ドリームハウスで放映された斜めに反り立つ壁の家を見て考えさせられました

2017年9月10日に公開された「完成!ドリームハウス 斜めに反り立つ壁の家」の録画を先日ようやく見たのですが、考えさせられる点がたくさんある番組でした。このドリームハウスという番組では、お施主さんが自分で好む家を建築家に建ててもらうというものですので、どのような建物を建てるかはもちろん施主の自由です。自分でお金を出し、納得した上で建物を建てている訳ですから、周りがとやかく文句を付けるものではないでしょう。

一方で、この番組で紹介される建物は、こんな点に気を付けた方が良いですよ、というサンプル的な内容がたくさん入っています。そのため、家や不動産の話をする際に、題材としてとても使いやすい事例になってしまいます。この建物を建てたお施主さんや建築家の方を悪く言うつもりは無いのですが、不動産屋がこの建物を見るとこういった点を感じる、という参考程度に話を聞いてもらえればと思います。

ちなみにこの番組は本当に面白い事例をたくさん出してくれるため、時々題材として扱っています。その内容は「家具職人が建てたドリームハウスは不動産屋的には悪くは無いのですが…」や「ドリームハウスで放映された鎌倉のガラス張りの家について不動産屋的視点で考えてみました」のページでお話ししていますので、よろしければこちらの記事も参考にしてみてください。

デザインを追い求める事で高くなるリスクもあります

今回紹介された建物は、外観と言いますか家自体の形が特殊です。平面が真四角では無くひし形ですし、壁も垂直に立ち上がるのではなく、斜めに上がっている部分もあります。

ポリゴンテクスチャ

ポリゴンのような外観はアート性が高いとは思いますが。

普通の建物に無い、アート性は高いと思いますが、このアート性を追い求める事で失うものもあります。この建物が必ずダメという話ではありませんが、次に挙げる構造が弱くなる可能性と、雨漏りのリスクが高くなる可能性は考えるべきだと思います。

手作業で作るナナメの壁は構造壁にはならないでしょう

番組の中では、この建物は窓が少ないために構造的に強い、というような話がありました。窓が少ない事で構造壁をたくさん取る事が出来れば、確かに構造的には強くなります。ただ、この建物が構造的に強いかどうかと聞かれれば、疑問を感じる作りです。

構造壁は、柱に構造用合板等の面材を貼り、面で強度を確保するものですが、今回の斜めの壁が構造壁になっているかどうかは結構怪しい感じがあります。本来柱は、土台や梁と仕口で繋げ、構造用の金物で補強されますが、テレビで見ている範囲では、斜めに切った木材をそのまま取り付けている感じで、接合部が強いかどうかは微妙な気がします。

また、斜めの端の部分は、当然面材が切れる部分になりますので、普通の垂直の壁と同等の耐力を持たす事は難しいと思われます。また、地震等の際には、角部分に力がかかりやすいのですが、当然この斜めの壁の端の部分に力がかかりやすいため、耐力壁というよりは、壊れやすい部分になっていると思われます。

補強金物

テレビに出ていないだけで、実際にはしっかりした補強が行われているかもしれないですけれどね。

木造の3階建ての住宅ですので、構造計算は行っているはずですから、何らかの形で強度は保てる設計にはしていると思いますが、それでも普通の建物と比べて強くなるとは思い難いですし、本当に大丈夫なのかが不安に感じる建物でもあります。

また、3階バルコニー部分には柱の無い壁もあります。目隠し的な要素が強い壁ですが、構造的にはマイナスです。長い年月の間に接合部に問題が出ない事を祈るしかありません。

複雑な形状は雨漏りリスクを高くします

この建物は壁も屋根も複雑な形をしています。複雑な形は構造的に弱くなり易いと共に、雨漏りのリスクも高くなる傾向にあります。出隅や入隅部分が多くなりますし、その部分の金物の取り回し、防水紙の貼り方等が通常とは異なるため、ミスが出やすくなるからです。

雨漏り

この建物が雨漏りすると言っている訳ではありません。複雑な形状は雨漏りリスクが高くなるというだけです。

また、壁の斜めの部分には、透湿防水シートの上に、直接アスファルトフェルトを貼り、その上にラス網を張り左官材を塗っているように見えました。最近の左官壁であれば、透湿防水シートとアスファルトフェルトとの間に胴縁か何かを入れ、通気層を作って空気が抜けるようにした上で、外壁材を作る方が主流だと思います。しかし、斜めになっている特殊な壁であるため、通気層を作る事が難しかったのかもしれません。

透湿防水シートは、水蒸気は通すけれども水は通さないもの、アスファルトフェルトは水蒸気も水も通さないというものですが、この違う種類の防水紙を重ねて貼る事で、何らかの問題が出ないのかどうかが少し気になります。

まあ、撮影されたのはごく一部ですので、本当はきちんと施工されているのかもしれません。

コンクリートの湿気取りと基礎に水が入るかどうかは関係ありません

明らかに間違っていると思われる内容は、基礎の床暖房システムで基礎コンクリートを守る事が出来る、的な表現の部分です。コンクリートの中に水が入る事で、中の鉄筋が錆び、コンクリートが爆裂するという事はあります。ただそれは最初の水分が多いためではなく、基礎コンクリート自体に何らかの原因があってひびが入り、そこから水が入る事で起きるトラブルであって、温風で乾燥させる事で防げるものではありません。

コンクリートのひび

施工当初のコンクリートの水分量が多い事と、水が入って爆裂等のトラブルが出る事は、直接の関係はありません。

これは設計者や施主では無く、番組制作者が何か勘違いして、関係の無い画像を入れてしまったのではないかと思います。コンクリート等について知識が無い方が誤解しそうな(と言いますか明らかに間違いなのですが)内容でした。

