建物検査は有効ですが瑕疵を100%の確率で見つける事はできません

建物検査(インスペクション)を行う事で、欠陥住宅を選ぶ率を大きく下げる事が出来ます。一方でインスペクションを行えば、完全に問題がない建物を選べるかと言えば、100%の完全を保証するものでもありません。この解釈について、一般の方に誤解があるように感じますので、建物検査の内容や意味について、少しお話ししたいと思います。

その前に建物検査とはどのようなものかをご存じない方は「ホームインスペクション(建物検査)とは何かをご存知ですか?」のページを先に見て頂けますと、より理解が深まると思います。

建物検査では明らかに問題がある物件を見つけることができます

まず建物検査の有効性についてお話しします。建物検査ではどういった項目の検査を行うかにもよりますが、基本的な検査では建物の傾きと基礎のひび割れなどを確認します。そして明らかに問題がある建物は、このいずれかのチェックで引っ掛かるケースが多くなります。

建物の傾きのイメージ

傾きがある場合は原因は分からなくても何らかの欠陥があるものと想定されます。

建物の傾きは新築であれば1,000分の3以内、中古住宅であれば1,000分の6以内が許容範囲ですが、地盤や建物に何らかの問題がある場合には、これ以上の傾きが出てきます。傾きがある建物はすぐに崩れ落ちるというものでもありませんが、普通にきちんと建てられた建物であれば、築20年や築30年であっても、そうそう傾くものではありません。それが傾いているとなりますと、何らかの問題がある事になります。

具体的にどういった問題があるのかは、傾きの方向やその度合いによっても判断は異なります。原因を正確に見つける事は難しいこともあります。ただ何らかの問題があるのは確かですので、契約前であればそのような建物は見送る方が無難です。

この傾きは目視ではほとんど分かりません。1,000分の6という傾きは見ただけでは分からない事も多いからです。また逆に、この床は傾いていると指摘された部分を測った結果、大きな傾きは無いという事もあります。床の不陸などで傾いているように感じられても、部屋全体で見れば傾きは無いという事もあるからです。

不安に感じられる場合には、建物検査を受けて、傾きを確認してもらう方が確実です。検査費用は数万円単位でかかりますが、欠陥がある住まいを購入してしまいますと、数百万円から数千万円の損失が出ます。こういったリスクを数万円で防ぐことが出来るのであれば、十分に見合うと私は思います。

傾きについての話は「3-02-15.床の傾きは何度あると危険ですか?」の記事も参考にしてみてください。

もう1つの基礎のひび割れについては、専門家でなくても目視で確認することができます。ひびの幅と数のチェックが重要ですので、クラックスケールだけ準備して、後は丹念に基礎の外周を見て回ればプロでなくても確認することができます。可能であれば床下から建物の内側の基礎部分も見る事ができれば、さらに精度が上がります。

横に入ったひび割れ

クラックスケールがあれば、ひびの幅を調べる事ができます。

基礎のひびについての話は「住宅の基礎のひび・クラックは幅とどの方向にひびが入っているかを確認しましょう」の記事も参考にしてみてください。

建物の欠陥はこの2つだけとは限りませんが、欠陥住宅ではこの2つの検査で見つかる事が多くなります。そして通常の建物検査であれば、これら2つの問題を見逃すことはまずありませんので、そういった意味でも建物検査を受ける価値はあります。

建物検査では問題が見つからなくても欠陥があるケースもたくさんあります

一方で建物検査は欠陥のすべてを見つけることが出来る訳でもありません。例えば大きな欠陥の1つである雨漏りについては、屋根裏や壁の中にしか入っていない雨漏りについてはまず分かりません。

ほとんどの建物検査では目視のみのチェックとなるため、室内に雨が入った事があり、かつその跡が残っていれば雨漏りがあると判断はできますが、雨水が壁の中に入っていても室内に水が出てこない場合には、雨漏りしていたとしても、検査員は気が付きません

また、サーモグラフィカメラ等を使えば、壁内に雨が入っているかどうかのチェックの精度は高くなりますが、それでも100%確実な検査にはなりません。サーモグラフィカメラの検査はその前に降った雨が壁内等に入っているかどうかのチェックですが、それはあくまでもその前に降った雨の降り方の場合の検査でしかありません。台風のように特定の方向から降った場合にのみ雨が入るというケースもありますので、全ての雨漏りのケースが分かる訳ではないのです。

サーモ画像事例1

サーモグラフィカメラで壁内に雨水が入っている事が分かるケースもありますが、これも100%確実ではありません。

他にも構造的な問題や地盤の問題など、実際に地震が起きてみないと分からない内容はたくさんあります。例えば木材同士を構造金物でつないでいる場合、その金物に問題があるかどうかは、誰が見ても分かりません。金物は壁の内側に隠れており、見る事が出来ないからです。

基礎コンクリート内にある鉄筋についても正しく配筋されているかどうかは、建物完成後にはチェックすることができません。金属探知機で鉄筋の有無は分かりますが、かぶり厚等他の要素は分からない事が多いからです。

