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ここ数か月、新国立競技場の施工費やその後の維持管理が高すぎるという話題が色々なところで盛り上がっているようです。私はただの不動産業者の1人ですので、この問題の根本ですとか責任問題などについて何か語ろうという気持ちはありません。

ただ、この問題を見たり聞いたりしていますと、一般の戸建住宅建設にも相通ずるところがあると思えましたので、その内容についてお話ししたいと思います。

少し強引にこじつけている部分もあるかと思いますが、その点はご容赦ください。

競技場のイメージ

新国立競技場問題を戸建住宅に通ずる問題とつなぎ合わせてみました。

新国立競技場の問題のうち、3つに絞って考えてみます

新国立競技場の問題は色々な要素を含んでいますが、大きな問題は
1.完成がオリンピックやラグビーのワールドカップに間に合わないのでないか
2.建設費が二転三転しているが、なぜ一般の競技場の何倍も費用が高いのか
3.維持費も大きいため、未来に負の遺産を残すのではないか
という3点が大きいように思います。

新しい技術は技術と経済の両方に問題を残す可能性が高いようです

この問題のうち、1.の工期が長いという点と2.の建設費が高いという理由の大半は、デザイン上のキモである、キールアーチがあるからだと思います。

キールアーチが無ければ費用と工期の問題はほぼ満たせると思われます

アーチのイメージ

小さなアーチであれば問題にはならないのでしょうが…

新国立競技場では2本のキールアーチが特徴で、これが無ければ正直他の競技場とデザイン上の区別が付かないかもしれません。ですのでデザイン重視の方であれば、これは絶対に外すわけにはいかないと考えるのでしょう。

ですが、世界の他の建築物を見ても、長さ400mにも及ぶ巨大なキールアーチは恐らくありません。キールアーチ自体は珍しいものではないと思いますが、せいぜい長さ100m位までのものしか無いと思います。

そしてこのキールアーチを支えるには、アーチの両端をしっかりと固定するか、アーチが広がって崩壊しないように、地下に梁的なものを入れるなどの工事をしなければなりません。

今までこのサイズでそのような建築物を作った例は世界には無く、そのためどういった問題が起きるのか、どのくらい費用がかかるのかは、実際に作ってみないとはっきりしないと思います。

そのため、費用や工期も確実なところは分からず、また何か問題が起きると工期も間に合わない、という話になっていると思われます。

新しい技術は導入時には色々な問題を引き起こします

新しい技術のイメージ

新しい技術は使ってみないと問題や費用は分かりません。

新しい技術は1度作って、かつ使ってみないとその問題は正確には分かりません。これを戸建住宅でも該当する例は多くあります。

古い例ではホルムアルデヒドなどによるシックハウスの問題です。昔の日本の住宅であれば、壁は板張りか土壁で、材料自体も昔から使っていた材料で仕上げをしていましたので、シックハウスの問題は出ていませんでした。

これが塩ビクロスが開発され、一気に普及したことで、急にシックハウス問題が出始めました。塩ビクロスの使用当初は、貼り付けで使う接着剤の成分や、クロスそのものに使う可塑剤などが人の健康に影響を与えるかもしれないとは誰も思わなかったでしょう。

今でこそシックハウス問題は一般的にも認知され、材料や換気システムの導入などで問題自体は少なくなっていますが、この対策が法律で定められるまで20年以上の年月がかかりました。この期間、新たな技術である塩ビ壁紙を入れた家は、結果的にシックハウス問題の実験台となってしまった訳です。

シックハウス問題については「3-02-22.シックハウスはもう無いと思っていませんか」のページも参考にしてみてください。

今の状況ではオール電化住宅などは、問題が解決していない部類の建物だと思っています。例えば以前よりは良くなりましたが、太陽光パネルを屋根に設置したため、雨漏りの問題が起きたり、構造上弱くなったりということが結構ありましたし、今でもゼロではありません。

