戸建住宅の構造の強さの8割は間取りやプランで決まると言われています
あまり知られていないようなのですが、建物の構造の強さは、間取りによっても大きく変わります。実際のところ、このような制振装置を使いました、とか、こういったシステムを導入しています、というものよりも、構造に注意した間取りやプランを考える方が、構造に寄与する部分が大きいというケースは良くあります。
この記事の内容が建物建築ですぐに役立つというものでもありませんが、参考までに知っておく方が良い事について、簡単にまとめてみました。
建物倒壊のほとんどは1階層倒壊と言われています
地震で建物が倒壊するパターンはたくさんあるように思えます。実際に原因はたくさんあると思いますが、症状として見れば、建物の1階部分が崩れ落ちて倒壊するという形が大半を占めると聞きます。
構造的な被害には、屋根の瓦が落ちるとか建物が傾く等の症状もあるとは思いますが、直接人の死に影響するような被害を考えますと、建物が倒壊しないというのは大きな要素です。
そして1階が潰れないというのは、1階の間取りがどうなっているのかにも大きく影響されます。1階に広いスペースがとれるリビングの設置や、吹き抜けを作ったり大きな開口部を作ったり等を行えば、当然1階の構造体はあまり強いものにはなりません。もちろんその間取りを実現するために、構造的な何らかの補強を行ったり、大空間が取れるような構造体を使うという方法もあるでしょうが、その分少し無理をして作るという事にもなり兼ねません。
それと比べて、1階に柱や構造壁を多く配置し、2階リビングにする間取りの方が、同じ構造体を使うのであれば耐震性は高くなるでしょう。実際にはこんな簡単なものではなく、もう少し細かな要素が影響するでしょうが、間取りが構造に対して、大きく影響するというもの確かだと思います。
間取りだけではなく、開口部のプランでも似たような話になります。大きな開口部や連窓等を使いますと、その部分は構造壁を作る事が出来ません。残った壁部分の耐力壁をより強いものにするという設計もあるでしょうが、それが実務的に、バランスよく構造壁を配置したものよりも強いかどうかは微妙な気もします。
住宅性能表示の耐震等級の3を標準にしている会社でも、間取りによっては等級3が取れずに等級2になってしまうという話もよく聞きます。構造と言いますと、構造の技術的な話ばかりイメージされやすいのですが、実際には間取りなどの設計の段階で構造的な要素の大半が決まってしまう事が多いというのは確かなようです。
直下率に影響を与えるのはプランです
また構造の問題を全く考えずに間取りを考えた場合、直下率が悪くなることもあります。直下率とは2階や3階にある構造に影響を与える柱や壁が、下の階の柱や壁につながっている比率の事です。
この直下率が低いと構造的に弱くなり易いのですが、こちらも1階に大空間を作り、2階は細かく部屋を作ると、直下率は悪くなります。2階に柱や構造壁があるのに、その下には柱や構造壁がありませんので、2階でかかった力が変な場所にかかり易く、その結果壊れやすくなるという理屈になります。
一般的には、直下率は50%を下回ると構造的には弱くなり易く、30%を下回ると良くないとも言われます。直下率が悪くなる原因は、間取りの問題と、窓の位置が悪いという事でしょう。間取りの問題は、1階に大空間を作りたいから、窓の問題は、デザイン的に窓の位置を構造とは関係なく作りたいから、という理由から起きるのではないかと思います。
これも最初の設計の段階で、間取りや窓の位置について配慮することである程度は解決することができます。
一方でこの直下率の問題は過度に取り扱われ過ぎる印象もあります。仮に直下率が悪かったとしても、その分床剛性が高ければ良い気がしますし、実際に許容応力度計算等を行い、問題が見つかるのであればともかく、こういった計算を抜きにして、直下率だけで構造の良し悪しを語るのはむしろ危険な気もします。
この直下率の問題が大きく取り上げられるようになったのは、NHKのテレビ番組の影響も大きいでしょう。ただ「NHKのあさイチで説明された直下率の低さが倒壊の原因という主張は正しいでしょうか」のページでもお話ししましたが、ちょっとこの番組はミスリードが大き過ぎる気がします。もちろん他の条件が全く同じであれば、直下率が高い建物の方が耐震性は高いとは思いますが、ここまで単純化できる話ではないと思います。
