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2017年1月25日にNHKのあさイチという番組で住宅の耐震性についての特集が放映されていました(「あなたの家は大丈夫? 住宅耐震の落とし穴」出典:NHK)

地震による被害や、耐震性が高い住宅を建てる事の啓蒙という点ではこのような番組がある事は良い事だと思います。一方で内容を見てみますと、視聴者を意図的にミスリーディングさせている部分が多い印象を受けました。

番組に出演された専門家の方は、どなたも正しいコメントを出しているのですが、番組の方向性自体が強引に違う結論に持っていこうとしている印象があります。このページでは私がどのような事を感じたかについて、少しお話ししたいと思います。

現行の耐震基準が劣っているかの印象を与えました

耐震基準の変遷

この図を見ますと、新しい基準の家も倒壊したように見えますが…
出典:NHK

番組で放映された耐震基準の変遷が上の図です。もちろんこの図自体は間違っているものではありません。ただ、この被害があったという基準がどうだったのかの説明はありませんでした。

ぱっとこの図だけを見ますと、新耐震基準の建物で8割弱が、最新基準の建物であっても4割弱の率で建物が倒壊したかのような印象を受けます。

実際には新耐震基準の建物で倒壊したのは6.9%の率でしかありません。他の建物は被害はあったものの倒壊しなかったという事です。

更に言いますと、最新基準の建物で倒壊したのは7棟だけ、率で言えば2.2%でしかありません。そしてその7棟の内の半分は、施工に問題があったためという結論が出ているようです(残りの半分は原因不明と聞いています)。

熊本地震の住宅の被害状況

熊本地震の実際の被害の状況を示した図です。
出典:熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会

熊本地震で起きた木造住宅の崩壊原因をまとめた報告では、現状の耐震基準は有効であるため、現行の法律の見直しはしない(見送る)と結論が出されています(「現行の耐震基準「有効」 有識者委、熊本地震被害を分析」出典:日本経済新聞)。

元々この耐震基準は、大きな地震の際に建物が壊れないという事を目指したものでは無く、倒壊しない事、つまりは倒壊することで人の命が奪われる事を避けるため、多少は壊れても倒壊しないという目標で設定された基準です。

そして今回の地震においては、正しく施工されている建物は倒壊しなかった、つまりは耐震基準が本来の目的を果たしたであろうという事で、この後耐震基準の見直しをしないという結論になりました。

このような背景を無視して「最新の基準でも被害があった」そしてそれは「法律に定められていない直下率の問題で被害が出た」という結論に強引に結びつけるために、細かな情報を敢えて外し、最新基準でも4割弱の被害がありました、という表現にしたのではないかと思われます。

直下率が低い建物が壊れたと結論付けた印象を与えました

直下率の説明図

この内容自体は間違いではありませんが…
出典:NHK

そして、最新基準でも倒壊があったのは、直下率が低いからという理由であるとの説明が番組でありました。番組に出演されている建築のプロの方々は、直下率が倒壊原因のすべてとは言い切れず、倒壊した可能性の1つであるというフォローをされていましたが、番組自体は明らかに直下率が原因であるかのような内容です。

もちろん直下率が高い方が構造的に強いのは間違いありません。ですがこれが原因で倒壊したのかと言われると大きく疑問です。委員会の調査報告書では、最新基準で崩壊した建物は7棟であり、その内3棟は接合部の不具合、つまりは施工ミスによって、1棟は敷地自体が崩壊したことによって、残りの3棟は原因不明としています。

報告書の内容で直下率が問題であったという報告は特に見受けられません。もちろん影響の可能性はゼロではないでしょうが、これが直接の原因であったと言い切るのは無理があると思われます。

同席されていた専門家の方は、私ですら知っているプロ中のプロの方々ですので、こういった話は私の数倍も詳しいでしょう。それがこのような話の流れになってしまい、何だかなと思われているのではないでしょうか。

