不動産を購入すると結局は購入代金の2倍の費用がかかるという主張について考えてみました

不動産は買う方が良いのか、借りる方が良いのかという議論は昔から人気のあるテーマです。最終的にどちらが良いのかは誰にも分かりませんし、その人の状況によっても正解は異なりますので、私個人の意見としては自分自身で考えて結論を出してください、という考えです。

私自身はどういう行動をとったかといえば、自分の考えや状況から購入する方が良いと考え、約20年前に家を購入しました。もちろんこれは私がそうした、というだけの話であり、それが必ず得をするとか全ての人に当てはまるという話でもありませんので、どうするかは皆さんご自身で結論を出して頂ければと思います。

この結論はさておき、賃貸派の意見の中に、不動産を購入すると結局は購入費用だけではなく、トータルで2倍の費用がかかるので損をする、というものがあります。実際に住宅ローンの金利が高かった時代には、利息の支払い分だけで大きなお金になり、返済額が借入額の2倍になるという時代もありました。

2倍のイラスト

不動産を購入すると、実際には2倍のお金を支払わなければならないという意見があります。

この記事を書いております2020年5月では、金利はあまり高くありませんので利息支払額で2倍になるという事はありませんが、それでも建物の維持費や税金等を考えると2倍の費用がかかると主張されている方もいらっしゃいます。そこで今回は、不動産の所有期間中にどのくらいの費用がかかるのかを項目ごとに考えてみたいと思います。

不動産を所有していることでかかる費用の項目を考えてみました

まずは不動産を所有している事でかかる費用の項目を洗い出してみます。よく言われている内容としては、次のものがあります。
・不動産の購入時にかかる諸費用
・住宅ローンの利息額
・固定資産税、都市計画税といった所有していることでかかる税金
・火災保険、地震保険といった保険費用
・外壁や屋根の塗り直し等のメンテナンス費用
・給湯器・設備機器等の設備の更新費用
・生活パターンの変化等に要するリフォーム費用
・災害やシロアリ被害等による補修費用
このような項目が考えられます。

こういった費用は、どのようなローンを組むのか、どういったタイプの住宅を買うのか、住宅の性能やメンテナンスについてどのくらい考えられている建物なのか、こういった様々な要素によって費用は変わります。ただ、各々によって異なります、という話だけではイメージがしにくいと思いますので、とりあえずモデルケースを作り、そのモデルに沿って、費用を考えてみます。

モデルとして、
・総額3,000万円の新築戸建住宅を戸建住宅を購入したと想定
・借り入れは全額を30年固定で借りたと想定
・借り入れは全期間固定で店舗のある銀行で借りたと想定
・建物は現在売られている一般的な建売住宅の仕様・設備であると想定
として考えてみます。

もし皆さんが購入しようと考えている不動産がこれと異なる場合には、その部分を修正して計算し直してみてください。

不動産購入時にかかる諸費用は結構大きな金額になります

諸費用についてはあまり詳しくない方もいらっしゃるかもしれません。諸費用についての内容は「不動産購入時の諸費用は結局いくらかかりますか?」のページでも解説していますので、よろしければこちらもご覧ください。

今回のモデルケースである3,000万円の戸建住宅を購入した場合には、ざっくりとですか下記の費用がかかります。
・仲介手数料 1,056,000円(3,000万円×3%+6万円+消費税)
・登記費用  500,000円(土地の移転登記、建物の表示・保存登記、司法書士の手数料)
・借入費用  650,000円(保証料、手数料、金消契約時の印紙代等)
といったものがあります。

仲介手数料他諸費用

仲介手数料を始め、購入時は諸々の諸費用がかかります。

実際には、契約時の印紙代や、固都税の精算、火災保険の支払い、引っ越しの費用、家電や家具の購入など、他にもお金がかかります。

ただ今回は賃貸との比較という考えですので、賃貸の場合でもかかる費用は外して考えます。具体的には引越し費用や家電・家具の購入はどちらも必要ですので入れていません。

また固都税の精算は後でお話する所有期間の方で計算しますし、火災保険も同様に後で計算します。

こう考えますと、今回のモデルケースでの諸費用は2,206,000円となりました。

実際には物件毎にかかる諸費用は大きく異なります。新築建売住宅の購入の場合、仲介手数料を大きく割引する会社もありますし(当社もそうです。売主さんから手数料が出る場合にはその分を差し引いた額しか請求していません)、登記費用も割安な司法書士さんを使えばもっと安くなります(建売住宅の場合は司法書士さんを指定される事が多いので、費用は安くならないケースがほとんどです)。借入費用も今ではネット銀行等で保証料がない会社や手数料が安い会社もあります。

