エコ住宅イコール自然素材と考える方も多いと思います。確かにムクのフローリング、土壁、木や畳などは、見た目、質感、触った感じ、匂いなどが優れているものが多く、快適性は大きく上がるものだと思います。
だからと言って、自然素材を入れることがそのままエコ住宅につながる訳ではありません。このページでは反例を挙げながら、エコ住宅について考えてみたいと思います。
自然材料そのものでも人の健康に悪い影響を与えるものがあります
自然素材だからといって、そのすべてが人の健康に良いものでもありませんし、エコとも限りません。人の健康に悪い影響を与える自然素材の代表的なものはアスベストでしょう。
アスベストは肺がんを引き起こす可能性があるため、悪い物質の代表例ともなっていますが、こちらも自然素材です。かつては奇跡の鉱物とも呼ばれ、さまざまなシーンで活躍してきた建材で、建物の屋根や壁などで多く使われてきました。
しかしこのアスベストを吸い込んで20~40年という長い期間の後に肺がんなどを引き起こす可能性が高いということで、現在は使用禁止となっています。このように自然素材だからといって、すべてが人の健康に対し問題を起こさないというものでもありません。
問題なのは悪い影響が出るのかどうかはすぐには分からないという点です。このアスベストについても、潜伏期間が20年以上もあったため、すぐには問題が発覚せず、法的な規制まで数十年の時間を要しています。
また、人の健康に悪影響を及ぼさないのであれば、自然素材はエコなのかと言えば簡単には言い切れないものもあります。例えばムクの木材です。一時期南洋材は乱伐が続き、環境へ悪影響を与える可能性も指摘されていました。木材はムクであっても、再生可能な森や林から伐採したものかどうかでも環境への負担は変わります。
また、自然素材であっても、海外製品で輸送距離が大きいのであれば、トータルで考えて本当にエコなのかどうか疑問に思われる製品もあります。さらに、輸送中に問題が出ないように防腐剤などを大量に使っている自然素材は本当にエコなのかと思わされれるものもあります。
自然素材のすべてについて判断することは難しいのですが、
・生産が持続的にできる自然素材なのかどうか
・加工に大きな手間やエネルギーが掛かっていないかどうか
・輸送に大きな手間やエネルギーがかかっていないかどうか
・材料に問題のある物質などを混ぜていないか
などによって、エコなのかどうかを考えるようにしてみてください。
自然材料が含まれているだけの化学物質製品も多数あります
自然素材の材料、と言われていても、自然素材はごく一部でしかない製品もあります。
代表例として珪藻土の壁材について考えてみましょう。珪藻土は自然住宅志向の方によく使われている壁材です。ホルムアルデヒドなどの化学物質を発散させないとか、水蒸気を吸収したり排出したりすることで湿度をコントロールできるとか、臭いなどの化学物質を分解するとか、様々な機能をうたい文句にしています。ただ、全ての珪藻土の壁がこのような機能を持っているかと言えば、そんなことはありません。確かに珪藻土を壁材として使用しているけれども、その珪藻土の割合が低いという珪藻土壁もあります。珪藻土壁といっても、珪藻土の割合が1割台という製品も以前はあった様子で、実際には化学系の左官材と機能が変わらないという製品もあるようです。
珪藻土はそれ自体固まる性質がありませんので、壁に塗るためには何らかのつなぎ材や接着剤的なものを混ぜなければなりません。そのつなぎ材が化学系の接着剤であることもあります。このつなぎ材が、珪藻土を包んでしまうことで、珪藻土自体には調質性があっても、壁材には調質性があまり期待できないこともあります。
ちなみに珪藻土壁はこれら以外にも、焼成されているのかどうか、そもそもどの産地の珪藻土を使っているのか、などチェックポイントがたくさんあり、選ぶのが難しい建材でもあります。
こういった製品が建材としてダメかどうかは、色々な要素を見ないと判断できません。単に自然素材の製品だといっても色々なタイプがあるという事を知っておきましょう。
自然素材の効果を過大に評価している製品もあります
また、自然素材製品の能力を過大に評価している方も見受けられます。先程は珪藻土壁の調質性について少しお話ししましたが、珪藻土などの土壁や、ムクのフローリングなどは、調質性があります。そのため室内の湿度が高い時には、壁や床が水蒸気を吸収して湿度を下げ、逆に乾燥時には壁や床に貯められている水蒸気を放出することで湿度を上げる効果があると言われます。
これは間違いではなく、確かにこのような効果はあります。しかしその効果は劇的なものではありません。左官の壁材は確かに一定量の水蒸気を吸収する効果がありますが、一定量の水蒸気を吸収した後はそれ以上の水蒸気を吸わないため、除湿機の何分の1の効果もありません。逆に乾燥時の水蒸気の放出も、壁材の中に残っていたわずかな水蒸気を放出するだけです。床材や壁材に加湿器と同等の機能を期待するのは間違っています。
材料メーカーの宣伝では調質性を大きくうたっており、その性能をグラフなどで示されていることも多いのですが、調質性能はあくまでも短時間の実験の結果です。実生活では何日も湿気の多い日が続きます。部屋の換気も行っている以上、常に湿気の多い空気が部屋にも入ってきます。その中で常に水蒸気を壁や床が吸い続けるという事はありません。