当社でも建物検査を依頼されるお客様から、検査を受ける事でこの建物が100%大丈夫だと保証できますか、と聞かれる事があります。この質問については「100%完全なものではありませんし、保証もできません」とお答えしています。分かるのは検査の範囲内での欠陥の有無ですし、欠陥住宅である可能性が小さいという事が分かるだけです、と答えざるを得ません。

これは当社の検査だけでなく、どの検査会社に依頼されても同じ答えになります。逆に絶対に大丈夫ですから安心してくださいという検査会社は問題があるのではないかと思っています。

もっともだからと言って、建物検査に意味が無いのではありません。建物検査は人の体で言えば健康診断のようなものです。熱があるとか、咳が出るといった一般的な症状については判断ができますが、専門性の高い病気については健康診断では分からない事の方が多いでしょう。だからといって、健康診断に意味は無い、という事ではないと思います。

検査結果ははっきりと白黒つけられるものでもありません

更に言えば、この検査結果についても、完全に白黒はっきりと問題である、問題でないと言い切れないケースも多々あります。

もちろん建物が一定以上の率で傾いている、雨漏りがはっきりしているなど、明らかに問題があれば黒だと判断できるでしょう。ですがやや、問題はあるものの、欠陥と言い切れるかどうかは微妙と言う状況もたくさんあります。

建物の不具合判断のイメージ

これであればダメという線がはっきり決められている訳ではありません。

例えば前述の基礎のひびについては、3mm以上のひびが1ヶ所でもあればもう欠陥なのか、ヘアークラックがどの位多くあれば欠陥だと言い切れるのかの判断は微妙なところがあります。

サーモグラフィカメラによる雨漏り調査でも、外壁の下に若干水の滞留が認められるけれども、室内側からは見つけられない、となった場合、どのレベルで問題だと言い切れるかは微妙です。外壁の下にあるけれども、防水紙の前で水が止まっているのであれば大丈夫とも言えますし、室内側からは断熱材の影響で水が確認できないだけで、実際には壁内に水は入り込んでいるかもしれないという可能性も考えられます。この辺りは、検査員の経験などから判断される事もあるため、完全に良い悪いの結論が付けられるとは限りません。

特に中古の戸建住宅の場合には、どこまでが経年変化として許されるかのという判断は検査員によっても異なるため、一言でこうだとは言い切れないものがあります。

このような状況の場合、検査員からは、こういった可能性があります、という話をされます。そしてその問題点は大きなものなのかどうかについては、すぐには問題にはなりませんが、将来大きな問題に発展する可能性があります、というあいまいな返事となりますし、実際にそうとしか言えないと思います。

このあたりはケースバイケースで、将来致命的な問題に発展するような問題もあれば、仮に悪化したとしても問題は限られるという事もあるため、詳細については検査員に詳しく話を聞くことになります。

ただこのようなグレーの判断になるケースも多々あるという事は知っておいた方が良いと思います。

建物検査は売買契約前に行う事をお勧めします

建物検査がこのようなものだと考えますと、検査は不動産の売買契約前に行う方が良いと私は考えています。建物検査がグレーな範囲でしか分からない場合、ある程度濃いグレーであれば、契約をしないという選択肢があるからです。

契約のイメージ

不動産の売買契約前に検査を受ける方が選択肢が多くなります。

これが契約後で引渡し前という段階ですと、判断は少し難しくなります。完全に黒であれば、その補修分等を請求するという事もできますが、問題がある可能性が高いというレベルで、修繕費用等を請求するのは難しいでしょう。

契約前検査の難点は、契約に至らなかった場合、その検査費用が無駄になってしまうという点です。ですが、危険を避ける事が出来たという事を考えますと、仕方が無い費用ではないかと思います。

検査内容をはっきりさせたい場合は瑕疵保険のための建物検査をお勧めします

どうしても何らかの結論を出したいという事であれば、単なる検査ではなく、瑕疵保険に加入できるかどうかの検査を受ける事をお勧めします。こちらは、保険に加入できるかどうかという点で一応は結論が出ますし、その後保険に加入し、加入期間内に大きな問題が出た場合には、保険金で対処が可能になります。

逆に保険に加入できないという結果が出れば、売買契約自体を行わないという選択肢も出てきます。当社でもお客様が購入検討されている建物については独自の建物検査を行いますが、並行して保険会社の検査もお勧めしています。保険会社の検査は通常の検査会社の検査と金額はあまり変わりませんし、その後に保険に入るか入らないかは自由に決められますので、こういった検査をうまく組み合わせる事で、欠陥住宅を選ぶ率をさらに下げる事が出来ると思います。

どういったタイプの検査を受けるかについては「建物検査(インスペクション)会社の選び方は依頼者の目的と検査レベルで変わります」の記事も参考にしてください。また、ふくろう不動産で行っている当社独自の建物検査の内容は「6-03.戸建住宅のインスペクションの費用と内容について」を確認してください。

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