建設会社の倒産リスクについて、注文住宅を建てる前に知っておくべき対策と注意点
近年、建設業界では倒産件数が増加傾向にあり、特に注文住宅を検討されている方にとっては大きな懸念事項となっています。もし建設中に依頼した工務店や建設会社が倒産してしまったら、支払ったお金はどうなるのか、工事は中断してしまうのか、といった不安は尽きません。
今回は、このような倒産リスクに対して、どのような対策が有効なのか、また世間で言われている対策の中にはどのような注意点があるのかを解説します。
工事中の倒産リスクに最も有効な対策:住宅完成保証制度
工事中に工務店や建設会社が倒産した場合に、最も効果が期待できる対策は「住宅完成保証制度」です。これは、建てた後の不具合に対する「瑕疵担保責任保険」とは異なり、工事中の倒産によって工事が中断した場合に、保険会社が一定の費用を負担してくれる制度です。これにより、既に支払った工事費用の一部がカバーされ、別の会社に工事を引き継ぐ際の追加費用に充てられる可能性があります。この制度が最も有効とされるのは、他の対策が「倒産を予測する」ことに主眼を置いているのに対し、住宅完成保証制度は「倒産した場合の金銭的損失を直接的に補填する」という、より実質的なセーフティネットを提供するからです。精神的な負担や工期の遅延は避けられませんが、少なくとも金銭的なダメージを軽減し、工事再開への道筋をつけることができます。
住宅完成保証制度の確認ステップ
この制度が適用されるかを確認するには、以下の3つのステップを踏むことが重要です。
- 工務店への確認: 契約前に、その工務店が住宅完成保証制度に加入しているかを確認します。この際、単に「加入しています」という返答だけでなく、具体的な制度の名称や、どの保証会社(保険会社)を利用しているかを尋ねましょう。
- 保証会社名の確認: 口頭での返答だけで安心せず、具体的にどの保証会社(保険会社)を利用しているかを確認します。例えば、「〇〇住宅保証」や「△△保険」といった具体的な名称を聞き出すことが重要です。
- 保証会社のウェブサイトで確認: 確認した保証会社の公式ウェブサイトにアクセスし、依頼しようとしている工務店が実際にその制度の登録事業者として掲載されているかを確認します。残念ながら、一部には虚偽の申告をする業者も存在するため、この最終確認は非常に重要です。登録が確認できない場合や、担当者がこの確認作業を渋る場合は、その工務店との契約は避けるべきでしょう。また、契約書には、この完成保証制度の内容が明確に記載されているか、そして契約する建物自体が保証の対象となっているか(会社が制度に加入していても、個別のプロジェクトが保証対象外というケースも稀にあります)を細かく確認することが肝心です。
口頭での確認や、「うちは倒産しないから大丈夫」といった担当者の言葉を鵜呑みにせず、必ずご自身で保証会社のウェブサイトで登録状況を確認することが肝心です。また、契約書に完成保証制度の内容が明記されているか、そしてその建物自体が保証の対象となっているかも確認しましょう。
支払いサイトにも注意
保証制度があるとはいえ、無制限に保証されるわけではありません。多額の費用を前払いしすぎると、保証額を超えて損失が出る可能性もあります。一般的な注文住宅の支払いサイトは、契約時、着工時、上棟時、完成・引き渡し時の4回に分けるのが一般的で、それぞれの段階で支払う金額の比率も大体決まっています(例:契約時10~20%、着工時30~40%、上棟時30~40%、完成時10~20%)。もし、契約時に代金の半分以上を要求されるなど、この一般的な比率から大きく逸脱するような支払い条件を提示された場合は、その会社の資金繰りに問題がある可能性も考えられるため、特に警戒が必要です。過度な前払いは避け、一般的な支払いサイトと比率を守るようにしましょう。
倒産リスク対策として効果が薄い、または注意が必要なもの
世間には様々な倒産対策が言われていますが、中には効果が薄い、あるいはかえって誤解を招くものもあります。
- 口コミのチェック: インターネット上の口コミは、真偽不明な情報も多く、正確な判断材料としては不十分です。例えば、「担当者の対応が悪かった」といったサービス品質に関する口コミは参考になりますが、会社の財務状況や倒産リスクを正確に示しているとは限りません。また、悪意のある情報や、古い情報がそのまま残っているケースも少なくありません。
- 会社の雰囲気で判断: 経営のプロでない一般の方が会社の雰囲気だけで倒産リスクを判断するのは非常に困難です。事務所が綺麗で社員が活気にあふれていても、それは表面的なものであり、裏では資金繰りに窮している可能性も十分にあります。会社の本当の経営状況は、経営層や財務担当者、あるいは外部の専門家でなければ把握できないことがほとんどです。
- 営業年数や過去の実績: 歴史のある会社や実績豊富な会社でも倒産する可能性はあります。特に経済情勢が不安定な時期には、長年の実績があっても経営が悪化することは珍しくありません。また、自社は健全でも、取引先や下請けの倒産が引き金となり、連鎖倒産に巻き込まれるリスクも存在します。過去の栄光が未来の安定を保証するものではないということを理解しておく必要があります。