床のムクフローリングなどでも同じような話があります。ムクであれば断熱性が高いので、冬でも素足で大丈夫、などという説もその類です。確かに合板フローリングよりは断熱性はあるでしょうし、板自体に空気を多く含んでいますので、他の床材と比べれば冬でも歩いた感じは暖かいかもしれません。
ですが、断熱性があるといっても断熱材ほど高い性能を持っているはずもなく、材料の厚さも断熱材ほど厚みがある訳でもありません。当然冬にはそれなりの寒さになりますので、裸足で歩けるかどうかは床材の下の断熱状況や暖房の設置具合に大きく影響されます。
ムクのフローリングの上を素足で歩くのは気持ちが良い事ですし、単に断熱性だけで語れるものではありませんが、過剰な期待をするのは間違っていますし、自然素材だから性能が高いというものでもありません。
本来求めている性能を発揮できない自然素材製品もあります
自然素材は素晴らしい性能を持っているものも多くありますが、万能ではありません。先程お話ししました木材の断熱性能もそうです。
木材で十分断熱性能があると主張される方も多くいらっしゃいますが、熱貫流率などの数値を見る限り、それほど高い断熱性がある訳ではありません。木材だけで高い断熱性を確保しようと思えば、それこそログハウスのような厚さの板が必要でしょう。
他の例として、自然系の塗料が挙げられます。木材の保護塗料には色々な種類があり、自然系の塗料もたくさんあります。これはこれで優れた機能のものも多いのですが、室内ではなく室外の木部の保護塗料を考えた場合には、自然系の塗料では性能が満たされていないと感じるものがたくさんあります。
塗料は一時期化学物質を発散させる代表例だったこともあり、塗料は自然系のものでなければ、と考えられる方もたくさんいらっしゃいます。ですが室外の過酷な環境、雨が当たり、日が当たり、虫などが多くいる環境下では木材を保護しきれていないと思われる保護塗料も結構あります。
外であっても化学物質の発散はいや、と考える気持ちは分かりますが、外部の木材が1,2年で腐朽してしまい、使えなくなってしまうのではやはりエコとは言えないと思います。
室外とまで言えなくても、床下に使う材料でも似たような事例が良くあります。シロアリの忌避剤などが代表例です。床下も家に近い部分ですので、化学的なシロアリ忌避剤は使いたくない、という方もたくさんいらしゃいます。そのため、珪藻土や木炭を床下に敷き詰め、それでシロアリを防ぐ、という製品をお使いの方もいます。
ただ、珪藻土や木炭はそれ自体シロアリ忌避効果がそれほど高いものではありません。実験データなどを見ますと、シロアリは珪藻土や木炭の上を歩くことができないとなっています。ただそれは実験場の中で、シロアリが自分で歩く場合のデータです。
野生のシロアリは、自分で土や水を運ぶことができますので、珪藻土や木炭の上でも蟻道を作り、その上を歩くことができます。すべての自然素材製品が効果が無いという話ではありませんが、実験データだけでは判断できないものもたくさんあります。機能という切り口で見た場合、自然素材に過度の期待をするのは間違っていると私は思っています。
自然素材の家は素晴らしいのですが、性能とエコ度合いは別物です
このような内容を書いていると、自然素材が良くないと主張されていると思われるかもしれません。私は自然素材の質感などが好きですので、人に聞かれたときには自然素材の材料をお勧めしています。私の自宅も、床は国産材のムク材ですし、壁も左官材か木の板壁で、塩ビクロスを一切使っていません。
これは自分の志向と、できる範囲でエコである住宅にしようと思って当時建てたものです。他にも断熱材として羊毛を使うなど、なるべく自然素材を使うようにしたつもりです。
一方で全て自然素材にしているかといえば、機能や価格を考えて自然素材を見送った部分もあります。例えば窓は全て樹脂サッシにしています。自然素材重視という事であれば、木製サッシの方がより自然に近いものですが、価格が高額だったということと、断熱性や耐久性などを考えた場合に不安があったため、機能を重視して樹脂サッシにしました。
樹脂サッシの樹脂とはプラスティックの事ですので、自然素材からは大きくかけ離れています。エコと言う観点から見ればお勧めできないものだと思いますが、その分長く使えたり、断熱性が高いことで冷暖房費を抑えられたりするのであれば、最終的はエコとなるのではないかと思い、この選択をしました。
これが本当に正解だったかどうかは今でも分かりません。ただ、自分で色々な情報を集め、人から話も聞き、最終的にエコ度合いや快適性、経済性を考えた結果、このような選択になりました。
このサイトをご覧になっているあなたも、エコについては興味があるので、このページをご覧になっているかと思います。エコについては一言でこれがエコだと言い切るのは簡単ではありません。少なくとも私にはできません。
ただ、できないからと言って考えを放棄するのではなく、何がエコなのかを考え、自分で思うエコ、自分でできるエコを実際に試しつつ行っていくのが良いのではないかと私は考えています。
この記事の内容の一部を動画で説明してみました
このページでお話ししました内容の一部を動画でも解説してみました。その動画がこちらです。
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