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2016年8月27日にNHKで放映されている「週刊ニュース深読み」で耐震に関する番組が放映されました。「あなたの家は倒れない?地震から命を守る」というタイトルです。

視聴者対象は、これから家を買う人ではなく、実際に古い家に住んでいる方が対象となっているようで、今住んでいる住まいをどう安全にするかという切り口で作られた番組でした。

内容自体はとてもまっとうですし、耐震化が進むこと自体は私も賛成ですが、一方でこの内容で問題はないのか、と不動産屋的には違和感を感じます。このページでは、番組を見て感じたことを少しお話ししたいと思います。

経済性をあまり考えない押しつけがましさが好きになれません

番組を見て感じたのは、解説者の方々はあまりにも経済性を軽視し過ぎていると思われる点です。耐震改修工事の費用の平均は150万円と言われており、この金額を安いと解説者の方は主張されます。車だって150万円位はするし、車は買えて工事が出来ないはずはない、というような主張もありました。

自動車は必需品

車が無いと生活が不便なエリアはたくさんあります。

何やら車が趣味のもののような話の展開でしたが、エリアによっては車は必需品で、決して贅沢をするために買っているものではありません。それに年金生活となり、今後大きな収入が無いという方は車に150万円もかけません。軽自動車であれば、100万円を切る価格帯のものもありますし、中古車を買うという選択をされる方もいます。そして車が無いと生活が本当に不便なエリアでは、車を買わないという選択肢はあり得ません。

安全が買えるのだから150万円は安いじゃないか、的な発言は裕福な方の上から目線のようで、あまり良い感じではありません。

また建物の3要素として挙げられたのは「強・用・美」の3点との事で、これは安全性、利便性、美しさの3点が建物の要素だと言われていました。私も不動産は3つの要素で決めるべきとの主張ですが、その主張の中には経済性も入れています(「失敗しない不動産購入」参照:当社では利便性と美しさは快適性と1つにまとめて分類)。

技術系の方から見れば、経済性は重要ではないのかもしれませんが、不動産屋から見ますとこの経済性は安全性に負けない位重要な要素です。経済性の感覚が無く語られる内容は、どうしても白々しく感じる事があります。

横柄な態度

いいからやれ、的なニュアンスを感じたのは私だけでしょうか。

理想論ややるべき論を展開されても、実際にお金を払う人が賛同しないのであれば、耐震改修工事は進まないでしょうし、もし政府もこのような認識であれば、今後もあまり進まないだろうと思わされました。

補助がありますと何度も主張されますが、その補助の内容は十分とは思えません

番組内では、自治体の85%が耐震診断や耐震補強に補助を出していると説明していました。自治体によっては、耐震診断の費用100%すべて負担する自治体もあるとの話です。その内容自体は間違いではありませんが、千葉に住んでいる私からしますと、補助の内容はそれほど優れている印象がありません。

実際に千葉市や周辺の自治体の補助内容を調べてみますと、耐震診断については、
千葉市   耐震診断に要する費用の3分の2。ただし4万円が上限。
習志野市  耐震診断に要する費用の3分の2。ただし6万円が上限。
船橋市   耐震診断に要する費用の3分の2。ただし6万円が上限。
八千代市  耐震診断に要する費用の3分の2。ただし6万円が上限。ただし先着10件のみ。
となっています。

耐震診断費用がいくらかは依頼する会社によって異なりますが、仮に8万円位だとすれば、千葉市は4万円、他の市では2万7,000円程度が持ち出しとなります。安いと言えば安いのかもしれませんが、調べるだけで4万円です、と言われた場合、年金暮らしのお年寄りがすぐにうんという額でもありません。

私見では耐震改修工事の予算を割り引いても、耐震診断は完全に無料にすべきではないかと思っています。まずはどの位耐震改修工事を行わなければならない家があるのかを把握しないと、自治体も今後の対策を立て難いと思うのですが、どうでしょう。このあたりは自治体に考えて欲しいところだと思っています。

