木造住宅の実際の寿命はどの位と考えるべきでしょうか~世間一般のデータに惑わされないために

当社によくある質問に、木造住宅の本当の寿命はどの位ですか、というものがあります。この疑問が出るのはもっともなことで、世の中で言われている木造住宅の寿命についての説はよく分からないものが多いからです。例えば木造住宅の寿命が22年ですとか27年ですと主張されているものも珍しくありません。その一方で築30年以上の木造住宅も普通に売られており、何が正しいのか分かり難くなっています。

そこで今回は木造住宅の本当の寿命について考えた内容を記事にまとめてみました。

税法上の寿命は22年ですが、現実とは大きくずれがあります

木造住宅の寿命の説で一番短いものとして22年説があります。これは法定耐用年数と呼ばれるものから来ており、何に使うかと言えば、主に税金の計算をする際に減価償却費をいくらにするかという計算の根拠として使われます。木造住宅の住宅(用途によって法定耐用年数は異なります)では、これが22年と設定されており、今の基準は1998年(平成10年)に設定されています。

昔の木造

この時代の建物であれば確かに寿命は22年かもしれませんが…。

この法定耐用年数は建物の構造や用途によって年数が決められています。詳しくは「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一)出典:東京都主税局」等でご確認ください。

ただこの年数は、減価償却をどうするかの計算で用いられているだけの設定年数で、現実の寿命とは全く関係がありません。なぜこのような年数の設定となったのかは正確には分かりませんが、現状の築22年以上経過している建物に問題が無い事を考えますと、この数値をもって寿命だと考えるのはおかしな話だと思います。

この法定耐用年数は投資物件でなければ考える必要は無く、居住用の不動産を買おうと考えている人には本来何の関係もありません。一方でこの話が良く出るのは、マンションの営業マンやRC造が良いと考えている人たちが木造住宅22年寿命説をよく使うからです。

彼らの主張によりますと、「木造住宅は国が寿命を22年だと設定している。それに比べてRC造は47年と設定している。国がRC造の寿命は木造の2倍以上だとしている証拠である。だからRC造は本来木造住宅の2倍の価格でもおかしくはない。現実は2倍よりも安いのでRC造の方が得である」という事になります。こういった意見に対しては、私はただのセールストークだと思っています。

建物の物理的な寿命や社会的な寿命は、自然条件や利用のし易さ等で決まる事であって、国や自治体などが決めるものではありません。ただ税金の計算をするのに何らかの設定が必要だったというだけです。そして実際には異なる結果が出ている点を無視して、この法定耐用年数から寿命について語るのは意味が無いと私は考えています。

統計データと戸建住宅の実際の寿命は異なる事を知っておきましょう

他の統計データ等で、日本の木造住宅の寿命は27年とか30年という話を聞いた方も多いと思います。最もよく聞く話としては、日本の住宅は30年、アメリカでは103年、イギリスでは141年と日本の住宅の寿命が極端に短いという話です。資料によってはこの年数に多少の違いは出るのですが、概ねこれに近い数値になっていると思います。

しかし問題なのは、この数値がどのような集計方法で計算されたものなのかが良く分からない事です。これが本当に適切な集計方法で計算されているのであれば良いのですが、正しいデータが見当たらないため、判断ができません。

上記の国毎の建物の寿命についてはサイクル年数法という集計方式ではないかとの話があります。このサイクル年数とは、現在ある建物の総数を、新たに建設される建物の数で割る、という計算方法です。例えば住宅の現在の数が5,000万戸あったとして、年間の戸建住宅の建設数が100万戸あったとしますと、建物の平均寿命は50年という計算になります。

先程の日本の住宅の寿命は30年という数値は、このサイクル年数法で導き出されているとの説を読んだことがあるのですが、元データが何であるかの確認が取れませんでしたので、この話も正確なのかどうかの判断ができません。

私の調べ方が悪いのかもしれませんが、この住宅の寿命についての根拠が分からないのに、結果だけが世間一般に流通しているのは問題ではないかと思います。

また別の寿命の計算方法として、滅失建物の平均年齢を見るというものもあります。つまり壊した建物だけを取り出して、その建物が築何年だったかを調べ、その平均をもって寿命と考える計算方式です。1996年の建設白書による建物の寿命の計算は、どうやらこの方式で計算されたもののようで、その時点から過去5年間に壊された建物の平均築年数で計算されているとの資料がありました(出典「住宅の寿命について(早稲田大学:小松幸夫)」。

解体

壊した建物のみで計算する方式もあります。

この資料によりますと、日本の住宅は寿命が26年、アメリカが44年、イギリスが75年とされています。これでも日本の住宅の寿命が短い事は確かですが、一方でイギリスの住宅寿命が先程のデータの半分ほどしかなく、いったいどのデータの信ぴょう性が高いのか、さらに分からなくなる気がします。

