風力発電の本を読んで低周波音被害が理解され難い事を再認識しました

当社は不動産会社ですが、住まいや環境が住む人の健康などに影響を与えないかどうかという点をとても気にしています。そのため、環境などに関する本も定期的に読んでいるのですが、今回は風力発電の本を読み、その本に書かれた低周波音被害の部分を読み、低周波音問題はなぜ誤解されやすいのかについて、感じるものがありましたので、備忘録代わりに記事にしたいと思います。

読みました本は風力発電を勧めたいという方の本です

今回読んだのは、次の本です。

タイトルからも分かるように、著者は基本的に風力発電推進派という立場のようです。風力発電は今後の日本のエネルギーを支える柱の1つになる、と主張されています。海外の風力発電事情なども紹介されており、風力発電業界というものを知るには良い本なのではないかと思います。

一方で、騒音・低周波音についての記述を見ると、問題はない、というスタンスです。問題ないとする根拠は、
1.そもそも風力発電の風車は低周波音を出していない
2.低周波音は人の健康に影響を与えない
という2点です。

ただこの根拠となる1.と2.の話は、あまり論理的ではないと思われましたので、その点について述べたいと思います。

風力発電装置は本当に低周波音が出ていないのでしょうか?

A特性の数値を見て低周波音が出ていないと主張しているように見えます

まずは1.のそもそも風力発電装置は低周波音を出していない、という根拠から考えたいと思います。この低周波音が出ないという根拠として、計測グラフを出しています。このグラフは中野環境クリニックのデータを引用しているようです。同じグラフをサイト上で見付けましたので、そちらを見てみます。

風力発電装置発生音波の感覚的表示(愛知県田原市)

出典:中野環境クリニック

このグラフを見ますと、低周波音が出ていないように見えます。ただ、グラフを良く見てみますと、左側にA,G特性音圧レベル、と書かれています。つまりこれは音圧を補正した後の数値です。

A特性とは人間の耳の聞こえ方に近い感覚となるように、周波数によって音圧の数値を補正したものです。言葉だけですと分かりにくいので、次のグラフをご覧ください。

A特性が分かるグラフ

出典:小野測器

この赤い線がA特性を示すグラフです。例えば、31.5Hzであれば、-40dBとなっています。ですので、仮に31.5Hzの音圧が60dBあったとすると、-40dBですのでA特性の表示では20dBになるということです。

ですので、31.5Hzの音圧がちょうど40dBだったとすると、A特性での音圧は0dBm、つまりは音が無かったことになります。

G特性についても考え方は同じです。より低周波音に沿った補正数値を設定しているだけです。G特性の補正数値はこちらです。

G特性の補正グラフ(環境工房出典)

出典:環境工房

考え方はA特性の場合と同じで、10Hzの場合は特に数値補正はありませんが、3.15Hzであれば-20Hzの補正が入ります。こちらの音圧が50dBであれば30dBと換算される訳です。

さて、ではもう1度最初の測定グラフに戻ってみましょう。

風力発電装置発生音波の感覚的表示(愛知県田原市)

出典:中野環境クリニック

このグラフの左側にはA,G特性音圧レベルと書かれています。ですが、周波数ごとの音圧がA特性による補正数値なのか、G特性による補正数値なのかが分かりません。最初は右側の点がLpAと書かれていたので、こちらがA特性で計算してまとめた音圧、周波数ごとの音圧はG特性で補正した数値なのかと思っていました。

ですが良く見てみますと、赤い線の16Hzの音圧は0Hzとなっています。G特性の場合は補正する前の音圧に+8dB近い音圧を増やす設定になっていますので、0dBはあり得ません。となると、この折れ線グラフも恐らくA特性で補正したグラフなのではないかと思われます。(この見かたは間違っているかもしれません。しかし間違っているのであれば、このグラフの線は何を示しているのか、意味が分かりません。しかし、G特性はいったいどこに反映されているのでしょう?)

もしA特性として補正した数値が入っているのであれば、16Hzの音圧は-52dBほど低く補正されます。という事は16Hzの音圧はゼロではなく52dBという事になります。

ですので、このグラフをもって低周波音は出ていないという結論は、根拠となるグラフ自体が間違っているので、意味がありません。低周波音の測定はA特性の測定で充分という意見は、単に中野環境クリニックの主張でしかありません。

そもそもA特性の音は超低周波音は人の耳に聞こえないので基本的にゼロとなるように、また可聴域の低周波音も聞き取りにくい音なので、とても小さく表示するような設定になっています。その小さく設定する基準で数値を出して、低周波音は出ていません、と主張しているのは、さすがに問題だと思います。

低周波音が人の健康に影響が無いという意見は結局聞こえないからという部分にのみ集約されます

聞こえるかどうかのイメージ

結局は聞こえない音は被害がないという意見でしかありません。

低周波音は人の健康に影響を与えない、という意見は色々な根拠が出されています。しかしその根拠は色々あるように見えて、実際には聞こえない音は健康に影響が無い、という意見がベースです。この意見が間違っていたとすると、全ての根拠は根拠ではありません。ちなみにこの意見にきちんとした根拠があるのかどうかも疑問です。