太陽光発電の問題については「4-02-02.太陽光発電システムにはデメリットも多くあります」のページもご覧ください。

またエコキュートが普及したことで、低周波音被害の話を良く聞くようになりました。これも作られた当初は騒音(A特性)も抑えられ、使うエネルギーも少なくて良い、と考えられており、低周波音で問題が出るとは誰も考えていなかったと思います。

低周波音問題については「低周波音の問題が少しずつ分かってきました」のページもご参照ください。

ですが、新しい技術は予想しないところで問題を引き起こします。これが予算や工事が充分にあり、技術的なチャレンジをするものであれば良いのかもしれませんが、一般的な住宅であれば、なるべく枯れた技術、今までに確立された技術を組み合わせて建てるのが危険が少ないと私は考えています。

デザイン優先ですと、他の部分に問題を起こす代表例かもしれません

デザイン重視のイメージ

公的な建物はどうしてもデザイン重視になりがちですが…

話を新国立競技場に戻しますが、著名な建築家である槇文彦さんなどのグループは、このキールアーチを止めれば、費用も浮くし工期も問題ないと主張されており、恐らくその通りだろうと思います。

この真っ当だと思われる案がなぜ通らないのかと言えば、ここまで関係してきた人のメンツや、デザイン上の理由が大きいのでしょう。

この話を戸建住宅の問題に当てはめますと、デザインをあまりにも重要視するために費用がかかり、建物性能が大きく落ちるというケースに当てはまるかと思います。

戸建住宅の場合は、一般的な仕様を守って作る建物であれば、構造計算などは行いませんので確認申請も時間はかかりませんし、施工者も作り慣れた建物を建てるのであれば、それほど長い工期にはなりません。

これが奇抜なデザインの建物を考えた場合、構造の見直しなどが必要となることもあり、設計や確認申請などでも時間がかかります。また慣れない施工となるため、工期も長くなります。建設費用は工期と深く係っており、工期が長いとその分人件費も上がり、結局建設費も高くなります。

さらにデザインが奇抜ですと、その分施工ミスの確率が高くなり、建物の性能が落ちます。例えば複雑な基礎形状の建物を作ると、鉄筋の配筋は面倒になり、間違えて施工される率は高くなります。

また基礎の型枠の設置も複雑化すると、コンクリート打設で失敗する率が高くなります。型枠が複雑ですと、必要な場所にコンクリートが流し込まれない可能性が高くなります。さらに、コンクリートが型枠内に回らないことを避けるために、コンクリートの流動性を高くしますと、その分構造耐力は落ちます。

こういった調整が現場のみで勝手に行われると、具体的にはコンクリートを流しやすくするために水を増やして施工すると、言わゆる欠陥住宅となります。ですが、このコンクリート打設が問題であるかどうかは、完成してしまうともう分かりません。

本来であれば設計者は、こういった現場のミスが少なくなるような設計を行うべきなのですが、デザインにこだわり過ぎると、逆に施工しにくい建物を設計することが多くなり、結果として建物性能を落とすことになりがちです。

そもそも今の住宅の形は色々な理由はあるものの、あるべくしてその形に収まっています。この形を大きく変更するということは、それなりに危険があるのだということを設計士はもちろん、建物を発注する皆さんにも知っておいてほしいと思います。

当初のコンセプトで欲張り過ぎると結局すべてがダメになるという典型例かもしれません

あれもこれものイメージ

すべての条件を満たせる、ということはめったにありません。

新国立競技場問題では問題の1.と2.は新しい技術を入れたいから、というお話をしました。この問題の2.と3.では新技術の問題もありますが、当初のコンセプトにも問題があったのではないかと思います。

当初のコンセプトとは、何にでも対応できる競技場・施設にしたいという考えです。具体的に言いますと、サッカーと陸上競技と音楽コンサートのどれにも対応できる施設にする、という考え方です。