壊れた家

耐震診断が無料で、問題があると分かれば、改修についても少しは考えると思うのですが。

もう1点不満を言いますと、この耐震診断の補助金は、診断者が一定の条件を満たさないと補助金が出ないというシステムになっています。千葉市であれば、診断者は事前登録が必須となっており、その事前登録の条件は千葉市に事務所がある会社に勤務している事、など本来診断能力とは関係が無い要素も入っています。

心配だから知人の設計士に見てもらいたいと思っても、その知人が他の市町村で働いていれば、その方の診断を受けても(診断自体がきちんとしたものであっても)、補助金は出ないというシステムです。

適当な耐震診断をされると困るため、きちんとした人に診断してもらいたいという基準は必要だと思いますが、本来事務所が同じ市にある必要はないでしょう。このような点にもこの制度の不備を感じますし、また本気度合いを感じない部分でもあります。

次に耐震改修工事の補助についてみていきましょう。

千葉市   工事管理費の2分の1。限度額60万円。
習志野市  耐震改修工事に要する費用の3分の1。限度額50万円。
船橋市   助成対象費用の3分の1。限度額70万円
八千代市  耐震改修の工事に要した費用の3分の1。限度額40万円。
と、なっています。正確に言えば、工事の設計費や監理費は別扱いになっていたり、年収によって補助の内容が変わってきますので、正確な話は、各自治体のサイトをご確認ください。

もし耐震改修工事が150万円かかるとすれば、持ち出しは80万円から110万円となります。番組の中では車と比べれば安いくらいでは、というコメントもありましたが、個人的にはとても安い金額とは思えません。

お金のイメージ

補助はありがたいですが、十分かと言われると…。

番組内では、完全無料の自治体もある、結局は安くなる、との主張が何度もありましたが、千葉周辺に住んでいる身からすれば、それほど安いとは感じにくいのが実情です。

耐震改修工事を行えば結局は安いという考えの中にも間違いが見受けられます

また、番組内では耐震改修工事を行った方が結局は安い、という話が出ていました。その根拠として、耐震改修工事を行えば150万円で済む、しかし地震で建物が壊れれば、解体撤去工事に100から200万円、更に新しく建物を建てたり直したりするのに1,000万円以上かかるから、という理由を説明されていました。

ですが、その時点でお年寄りが1人でお住まいの戸建住宅は、将来お子さんたちが住む予定が無い建物であるケースがほとんどです。将来その建物に住む予定であれば、既にリフォームしたり、建て替えしたりして、耐震についても対策を立てている事が多いでしょう。その時点で耐震について放置されている建物は、将来利用する予定が無い建物である可能性が高いと思われます。

その場合、仮に地震が起きなくても、住んでいる方が亡くなれば、その土地と建物は売りに出されます。旧耐震の建物を使い続けようとする方は多くありませんから、更地にして新たに家を建てようと考える人がほとんどでしょう。

つまり耐震改修工事を行っても行わなくても、その建物は解体される建物なのです。そして、地震があった時の解体撤去工事費と地震が無かった時の通常の建物解体工事費がそれほど大きく変わる訳でもありません。

建物解体工事

将来住まない家は、結局は解体することになります。

つまり経済性だけを見た場合では、むしろ耐震改修工事を行う方が、その費用分だけ損をする可能性が高くなります。もちろん住んでいる方がいる期間の安全性が買える訳ですから、これを損と言って良いかどうかは分かりませんが、経済性だけを考えると損をするとも言えます。

一般的には、安全性は何よりも大事なのでお金には換えられません、と言われます。ですが現実では、安全も費用とのバランスで決まる事の方が多いと私は感じています。このようなお金の問題をあまり考えず、あるいは間違った考えで、経済的に得だからと主張される番組の趣旨には、ちょっと賛同できませんでした。

耐震改修工事で利用価値は高くなりますが資産価値はあまり変わりません

番組内では資産価値の話は出てきませんでしたが、これも重要なポイントですので触れておきたいと思います。耐震改修工事を行う事で、確かに地震には強くなりますから安心度合いは上がります。ですが150万円かけて工事を行った場合、その建物の資産価値が150万円上がるかと聞かれると、そんなことはありません。