- 財務状況のチェック: 財務状況のチェックは、他の対策に比べれば多少は有効ですが、一般の方が正確に判断するのは非常に難しいです。小規模な会社では、財務情報の公開が限定的であったり、開示されたデータが必ずしも最新でなかったりする場合があります。専門の調査会社による情報も、通常は年に一度の更新であり、直近の急激な資金繰り悪化を捉えきれないことがあります。また、財務諸表を読み解くには専門知識が必要であり、数字の裏に隠された実態を見抜くのは至難の業です。
- 大手企業に依頼: 大手企業だからといって倒産しないわけではありません。過去にも、誰もが知るような大手企業が倒産した事例は存在します。大手企業は確かに体力がありますが、大規模な事業展開ゆえに、一度問題が発生するとその影響も大きくなる可能性があります。また、大手企業が採用する「型式認定」のようなクローズドな工法の場合、万が一の際に他社が工事を引き継ぎにくいというデメリットもあります。これは、特定のメーカー独自の工法や部材を使用しているため、そのメーカーが倒産すると、他の会社では修理や改修が困難になる可能性があるためです。
唯一有効な「怪しいサイン」:異常な支払い条件
ただし、唯一注意すべき「怪しいサイン」として挙げられるのは、標準的ではない異常な支払い条件です。例えば、契約時に代金の半分を要求される、通常よりも早い時期に多額の入金を迫られる、といったケースは警戒が必要です。一般的な注文住宅の支払いサイトは、契約時、着工時、上棟時、完成・引き渡し時の4回に分けるのが一般的で、それぞれの段階で支払う金額の比率も大体決まっています。もし、この一般的な比率から大きく逸脱するような支払い条件を提示された場合は、その会社の資金繰りに問題がある可能性も考えられるため、特に警戒が必要です。一般的な支払いサイトや比率を事前に把握し、それから大きく逸脱する要求があった場合は、慎重に検討しましょう。
建物完成後のアフターサービスについて
幸いなことに、建物が完成し引き渡しが済んだ後の倒産であれば、工事中の倒産に比べてダメージは少なくなります。
- 無料アフターサービスの喪失: 確かに無料のアフターサービスは受けられなくなりますが、その費用は工事中に比べれば限定的であり、諦めざるを得ない部分もあるでしょう。通常、引き渡し後のアフターサービスは、建具の調整、軽微な水漏れ、クロスの補修など、比較的軽微な不具合が中心です。これらの修理費用は、別の業者に依頼しても、工事が中断するほどの巨額な費用にはならないことがほとんどです。
- 修繕・メンテナンス: 一般的な「オープン工法」(在来木造軸組工法や2×4工法など、特殊な技術や部材を必要としない標準的な工法)で建てられた家であれば、建物の図面や仕様書があれば、他の建設会社でも修繕や補修は可能です。これらの工法は、業界内で広く知識や技術が共有されており、使用される建材も汎用性が高いため、特定の業者に依存することなく対応できます。過度に心配する必要はありません。
- 住宅瑕疵担保責任保険: 建物に構造的な問題や雨漏りなどの欠陥があった場合、多くの会社が加入している「住宅瑕疵担保責任保険」や、会社が供託している供託金から保険金が支払われる仕組みがあります。この保険は、新築住宅の売主や建設業者が、引き渡しから10年間、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の瑕疵について責任を負うことを義務付けた法律に基づいています。万が一、建設会社が倒産しても、保険会社がその責任を履行するため、消費者は保護されます。購入時の重要事項説明書で内容を確認し、万が一の際には保険会社に連絡しましょう。
- 大手ハウスメーカーの型式認定工法: 一部の大手ハウスメーカーが採用する「型式認定」の建物は、特定の工法や部材が国から認定を受けているため、構造が特殊な場合があります。そのため、倒産した場合に他社が修繕を引き受けにくいというデメリットが生じる可能性があります。これは、そのメーカー独自の技術や特許が絡むため、他の業者が安易に手を出せない、あるいは修理に必要な部品が手に入りにくいといった問題があるためです。しかし、型式認定の建物で構造的なトラブルが発生する確率は非常に低いため、これも過度に心配する必要はないでしょう。
究極の選択:中古住宅や建売住宅
どうしても建設会社の倒産リスクを避けたいというのであれば、最初から中古住宅や建売住宅を購入するという選択肢もあります。これらは既に完成しているため、工事中の倒産リスクは存在しません。ただし、注文住宅ならではの自由度やこだわりを諦めることになります。この選択は、倒産リスクを完全に排除したいという強い希望がある場合に検討されるべきものであり、一般的には注文住宅のメリット(間取りやデザインの自由度、新築であることの安心感など)と比較検討されることになります。
まとめ
建設会社の倒産リスクに確実に対応できる方法は限られており、特に工事中のリスクに対しては「住宅完成保証制度」が最も有効な対策となります。この制度の仕組みと確認方法をしっかりと理解し、契約前に適切な対応を取ることが、万が一の事態から身を守るために非常に重要です。
また、世間で言われる様々な対策の中には、効果が薄いものや、かえって誤解を招くものも存在します。唯一注意すべきは、一般的なものから逸脱した「異常な支払い条件」です。注文住宅を検討される際は、これらの基礎知識をしっかりと身につけて臨み、安心して理想の住まいを手に入れてください。