新耐震木造住宅検証法について知っておきましょう
ここ数十年で建物の構造に関する法律は大きな変更が2回ありました。1度目は昭和56年(1981年)、2度目は平成12年(2000年)です。昭和56年以前の建物は旧耐震と呼ばれ、建物構造が弱い住宅となっていることが多いため、耐震改修工事の必要性が強く言われてきました。それと比べ新耐震、つまり昭和56年以降の建物については、構造上は問題は無いという前提で考えられてきました。
しかし昨年(平成28年)の熊本地震を受け、この2つの法律の改正の間に建てられた建物も、状況によっては問題になると分かってきたために、今回新たにこの期間の建物に対して、問題がないかどうかをチェックする方法が出てきました。それが「新耐震木造住宅検証法」です。
このページでは自分の考えをまとめる意味も兼ねて、この新耐震木造住宅検証法についてお話ししたいと思います。
平成12年の前と後でも基本的に求められている構造の強さに差はありません
平成12年(西暦2000年)の建築基準法の改定後と改定前では建物構造に大きな差があると考えられている方も多いかもしれません。ですが2000年の改正で求められている構造は、その前に要求されていた構造の強さと理論的には差はありません。
理論的には、と申し上げましたのは、実際には本来求めていた強度が、それまでの法律では抜け道が多く、結果として求めている強度が出なかったために、きちんと強度が発揮できるよう細かな取り決めを作った、というものが2000年の建築基準法の内容だと考えてください(厳密には違う部分もありますが、概ねこの解釈で問題ないと思います)。
そして、その細かな部分について、新耐震基準が導入された昭和56年から細かな取り決めをしなかった平成12年までの期間に建てられた建物について、このタイプは問題がありそうとか、この点を気を付けなければならないと分かった部分をチェックして、問題があるようであれば改修を考えましょう、というのがこの新耐震木造住宅検証法です。
2000年の建築基準法の改正の主なものは、バランスよく壁量をとりましょうという点と、金物をきちんと使いましょうというものがあるのですが、今回の新耐震木造住宅検証法でも、これらの内容がカバーできるようになっています。
逆に言いますと、この期間の建物であっても構造壁をバランスよく設置し、構造金物を使っている建物であれば、問題となる可能性が低いという事でもあります。
このような背景を知った上で、この検証法の内容を見ていきましょう。
建てられた時期とは正確には確認申請が出された時期です
前述しましたように、この検証法の対象となる建物は、新耐震が設定された昭和56年から、細かな規定が決められた平成12年までの間に建てられた建物です。
ただ、この設問ではちょっと誤解を招く恐れがあります。ここで言う建築時期とは建物の確認申請が出された時期です。昭和56年6月1日以降に確認申請が出された建物が対象で、建物完成の時期を示している訳ではありません。
例えば昭和56年5月に確認申請が出され、昭和56年12月に完成をした建物は旧耐震基準で建てられた建物です。終わりの時期も同様で、平成12年5月までに確認申請が出された建物が対象となります。仮に建物が平成13年1月に完成した建物だとしても、確認申請の時期が平成12年4月であれば、この建物も対象となります。
これは指針を出している日本建築防災協会ももちろん分かっている話ですが、一般の方に対して細かな話をしても分かり難いと考え、敢えて多少は正確でなくても良いと考えたのだろうと思います。
古い建物についてはツーバイフォーの方が構造的は安心度合いが高くなります
この木造住宅検証法は在来工法、つまりは軸組工法(構法)のみが対象となっています。
元々ツーバイフォー工法は、壁量について深く考えられていた工法です。そのため設立当初から壁量については十分と思われる量やバランスを取っていたために、今回は検証の対象になっていません。
逆に言いますと、この期間、古い建物であってもツーバイフォー工法の住宅については、一定以上の耐震性があるものと考えられます。更に言いますと、2000年以降については、ツーバイフォー工法であっても軸組工法であっても壁量は計算されていますので、ツーバイフォー工法だから構造が強いというものでも無いという話になります。
建物の形による判断は一般の人が見ても分かる項目です
一般の方がどういった点をチェックしなければならないかについては、日本建築防災協会のサイトを確認して頂くとして、ここではポイントをいくつかお話しします。最も分かりやすいのは建物の形についてでしょう。
建物は平面的にも立体的には四角形に近い形の方が構造的に強くしやすい造りになります。入り組んだ形になりますと、その変わった形の部分に力が集中してかかる事が多くなり、その部分が壊れやすくなります。この点については「3-02-05.建物の形状によって安全性に差が出ます」でも説明しています。
特に立体的に形が欠けている場合、具体的にはガレージ等を作るために、1階の壁が少ない建物は構造上あまり強い建物にはなり難くなります。私見ではこのタイプの建物はなるべく選ばない方が良いと思っています。
壁量の考え方も見てわかる重要ポイントです
壁量の考え方についても、ある程度見てわかる範囲でチェックしましょうという内容が入っています。
元々軸組み工法は、柱と梁で建物を支えようという考え方の構造なのですが、近年では壁全体で支えるという考え方が主流です。実際に建物構造は柱の太さよりも、構造壁の量で建物の強さを考えるという方向に変わってきています。
当社のサイトでも「3-02-06.建物の壁の量によって安全性は大きく異なります」のページで構造壁の重要性についてお話ししています。私は構造壁の率を25%を切るようであれば危ないと主張していたのですが、今回の検証法では30%以下であれば問題と、もっと基準は厳しくなっていました。個人的には良い傾向だと思います。
特に建物の南面は壁量が少ない建物が多いため、南面で壁の量が全体の3割も無いという建物がたくさんあります。窓が多い建物は日当たりや風通しは良いのですが、構造的には不安と思われますので、2000年以前の建物でこの条件に当てはまる建物であれば、耐震補強費も考慮した上で、買うかどうかを考えなければならないかもしれません。
在来浴室の不安がようやく公的なものになりました
後はようやくという感じですが、在来浴室のある建物についても不安であるという見解が出されています。この話は不動産業界やリフォーム業界ではほぼ常識と言っても良いレベルで知られています。在来浴室の周辺の土台や柱が腐っている可能性が大変高く、地震の際にそこから崩れる可能性が高いと考えられるからです。
当社のサイトでも「中古住宅を買ったときリフォームは何から考えるべきでしょうか」のページで、在来浴室はリフォームしましょうと主張していますが、安全性を考えた場合にはここは早い段階で手を付けたい部分です。
今までこの話はあまり公的に語られていなかったような気がするのですが、今回ようやく気を付けましょうという事が発表されました。在来浴室からユニットバスへの変更工事は、木材の補修費なども加えて考えますと120万円位かかるものではありますが、安全上を考えますと手を入れたい部分ではあります。
危険なパターンを知っておき、問題がありそうな中古戸建てを買わないよう心がけましょう
こういった知識が何の役に立つかと言いますと、中古住宅を買う際に、危険な建物を選ばないような目を養う事ができます。同じ法律で建てられた建物であっても、実際の安全性は大きく異なります。そして構造上危険な建物には各々パターンがあり、そのパターンを知る事で、自分が危険なパターンの建物を選ばないように気を付ける事ができます。
中古住宅を買う際には、こういった注意喚起をしてくれる仲介会社と、売れれば何でも良いと考える会社があります。必ず良い仲介会社に当たるとは限りませんので、不動産を買おうと考えている人は、このような知識もある程度得ておくべきだと思います。
この記事の内容を動画でも説明してみました
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