ページの前半で説明した低周波音は出ていないという説明も同じ考えで説明されています。最初のグラフを作成した中野環境クリニックの元の資料を読みますと、「平坦特性を用いた物理表示は誤解のもとになるので、一般騒音の場合と同様に、AおよびG特性を用いた感覚表示を用いるべき」と書かれています。

また、この資料の最後には次のように書かれています。「一部で言われているように、物理表示にすると低周波音が出ているように見えるので・・、などという意図的なことはあってはならい。現状では、物理的表示をしているものは何らかの意図があると考えてよいようである。また平坦特性測定結果を基に基準や測定方法等を定め、将来に禍根を残すことのないようにすべきである。」(出典:風力発電装置発生音波の感覚的表示-低周波音などでていないことが一目瞭然-:中野環境クリニック)

「物理表示にすると低周波音が出ているように見えるので」と書かれていますが、これは見えるのではなく、実際に物理的に低周波音が出ています。これをA特性やG特性にしている方が数値を変えているのであり、変えている方が変えていない方を意図的であるとするのは、何なのでしょうか。

これをわざわざA特性やG特性にしているのは人の聞こえ方、感じ方に合わせているからです。なぜその特性に合わせているかと言えば、結局聞こえるか、感じるかという部分で影響のあるなしを判断しているからに過ぎません。

これを花粉症に例えて考えてみましょう。私自身花粉症で毎年被害を受けていますが、花粉自体は見えません。またすぐにその場で症状が出る訳でもありません。一定期間花粉を浴び続け、吸い込んだ後に、花粉症の症状が出る訳です。

花粉は見えませんし(人によっては見えるという方もいますが)、聞こえませんし、空気中にあってもその有無は感じられません。ですが、実際に花粉を浴び続けていると症状が出ます。これが低周波音の場合は、なぜ聞こえないからと言って症状が出ないと断言されるのかが理解できません。

本来であれば、物理的に出ている低周波音のデータと、実際に被害を受けている方との関連性を調べ、検証を進めるのが科学的な立場での対応だと思います。

海外の事例を出して問題ないとしている主張もありました

風車のイメージ

次に2.の低周波音は人の健康に影響を与えない、という意見について考えたいと思います。この本の著者は、海外などの事例から、低周波音の問題は無い、と主張されています。具体的には

1.欧州諸国では騒音の規制はあるが低周波音の規制は無い
2.世界で普及している現実を見ると、何らかの折り合いが付けられる
3.風車の下に展望台がある例もあるが被害者は出ていない
4.世界中に運転や業務を行っている人がいるが、健康被害の話は聞かない
5.山形県の設置事例では問題は起きていない

などの事例を挙げています。

1.については、規制が無くても問題があるものはたくさんありますので、問題が無い根拠にはなりません。ちなみに海外でも風車の音が問題になっているとされるニュースを私は見たことがあります。

またアメリカやカナダでは低周波音は健康への影響は無いとしている、との記述もありましたが、この記述はアメリカやカナダの風力協会の主張です。風力発電を広めようとする団体の主張を根拠とされても、信頼性に問題があるのではないかと思います。

2.の折り合いが付けられるかどうかと、問題の有無とは直接関係はありません。これは問題があった場合の後の対処策の話でしかありません。

3.については、低周波音を受けている時間量が考えられていません。まず風車の下にある展望台に行く人は長時間その場所に滞在する訳ではありません。この短い時間で影響が出ないからと言って、長時間低周波音を受けた場合の影響が無いとは言えません

4.については、時間量と時間帯が考えられていません。低周波音で被害を受けている方の問題の何割かは、低周波音が気になって眠れない、というものです。風車の運転やメンテナンスを担当されている方は、この場所で寝泊まりしている訳では無いでしょう。本来睡眠時間に充てなければならない時間帯に低周波音を聞き続けるのと、仕事の活動時間帯だけ聞いている人と同列に比較はできないと思います。

5.については、本来もっと深く考えるべき問題だと思います。山形の事例では被害者が出ていなくても、他の事例で問題だとされているケースもあります。

ではなぜ違いが出るのか、住宅から風車までの距離が違うのか、地形によって音が異なるのか、被害を受ける人の体質に大きく影響されるのか、このような違いを調べて、問題となるのは何なのかを調べることが重要だと思います。単に1事例で被害報告が無いので、全ての事例で問題がないはず、と言う主張に論理性はありません

ふくろう不動産は風車問題とは何の関係もありません

ふくろうのイメージ

ここまで風車と低周波音問題について意見を述べてきました。ただ、当社はただの不動産会社です。また当社は首都圏を中心として活動しているため、今まで自分が関わった物件で、近くに風車があったという事例もありません。

ですので、ムキになって、これらの意見を否定する意味は無いのですが、低周波音被害を否定する方々の意見があまりにも酷い、あるいは論理性が無いと感じられましたので、今回この記事を書きました。

この記事は私個人の意見を述べたもので、内容に何か間違いがあるかもしれません。内容の間違いやご意見などがある方は、お手数ですが当社:ふくろう不動産までご連絡ください。ご連絡は「お問い合わせフォーム」のご利用が便利です。

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