もちろん全ての物件で安い条件のものが使えるとは限りませんので、今回は割と一般的と思われるケースでシミュレーションをしています。

住宅ローンの利息額の合計金額を計算してみました

借入は次の条件でシミュレーションをしてみました。
・借入金額 3,000万円(100%借入)
・金利   1.21%(全期間固定金利)
・借入期間 30年

金利は変動金利を使いますともっと安い金利で借入可能ですが、数十年という計算ですので利息額を確定されるために全期間固定金利で設定しました。上記の金利はこの記事を書いている時点でのとある銀行の30年の固定金利の利率で入れています。

銀行のイメージ

支払利息額を予め計算しておく事も重要です。

こうやって計算しました結果、30年間の支払利息の総額は5,783,009円となりました。額としては大きな金額ですが、借入金額と同じくらいという事はなく、借入金の約2割位の額となります。

もちろんこれも、借入の利息、借入期間によっても大きく異なりますので、実際にはご自身の借入条件に合わせて計算して頂く事になります。

更に言えば、ローンの返済が終わった後には抵当権抹消の手続きが必要になります。幸い抵当権設定と比べますと費用はあまり多くなく、登録免許税は数千円といった額で済みます。これを司法書士に依頼しますと手数料が数万円取られますが、それでももろもろの費用合計で5万円は超えないのではないかと思います。こちらは自分で手続きを行う方も珍しくありませんので、興味のある方はご自身で行うのも良いと思います。

固定資産税や都市計画税は場所によって大きく異なります

固定資産税や都市計画税は、その物件の場所(土地代)によって大きく変わりますので、一概には言えません。ただ今回のモデルケースでは3,000万円の戸建ての新築建売住宅と設定していますので、千葉県のこのくらいの価格であれば、年間の固定資産税と都市計画税と合計は12万円位ではないかと思います。

実際には、新築から数年は減税措置があって固都税は安くなったりですとか、建物の評価額は年々下がっていきますので、その分支払う税金は安くなったりします。こういったあたりを細かくは計算できませんので、とりあえずは平均でも年間12万円程度と考えますと、30年間の支払う税金は360万円という事になります。

火災保険や地震保険も保障内容によって額は大きく異なります

火災保険や地震保険も、その保証内容によって支払う額は大きく異なります。保険の範囲をほとんどフルカバーとし、家財についても保障の対象とし、地震保険にも加入しますと、火災保険(10年)と地震保険(5年)の合計で60万円を超える事も珍しくありません。

火災保険のイメージ

火災保険や地震保険は、保障内容をどうするかによって金額は大きく異なります。

逆に地震保険は見送り、火災保険も最小限の保障範囲と割り切りますと、戸建てのエコノミープラン10年契約で4万円を切る商品もあります。これも内容次第というところはあるのですが、一般的な戸建住宅の保障を受ける前提で、かつ地震保険には加入しないということですと、10年契約で15万円位かなという気はします。そうしますと30年分では45万円という事になります。

実際にどの保険会社でいくら位するのかについては、価格コムの火災保険比較等でも確認できますので、興味がある方は、そちらを見て頂くのが良いと思います。

外壁や屋根の塗り直しの費用も計算が難しい内容の1つです

戸建住宅の場合、外壁や屋根の塗り直しで費用がかかるではないか、と主張される方はたくさんいらっしゃいます。またリフォーム会社は、当然自社の立場から、10年に1回は塗り直しをすべき、と主張しています。

塗り直しをする理由として、雨漏り対策と言われていることが多いのですが、これが本当に正しいかどうかは疑問視する方もたくさんいらっしゃいます。私自身も本当にそのペースで必要なのかについては疑問に感じます。

と言いますのも、考え方として戸建住宅の防水は、外壁の内側に貼られている防水紙が受け持っているものであり、外壁そのものが防水機能を果たしているものではないからです。ただこの考え方についても異論は多々あり、外壁側を一次防水、防水シートを二次防水と両方とも防水にとって重要であると主張される方もいらっしゃいます。

どちらが正しいかは何とも言い難いのですが、防水面だけでなく美観を維持するという切り口で考えますと、定期的に塗り直す費用を確保しておくべき、という考えも確かにあります。これを10年は早すぎるとしても12年に1度と考えますと、30年間では2回塗り直しの必要があります。1回あたり100万円と考えますと、30年間では200万円必要となります。

