を設置して解決
事例5.耳の病気による誤解
事例6.耳の病気による誤解2
事例7.壁床天井の共振が原因で、改修工事で解決
事例8.水音の調査だが最初からトラブルではない
事例9.賠償金で和解
事例10.裁判では勝ったが解決策は不明
事例11.チャンバー内音圧レベルの事前調査でトラブルではない
事例12.室外機に遮音カバーを付けることで解決
事例13.遮音カバー+お酒を勧めることで解決?

となっており、技術的な方法としては消音器の設置(事例4)、壁などの改修(手抜き工事の是正:事例7)、遮音カバーの設置(事例12,13)の3つのみです。他の問題はそもそもトラブルでは無い事例や、依頼者の誤解という結果で終わっています。

もちろん、低周波音被害だと思っていたら違い理由によるものだったという事も多いとは思います。著者としても違う原因で呼び出されるのは勘弁してほしいと思ったのかもしれません。かと言って解決事例として紹介するには適切な事例ではないと思います。

あまり他者の批判はしたくないのですが…

お詫び

悪口が中心になってしまい、申し訳ありません。また内容に間違いがあるようでしたらご指摘をお願いします。

何か悪口ばかりのページになってしまいました。私は音の専門家ではありませんので、私の理解不足によって間違って話を解釈している可能性もあります。もし私が書いた内容で間違いがあるようでしたら、どなたかご指摘いただければと思います。

しかし今まで色々と低周波音問題について調べてきましたが、本当に周りの誤解が多いジャンルだと思います。このページで紹介した本も、決して被害者を貶めようとして書かれた本ではないとは思いますが、結果として低周波音問題の大半は別の原因です、と主張しているようにも取れそうです。

実際に低周波音ではない別の原因がある方も多いのかもしれませんが、本当に低周波音で被害を受けている人から見れば、周りの人の誤解がさらに広まるかもしれません。

シックハウス問題の時も、早い段階で化学物質過敏症となった方々は、ずっと気のせい、とか本人の問題とか言われていました。問題が顕在化して、法的が整備ができるまで10年以上の歳月がかかったと思います。

低周波音問題が今後どうなるかは分かりませんが、なるべく早く科学的・医学的な検証が終わり、きちんとした基準や法律の整備がなされて欲しいと思います。私も微力ながら、今後低周波音・超低周波音の調査などができる体制を整え、正しい情報を提供できるようにしたいと思います。

低周波音について測定できる環境がようやく整いました

このページを作った当初は、低周波音を測定できる機器などを持っていなかったのですが、ようやく精密測定器も購入し、実際の低周波音について測定、確認できる体制が整いました。そして有料ではありますが、検査も行うことにしました(「6-01.健康配慮型のインスペクションを行っています」参照)。

ただ、いきなり検査を、と考えても費用がかかるものですので簡単には頼めないと思います。そこで、検査などを頼む前に、自分に悪い症状が出ているとしても、それが本当に低周波音によるものなのかどうかなどを確認するページも作りました(「第3章.住まいが健康に悪い影響を及ぼしていると思われる場合にはどうしますか?」参照)。

こちらのページに書かれている原因が何かを試して頂き、それでも低周波音の問題である可能性があるのであれば、まずは市役所などに低周波音の測定器を貸出していないかどうかを確認しましょう。自分でも測定器を使ってみましたが、使い方はさほど難しくありません。無料で測定器が借りられるのであれば、まずはそちらを使うべきだと思います。

そして、無料で低周波音を測定できる機器を借りられる目途が立たず、対応に困った場合には、当社までご相談下さい。ご相談には「お問い合わせフォーム」のご利用が便利です。当社へご連絡されたからといって、こちらからしつこい営業を行うことはありませんし、ご相談でお金を取ることもありませんのでご安心下さい。