この滅失による建物データは一見正しそうですが、壊された建物のみを調べており、かつそのデータがすべての建物を網羅していないという事が問題です。つまり建物の寿命ではなく、何らかの理由で壊された建物のみのデータを拾っており、その調査の年数が十分に無いため、古くから残っている建物の年数がカウントされないからです。この調査が50年とか100年続けば、正しい数値が出るようになりそうですが、今のところ偏った数値しか出てこないという点が難点です。

今回様々な資料を見て感じたのは、こういった元データや内容を確認することなく、日本の住宅は寿命が短い、という結論ありきで、後は勝手に様々な理由を付けている情報が多いなという事です。このサイトの記事を書くために、いくつかサイトをチェックしましたが、まっとうな理由が書かれているものをあまり見つけることができません。この辺りは情報リテラシーの話になりますが、こういったデータがあるからこうである、という話は、その元になるデータが本当に正しいのか、チェックする習慣を身に付ける事が重要であると思い知らされました。

木造住宅の寿命は65年というデータが信ぴょう性が高いと感じます

ではもっと確からしいデータは無いのかと探しましたところ、国土交通省の資料で木造住宅の寿命についてのデータ報告がありました(出典:「指針参考資料5 建物の平均寿命について(国土交通省)」)。この資料によりますと2011年の調査では木造住宅の平均寿命は65.03年となっています。この集計は早稲田大学の小松幸夫教授が調査された結果から算出されているようです。

古民家

実際の寿命は65年という説が一番しっくりきます。

この集計方法は区間残存率推計法と呼ばれる方式で計算されており、これは人間の平均寿命や平均余命を計算する際にも用いられる考え方のようです。詳しくは原資料である「建築寿命の推定:早稲田大学;小松幸夫(建築雑誌 2002 年 10 月号(Vol.117 No.1494)掲載)」をご確認ください。

私見ではこの数値が最も現実に近いように感じます。ちなみにこの調査は定期的に行われているようで、この前の調査時である1997年時点では木造住宅の寿命は43.53年となっていました。別の資料と照らし合わせたところ、この年数は恐らく東京を除いた47都市の調査結果と思われ、これに東京も含めた平均寿命では41.16年となっています。

余談になりますが、同じ1997年の調査でRC造の共同住宅、つまりはマンションの平均寿命も載っていましたが、その寿命は43.44年となっていました。驚くことに木造住宅と寿命の差があまりありません。先程の木造住宅の寿命が65.03年とした2011年の調査では、RC造の寿命は68年と延びているようです(出典「「中古住宅流通促進・活用に関する研究会」報告書
(国土交通省)」が、それでも木造住宅との差があまり無い事に驚きます。

データの集計方法等の違いで、色々な意見が出てきますので、元データを確認しつつ、本当に正しそうなのは何であるのかをご自身で確認された上で、寿命がどうなのかを考えるべきだと思います。

私見では今の住宅は80年近い寿命があると思っています

ここから先は完全に私の個人的な意見で、何ら根拠があるものではありません。その上で聞いて頂きたいのですが、今の技術(2019年時点)で作られる木造住宅で、設計や施工に不備がなく、適切なメンテナンスを行っているのであれば、寿命は80年以上はあるのではないかと思っています。

カレンダー

今の建物であれば80年くらいは大丈夫ではないかと思います。

2011年の調査で60年近くある事を考えますと、今の建物はもっと寿命が長くなるような造りになっています。例えば地面から1階の床までの高さですが、20年前の建物と比べると高さが高くなっています。つまり基礎の高さが高くなっているという事です。

基礎の高さが高ければ、その分シロアリや地面の湿気による腐朽菌に建物がダメージを受ける可能性が減ります。さらには今の木造住宅の土台は、ネコ土台(基礎パッキン)等で木材が乾燥しやすい設計になっており、これによりさらに寿命が延びるのではないかと予想しています。

公益社団法人日本木材保存協会の見解では、「木材の劣化は経年と共に生じるものではない。腐朽や蟻害が生じる環境、すなわち水分環境が整った後に初めて劣化が発生する」としています。逆に言えば、水分環境が整わない状況を保てば、具体的には雨水が木部に触れないような設計や、木材が乾燥しやすいような設計・施工を行う事で、住宅は劣化しにくくなる、という話になります。

そして現在の木造住宅は例外もあるとは思いますが、大半の建物は木部を濡らさず、乾燥しやすい造りになっています。また長期優良住宅の認定を受けている建物であれば、設備等の配管も交換しやすい造りになっているでしょう。

後は基礎コンクリートがどの位の強さで作られているかにもよりますが、仮に呼び強度が24Nだと仮定しますと、使える期間が100年位、実際にはもう少し短いとして、80年位はいけるのではないかと考えています。

こういった意見には異論や反論も多いと思います。また実際に現在の建物のレベルで80年間利用した建物が無い以上、仮定の話でしかありません。ですのでこの記事を読まれた方も、記事内容をそのまま信じるのではなく、ご自身で考えて頂き、その上で建物はどの位持つのだろうかと考え、最終的にどういった構造の建物を建てるのかを決めて頂くのが良いと思います。

この記事の内容を動画でも説明してみました

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