耐震補強工事を行ったとしても、旧耐震の建物であれば築35年以上の物件である事には変わりはありません。そして中古市場では、築35年以上の建物はほとんど価格が付かないのが実情です。仮に価値が上乗せされたとしても数十万円単位で、かけた費用分の価値が上がる事はあまり考えられません。

そしてこれらの建物の大半は住んでいる方が亡くなるとともに解体される建物です。ではこの150万円の費用は何かといえば、その期間内に地震が起きた場合に死なないための保険料のようなものです。この保険にいくら出せるかを考え、最終的にはお金を出さない、つまりは耐震改修工事を行わないと判断される方は、一定数以上いると思われます。

生命保険

何にお金をかけ、何を遺族に残したいかもその人の考えです。

耐震診断や耐震改修工事はやった方が良いのはもちろんですが

繰り返しになりますが、私は耐震改修工事をするなと主張しているのではありません。耐震診断も耐震改修工事も出来る限り行った方が良いと思っています。ですが、今回の番組であったような、やるべき論で上から目線で話をされたり、経済的に損をする可能性が高いのに、得をするかのように話し、工事をさせようという流れには少し嫌悪感を感じます。

建物補修のイメージ

耐震改修はやる方が良いのは確かなのですが…

ただ、不満ばかり述べて改善策を出さないのはいけませんので、私なりに自治体に対して改善策を述べたいと思います。

まず耐震診断の料金は、すべて自治体が負担し、利用者は無料にすべきだと思います。耐震改修工事の予算を回してでも、診断は無料化すべきです。タダであればやろうと思う人も出てくるでしょうし、実際に診断結果が出た後にどうするかは所有者の考えにもよるでしょうが、問題があるとはっきりと分かれば、工事をしてみようと考える人も出てくるでしょう。

自治体も予算が潤沢ではないでしょうから、一定の予算枠を決めて先着順で予算を使い、使い切ったら後は来年という形でも構わないと思います。まずは問題があるという事を、古い建物の所有者に強く理解してもらわないと、工事の意欲も湧かないでしょう。

次に耐震改修工事費の補助ですが、千葉市周辺の自治体では、総工事費の何割までと工事を依頼する人にも必ず一定金額を支払わせる制度になっています。これを工事費以内であれば一律の金額を補助する形に変更する方が良いと思います。それであれば、自分でお金を払わない範囲内で何か耐震補強を行おうとする人も出てくるでしょう。

耐震改修工事の150万円はお金に余裕が無い人からすれば高過ぎます。金額が高いが故に全く工事を行わないのであれば、完全な耐震改修工事でなくとも、出来る範囲内でも行う方が良いと思います。現在の耐震改修工事では、評点が1.0以上になる工事でなければ認められない事が多いでしょう。しかし、評点1.0を目指すと金額が高くなります。ですが、これが、0.7や0.8でも良いとなれば、もう少し安く工事が出来ると思われます。

屋根を軽いものに

屋根を軽くする工事だけでもOKとするとか…

完全に基準を満たさなくとも、少しでも効果がある工事であれば補助を出す、一定金額までは100%補助するという形であれば、実際にお金が出ない範囲で工事を行おうとする人も増えるのではないかと思います。

耐震改修工事の結果が0.7では意味が無い、と考える人もいるかもしれません。ですが、この評点は1.0であれば絶対に壊れない、0.7であれば絶対に壊れるというものではありません。評点が高くなれば、確率的に壊れない可能性が高くなるだけです。地震によっては、0.5では壊れるけれども0.7では壊れないという地震があるかもしれません。

耐震改修工事が100%進まないのであれば、70%分の改修でも良いから進める方向にするという考えがあっても良いと思います。自治体の制度を考える方は、現状の耐震改修工事の進み具合を見つつ、どのような補助制度であれば耐震改修工事が進むのかをもっと深く考えてもらい、対処策を出して欲しいと思います。

上から目線のイメージ

自治体や政府も、やるべき論ではなく、効果が出そうな施策をもっと考えてもらいたいと思っています。

このページでお話ししました内容は、ふくろう不動産の意見でしかありません。これが絶対に正しいという話ではありませんが、耐震改修工事については、単に上から目線でやらない人が悪い、という話で終わって欲しくないため、このような記事を書きました。

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