ちなみに打設当初はコンクリートの含水率が高いのは確かで、当社でも新築物件のコンクリートを水分計で調べますと、3%台ものもが多く、4%台のものも時々あります。しかしこれが中古物件になると大半は2%台に下がります。換気がきちんとできている床下であれば、コンクリートは数年で乾燥するものですので、暖房で温めるかどうかよりも、正しく換気ができる床下かどうかをチェックすべきだと思います。

ヒノキ板を縦に張ってもカビが出ないとは限りません

他にも間違いとまで言い切りませんが、浴室の壁でヒノキの板を縦に張る事でカビは出ないとの話がありました。番組では縦に板を貼れば、水は板と板の間を流れて落ちていくので、カビは出ないとの主張です。

確かに横に張るよりはカビは出にくいのかもしれませんが、カビが全く出ないというのは言い過ぎです。実際に私は中古の住宅の浴室で縦に張られた板材がカビているものを見たことがあります。

カビが出た浴室の板材

板を縦に張っても、カビが出る事はあります。

このケースはヒノキでは無くヒバでしたが、どちらも水に強いと言われている木材です。ですが、その木材であってもカビや腐食が出る事はあります。これは浴室内の換気や日常の使い方にもよりますが、木材である以上、絶対にカビが出ないという事はありません。

どうもテレビ番組などでは、内容を言い切る事が多いように感じるのですが、建築や不動産でこれを行えば絶対に大丈夫というものはまずありません。今回のヒノキの壁についても、視聴者に誤解を与えなければ良いなと思いました。

2階や3階の在来浴室はあまりお勧めできません

この浴室ですが、設置場所は3階になっていました。そしてこだわりの浴室にするため、ユニットバスでは無く在来浴室と呼ばれるタイプにしていると思われます。個人的には、木造住宅の上層階に浴室を設置する場合はユニットバスの方が良いと思っています。長年の利用で水が漏れだし、躯体の木材を腐朽させる可能性が高いと考えているからです。

在来浴室

1階であれば在来浴室でも対処方法はありそうなのですが。

私は中古の木造住宅の仲介を行っていますが、在来浴室の住宅は早い段階でユニットバスに交換する方が良いとお話ししています。それは在来浴室の場合、その下の土台などが腐朽している率が高いからです。経験上では9割以上の確率で、下や横の木材に何らかの影響が出ています。

実際に新耐震木造住宅検証法のマニュアルの中には在来浴室の場合は、将来構造に不安がでる可能性を示唆しています。この話については「新耐震木造住宅検証法について知っておきましょう」の記事もご参照ください。

今では昔と異なり防水技術が発達しているのかもしれませんが、ユニットバスがこれだけ普及している中で、在来浴室関連の防水技術が大きく伸びているとも考え難い気もします。

浴室が1階であれば、その部分のみコンクリートの立ち上がりを高くして、浴室下の木材部分を無くすという事もできますが、2階や3階の浴室であれば、そのような手法も取れません。そして、もし浴室から水漏れがあれば、その下の構造躯体を悪くする可能性が高くなります。

構造の中の水漏れは発見することも難しく、気が付いた時には躯体に大きな損傷があるという事にもなり兼ねません。あくまでも可能性の話ではありますが、このようなリスクがある事も承知しておくべきだと思います。

駐車場スペースの幅設定は本来は間違いです

そもそもこの建物の壁を斜めにしたのは、室内空間の確保と、外の駐車場スペースの確保の意味合いと言われていました。しかし、その駐車するスペースは幅が1.7mとなっているようです。

駐車場の幅

駐車スペースの幅が1.7mとはさすがに狭すぎです。

一般的に駐車スペースの横幅は、車の横幅プラス1.2mが最低ラインと言われます。最も小さな車である軽自動車でも横幅は1,480mmあります。実際にはこちらにミラー分の幅がありますので、1,510mm位でしょう。そしてこの幅に1,200mmを加えますと、駐車場の横幅は1,710mmとなり、この時点で1.7mを超えています。

放映では車が停められている画像が一瞬だけ出ましたが、普通車であったため、横の部分は道路部分、厳密には道路の一部である側溝の上のフタ部分にまではみ出していました。

住宅の駐車スペースでは、車が少しはみ出している家はそこそこあり、普段その道路を使う人が迷惑に感じなければ大きな問題にはならないかもしれませんが、最初の設計段階から道路も使う前提の駐車場スペースを作るのはいかがなものかと感じます。

他にも突っ込みどころはたくさんありますが

この番組を見て、実は他にも突っ込みたい部分がたくさんあります。ただ、感じたすべての項目を指摘するのも大変ですので、とりあえずは代表的な部分について、意見を述べてみました。

これはもちろん私自身が感じた内容で、かつ一部を見て思った事ですから、実際には違っている事もあるでしょうし、反論も多いと思います。一方でこの番組に出る建物は本当に考えさせられる事が多くありますし、良い点でも悪い点でも参考になる点は多いと思いますので、家づくりを考えている方は、ぜひこの番組を見て、各々考えてもらえればと思います。

この記事についてのご意見やご質問などありましたら「お問い合わせフォーム」をご利用の上、ご連絡ください。

Follow me!

不動産購入のご相談はふくろう不動産まで

CTAの画像
まずはメールにてご相談ください。

ドリームハウスで放映された斜めに反り立つ壁の家を見て考えさせられました”へ1件のコメント

この投稿はコメントできません。