この直下率が問題であるという考えは「なぜ耐震住宅は倒れたか(日経BP社)」の内容が誤解されているという面もあるように感じます。
この本の中で、直下率の低さが問題である旨提起していますが、それだけで終わらせず、その建物について許容応力度計算を行い、梁せいの不足や接合部の強度不足をが原因ではないかとしています。「直下率が低いと耐力壁の効きが悪くなる」としながらも、それだけで終わらず、許容応力度計算(構造計算)を行い、問題を確認しています。
この構造計算の部分が省かれ、直下率が低いのは問題である、という部分が独り歩きしてしまっている気がします。もちろん直下率が高い方が良いのは確かだと思いますし、間取り等がこの直下率に大きな影響を与えているのも確かですが、直下率が全てであるかのような報道のされ方はいかがなものかと感じます。
ちなみにこの本の中でも「構造についての問題の8割はプランの段階で決まる(166p)」と書かれています。
構造計算を行えば良いというものでもありません
それでは、建物は全て構造計算を行えば良いのかと聞かれれば、それも本質かどうか微妙な気はします。
ちなみにこれもあまり知られていませんが、木造住宅で2階建て以下の建物は、基本的には構造計算は行われません。簡易的な壁量計算と仕様がチェックされるだけで、建築確認申請が通る事になっています。これは4号特例と呼ばれる法律で、これで充分とされているからです。
この4号特例を廃止し、建物はすべて構造計算をすべしという意見もありますし、私もその意見自体には賛同します。ただ実際に構造計算を行い、法律に照らし合わせて問題の無い建物である、という点が分かるだけで耐震性が高い建物ができる訳ではありません。
もっとも許容応力度計算を日常的に行っている工務店さんやビルダーさんは大概レベルが高い会社ですので、構造計算を行う事が良いというよりは、構造計算を日常的に行っている会社は信用度が高いという点で選ぶという考えはあります。
安易なリフォームも問題です
プランのお話で言えば、中古住宅を買って好みの間取りにリフォームしたいという場合にも注意する必要があります。特に構造に影響を与えるリフォームには注意が必要です。
構造に影響を与えるリフォームとは
・壁や柱を取り除き、大きな空間を作るリフォーム
・屋根に太陽光パネルを取り付けるなど重量が増えるリフォーム
が、該当します。
リフォームでは確認申請が要らないケースも多いため、こういったリフォームを行う際には構造的なチェックはあまり行われません。職人さんの経験上何となく大丈夫であろうという考えでリフォーム工事が行われるケースもあります。
ただ、今までの経験と言っても、自分が建てたり工事をしたりした建物で大きな地震を経験した事がある人がそれ程多くありません。例えば首都圏でしか仕事をしたことがない建築関連者で現役の人の経験は、構造的な面ではあまり参考になりません。この数十年は首都圏で大きな地震が起きていないからです。
中古住宅を購入して大掛かりなリフォーム工事を考えている人は、その工事は構造的に大丈夫なのか、また大丈夫とする根拠は何なのかを確認しながら進める必要があります。
建築や不動産の関係者の全員が構造に詳しいと考えてはいけません
残念な事ですが、不動産や建築に関わる人のすべてがすべてのジャンルに精通している訳ではありません。構造についても詳しい人もいれば、そうでない方もいます。問題なのは、詳しくない人は自分が詳しくないという自覚が無いため、悪意が無くても間違っている話をする事も珍しくありません。
こういった問題を避けるためには、建築や不動産の様々な内容について、ある程度は自分自身が詳しくなる必要があります。耐震性については、上記の「なぜ耐震住宅は倒れたか」も大変参考になる本ですので、こういった本もチェックして詳しくなったうえで、どういった建物を建てるべきか、選ぶべきかを考える方が良いと思います。
この記事の内容を動画でも説明しています
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