私は個人的には、直下率の低さが直接建物の倒壊の原因になったとは思っていません。ですが、間接的に原因の一部になっているとは思います。と言いますのも、普通の工務店さんや建設会社であれば、ある程度は直下率を考えて建物を建てます。どうしても直下率が低くなりそうなときは、梁を強くしたり、床の剛性とのバランスを取るようにするでしょう。

恐らく倒壊した建物はそういったバランスを考えることなく建てられていたのだと思います。そしてそのような考えでしか建物を建てられない建設会社であれば、施工のレベルも低いと思われ、実際には施工ミスや金物の取付ミスなどが多数あったのではないかと想像します。

建物の場合、一事が万事的な事があり、直下率をうまく考えられない建設会社であれば、他の部分もダメであった可能性は高い気はします。そういった意味で、直下率について考えるという点では良い内容だったとも言えますが、本当に正しいかどうかと思われる話を、いかにも確定のように説明するのは、問題ではないかと思います。

良い内容ももちろんたくさんありました

もっともこの番組の内容で文句ばかりあるのではありません。良い内容もたくさん放映されました。個人的に良かったと思われる内容は3つあります。

太陽光発電パネルが屋根の南側に載せられると問題になる事がある点の説明がありました

まず良かったと思われるのは、太陽光パネルの重量が耐震性に影響を与える可能性があるという事をしっかりと説明された点です。太陽光パネルは屋根の南面に取り付ける事が多いという事と、逆に南側には耐震性のある構造壁が少ないという話をされ、注意する必要があると述べられていました。

こう言っては何ですが、民放では太陽光発電に関するメーカーさん等の広告が多いため、はっきりとこの点を主張されるケースは少ないのではないでしょうか。こういったあたりを問題なく言えるのはNHKの良いところだと思います。

この太陽光パネルの重量についての影響は「4-02-02.太陽光発電システムにはデメリットも多くあります」のページでも説明しています。

耐震等級の話を分かりやすく解説されていました

耐震等級制度は始まってもう結構な期間が経つのですが、あまり一般の方に知られていません。以前私が編集者だった時に取材した設計士さんは、一般の方はだれも耐震等級について求めないので、自社でも考えていないという話をされました。

耐震等級の説明

一般の方が耐震等級の話を知り、かつ選べるようになれば良いと思います。 出典:NHK

これが一般の方でも耐震等級の最高レベルを求めるようになれば、作る側も当然そのレベルに対応したものを作るようになると思います。そう考えますと、この耐震等級の話がテレビで取り扱われ、かつそのための価格差が40~50万円で可能と言う話が広まるのは良い事だと思います。

耐震シェルターの金額や補助の話も良かった内容です

他の良かった点として、耐震シェルターの話とその設置費用について説明があったのが良かったと思います。他実際のところ、耐震補強工事は小さな建物でも150万円近くはかかり、自治体の補助を入れても個人の負担が大きいため、あまり耐震化は進んでいません。

一方で耐震シェルターは40万円台で出来る事も多く、かつ自治体の補助もそこそこあります。当社がある千葉市では、耐震シェルターの費用の半分を千葉市が負担してくれることになっています。ただその上限金額は20万円ですので、実際にはこの20万円分が補助金となるでしょう。

耐震シェルターの費用が45万円とすると、補助分を引けば25万円で設置することが可能です。この位の金額になると、現実的にやってみようかと思う方も増えていくと思います。千葉市の方は「平成28年度千葉市耐震シェルター設置費補助事業」のページをご確認頂ければと思います。

いつまでも進まない耐震化を嘆くより、現実的にこの耐震シェルターをもっと推進していく方が良いのではないかと個人的に思っています。

ここで述べました意見は、当社ふくろう不動産の意見であり、それが絶対的に正しいと主張するものではありません。ですが、もっといろいろな人が耐震について学び、意見を持ってもらい、様々な対策が出てきて、実際に耐震化を行う人の選択肢がもっと増えれば良いなと思っています。

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