陸上競技ではトラックはもちろん練習用のサブトラックが必要です。ですが、サッカー用途を考えると、サブトラックは必要ありませんし、トラックがある分観客席とピッチとの距離が遠くなり、スタジアムとしての機能は低くなります。またサッカーの場合は、ピッチ上に当然芝生が必要ですので、日が当たる必要があります。

さらにこれがコンサートでも使えるよう考えると、音や天候の影響を受けないように屋根が必要になります。

これらの条件をすべて満たそうと考えたために、通常は無駄と思えるもの、または維持費が異様にかかるものが提案されることになります。

例えば開閉式の屋根がそうです。
・サッカー場には自然芝が必要なので日光を入れるべく屋根は不要
・コンサートホールは雨が問題で、音も外に漏れないように屋根が必要
と、逆の条件が必要になります。そのため開閉式の屋根がいる、という流れになります。

また可動式の観客席もそうです。
陸上競技はトラックが必要
サッカーではトラック不要
この流れから、では観客席を動かせればよい、という流れではないでしょうか。

こういったすべての条件を満たそうと考えることで2.の建設費用と3.の維持費が大きく上がることになります。開閉式の屋根自体高いですし、メンテナンス費用も固定式の屋根と比べてはるかに高くなります。

観客席についても同様です。稼働を電動にした場合にはメンテナンスが高額ですし故障の恐れも出てきます。

余談ですが開閉式の屋根は多くの野球場や競技場で使われているようですが、その大半は経済的に失敗しているようです。そのため開閉自体を止めたという競技場もあったはずです。コンサートでも使うという事を最初からあきらめていれば、このような設計になることは無かったでしょう。

年に数回しか使わない機能はありませんか

花火とビール

自宅の屋上にビアガーデンを作っても、年に何回使いますか?

こちらも強引に戸建住宅で似たケースに当てはめてみましょう。新国立競技場では年に数回しか使わないためのコンサート用に多額の建設費と維持費がかかることになりそうです。戸建住宅でも年に数回しか使わない設備などがあり、そのために多額の費用や問題がでるのであれば、その機能が本当に必要なのかは最初に考えておいた方が良いと思います。

例えば屋上やウッドデッキあたりが該当します。家の近くで毎年花火大会があり、屋上をビアガーデンにして花火を見られるようにしたとしましょう。当然屋根は傾斜屋根ではなく陸屋根になりますし、歩行ができるように屋根面も強化しなければなりません。

このための費用は通常の屋根と比べて高額になりますし、屋上防水などのメンテナンス費用も、一般的な傾斜屋根よりも高いことが多いでしょう。年に1度の花火大会のために、本当にその機能が必要なのかどうかは、費用のバランスで考える必要があります。

もちろん年に1階のイベントだからダメと言う話ではありません。費用対効果を考えましょうという話です。新築の場合は、どうしても色々な機能を入れたがります。ですが予算が限られている以上、常に費用対効果を考えなければなりません

ウッドデッキもBBQ用に作ったは良いけれでも1年に1度くらいしか使わないという話は良く聞きます。メンテナンスのための塗り直しの手間暇の方が、使っている時間よりも長いということはよくあります。

設計段階であれもこれもと機能を盛り込んでいくと、結果的に損をするということは良くあります。この新国立競技場の話を単にダメな例だと考えず、自分にはどう当てはまるかを考えていきたいと思います。

ふくろう不動産は皆様からのご意見を随時受け付けています

新国立競技場については、私自身も思うことはたくさんあります。ですが、その個人的な意見よりは、まず実際の自分の生活で参考になる部分はないかと考えたところ、戸建住宅の建設時に考えることと重なることが多いと思い、今回このようなページを作りました。

新国立競技場についての話は私も詳しい訳ではありませんので、間違っている内容や意見もあるかもしれません。もし内容に問題があるようでしたら、当社までお知らせいただければと思います。

ふくろうのイメージ

新国立競技場問題から何か学べるものはないかとふくろう不動産は考えてみました。

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