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これから不動産の価格が上がるのか下がるのかという話は数多く出回っています。その中でよく聞く意見の1つに、家が余っていて空き家も増えているのだから、不動産の価格は下がるに決まっている、というものがあります。これと似た話では、一人っ子が増えていて、一人っ子同士が結婚するのであれば、両方の親の家の、少なくともどちらかは余るという話や、親の家を引き継げばよいので新たに家を買う必要は無くなる、というものもあります。

各々の意見で参考になる点もありますが、実際に不動産売買仲介の実務を行っている自分の立場から見ると、どうもピントがずれているような気がしてなりません。この記事では、空き家が増えているから不動産の価格は下がる、という意見に対して、自分で感じていることについてお話ししたいと思います。

ただ、当社は取り扱いが戸建住宅が大半のため、目線は中古の戸建住宅を中心に据えています。この記事は戸建住宅に関して、という考えで読んで頂ければと思います。

空家が増えていても売り物件が増えている感触がありません

マスコミ等では、空き家がとにかく増えている、という報道を目にしますが、不動産仲介の現場では売り物件が急速に増えているという印象は全くありません。むしろ、売り物が少ないと感じる事の方が多いくらいです。

少しデータは古いのですが、平成20年の空き家の調査では空き家自体は750万戸以上ありますが、半分以上は賃貸用で、一般の人が購入対象とするような物件ではありません。今後一戸建ての価格を下げる要素があるとすれば、木造の戸建住宅の空き状況となるでしょうが、その戸数は170万戸強と全体の2割強です。

しかしこの170万戸の戸建が将来全て売り物件に変わるかといえば、実際には半分にもならないと思っています。データ上でも、170万戸のうち腐朽や破損がある物件が61万戸となっており、2割以上はそのままでは売れない建物となっています。現実的には腐朽等が表に出ていないだけで、実際には使えない建物も含めれば、売却可能物件はせいぜい半分ではないでしょうか。

この調査の後も空き家は増えているようですが、増えているのは賃貸用では無いかという気もします。節税対策用に作られる賃貸物件がこんなに増えているのであれば、当然古い賃貸用は人が入らなくなると思われるからです。

長期的に見れば、賃貸用物件の空き家が増える事で、分譲用の不動産の価格にも影響は出るとは思いますが、その場合でも賃貸用建物の解体や土地の分割などの手続きを経た上でしょうし、そうなったとすればその物件はもう空き家では無く、新築物件が増えていくという事になります。

旧耐震の物件が増えても実際に買う人はほとんどいません

中古の売り物件は十分にたくさん出ているとお考えの方も多いかもしれません。確かに売り物件の数自体は少ないという事は無いのですが、エリアによっては売り物件の大半が旧耐震設計の物件である事もあります。

これは家を買う人の考え方にもよるのですが、当社で中古住宅をお探しの方で旧耐震の建物でも良い、という方はほとんどいらっしゃいません。旧耐震の建物とは、1980年以前に建てられた建物の事ですが、地震に対する力や耐久性に問題がある建物が多いため、最初から検討物件にならないというケースがほとんどです。

旧耐震の建物でも耐震補強等を行えば良いではないか、と考える人もいますが、この耐震補強の費用は結構大きなものになりますし、その耐震補強を行ったとしても、今の新築と同レベルまで耐震性が高くなる訳でもありません。そのため補強工事をしてまで旧耐震の物件を買おうと考える人はほとんどいないのが現実だと思います。

親の家があるのだから、それを引き継げばよいではないかと主張される方もいるのですが、その建物が旧耐震時代の建物の場合、そのままで良いと考える方は少ないと思います。仮に旧耐震時代の建物ではない、1980年から2000年に建てられた建物だとしても、そのまま住むには問題があるという建物も実はたくさんあります

基礎の高さが低く、床下が湿って不安がある建物や、基礎コンクリートに多くのひびが見られる建物もたくさんあります。そのような建物の物理的な状況を考えずに、数だけあるから大丈夫という考えは、考えるまでもなく問題でしょう。

空き家が多いから、その内供給が過剰になり、不動産の価格が下がると考えている方は、これらの要素をどの位含んで計算しているのかが良く分かりません。

空き家のうちのどの位が旧耐震の建物なのか、新耐震でも問題がある建物なのかは正確には分かりません。ですが、結構高い比率で空き家の建物は問題がある建物なのではないかと思っています。少し昔の記事ですが日経新聞の記事で、空き家の3分の2は旧耐震の建物であるという内容のものがありました(「空き家、3分の2が80年以前の建物 旧耐震基準ネックに」出典:日本経済新聞)。

もっとも旧耐震の戸建住宅は解体され、住宅建設用の土地として流通する可能性は高くあります。その場合に流通量が多くなった場合に、どの位不動産の価格が下がるのか、という事は考える必要があります。

一方で古い建物がある土地の購入者の多くは、実は建売業者だったりします。今の日本の税制や住宅ローンの仕組みは、一般の方が土地から家を購入して建物を建てるのに、不便な仕組みとなっているからです。そのため建売会社が購入し、古い建物を解体し、自社で新築住宅を建て、販売するという形が主流になっています。

ですので、中古住宅の流通量が増えるというよりは、結局は新築の戸建住宅が増えていくという流れになりそうな気がします。

不動産の価格は1つの事実で決まるものではありません

そもそも不動産の価格は1つの要素で決まるものではありません。単に空き家が増えるとか、人口が減るとか、世帯数が減るとか、1つの要素が完全に関連した動きをするものではありません。バブル崩壊時代に人口が増えていても価格が下がっている時期もありますし、明確に人口との関連関係があるとも思えません。

組み合わせのイメージ

不動産の価格は様々な要素の組み合わせで決まります。

また価格については常に貨幣の価値との相対関係にありますので、1つだけ要素を見て高いとか安いとか、上がるとか下がると判断できるものでは無いと思います。もっともこのあたりは人によって意見が異なるでしょう。

最終的に不動産を買うかどうかは、買う人自身が決める事ですし、損をするとしても得をするとしても、買う人自身が損得を享受します。ただ、何となくの意見や、極論に振り回されて、得をする事は少ないと思いますので、様々なデータや意見と照らし合わせた上で、買うかどうかを決めてもらえればと思います。

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