住宅塗装

屋根と外壁の塗装を1回あたり100万円で計算しました。

まあこれも、その建物の材料や考え方にもよって変わってきます。例えば屋根材で瓦を使っているのであれば、塗り直し等はあまり必要となりません。外壁材も材料によっては20年とか30年はメンテナンスフリーというものもあります。

ちなみに私の家は、築20年近く経っていますが、外壁と屋根には全く手を入れておりません。屋根は三州瓦、外壁はシラスそとん壁という名前の左官材です。一応どちらも耐久性はあると言われている製品で、実際に現時点では雨漏り等の症状は出ていません。

こういった材料でなくても、通常のスレート屋根、サイディング壁でも本当に定期的に手入れが必要かどうかは分かりません。実際に20年以上メンテナンスをしていない住宅で、雨漏り等が全く起こっていない住宅も珍しくないからです。

こういった状況を考えますと、本当に外壁や屋根のメンテナンスが必要なのかは疑問に感じますが、とりあえず今回の計算では、美観の維持も考えて塗り直しをするという前提で計算を進めます。

設備系も壊れるものは実は多くありません

住宅設備については、躯体以上に壊れやすいので費用がかかる、と主張される方もたくさんいらっしゃいます。設備は寿命が短いのは確かですが、実際のところ普通の戸建住宅ではそれ程設備は多くありませんし、また交換の費用もそう高いものでもありません。

30年スパンで壊れるものを考えますと、給湯器、インターホン、照明の一部といったところでしょうか。お風呂やキッチンも壊れるではないかと思われるかもしれませんが、実際にこれらは水道のパッキンの交換以外ではあまり壊れるものではありません。築30年の戸建住宅で、新築当時のキッチン、新築当時のユニットバスがそのまま残っているものも珍しくありません。

給湯器のイメージ

給湯器は何回か交換しなければならないとは思いますが。

お風呂やキッチンは綺麗な新品に交換したいという快適性の追求で交換される事はありますが、機能的には問題なく使えるケースの方が多いのではないかと思います。

トイレについては少し微妙で、元々のトイレの水を流す機構自体は10年20年では壊れない事が多いのですが、洗浄便座等は電気製品であるために、こちらの方のみ壊れ、結局交換となるケースはあるようです。ただ洗浄便座位のみの交換で済む事も多いため、計算はちょっと難しくなります。

ですので30年でどのくらい交換が必要かの計算は難しいのですが、
・給湯器を1回交換 30万円
・トイレ1回交換  15万円
・インターホン2回交換 10万円
・照明一部1回交換   10万円
で計算しますと、合計65万円となります。

これもその住宅がどういった設備を使っているかによっても異なるとは思います。

生活パターンの変化に伴うリフォーム費用はゼロの場合も多そうですが

このリフォーム費用については、全くかからない、あるいはリフォームしないという住まいも多いので、なかなか計算は難しくなります。

よくあるのは、一部屋だった子供部屋を2部屋にするとか、ネット環境を整えるために電気工事を行うとか、楽器演奏等のために防音室を設置するといったあたりでしょうか。そのパターンによって費用が大きく異なるので判断がし難いのですが、ゼロの家庭も多いと考え、とりあえず50万円位計上しておきます。

災害などのよる修繕費用も計算が簡単ではありません

災害やシロアリ被害等による修繕費用も計算が簡単ではありません。特にこれらの被害があった場合、先ほどん火災保険等で補填できるケースもありますし、また災害の被害は大きい場合には数百万円単位にもなりますので、変に平均を取るのも難しい気がします。

むしろ子供がドアを壊したとか、壁への落書きが酷く、張替えが必要になった等のケースの方が圧倒的に多い気はします。

内装リフォーム

リフォームを全くしないという住宅も珍しくはありませんが。

ここではシロアリの防除工事が1回とちょっとした修繕工事があったという前提で30年で50万円程と見積もっておきます。

30年の合計金額を計算してみますと購入時の半分くらいの費用となります

こういった諸々の費用を計算してみますと、
・諸費用  221万円
・支払利息 578万円
・固都税  360万円
・保険金   45万円
・屋根外壁 200万円
・設備    64万円
・リフォーム 50万円
・修繕    50万円
となり、合計で、1,568万円となります。

額だけで見ますと、結構な費用はかかるのですが、当初の購入金額と同じくらいかかるかと聞かれれば、そこまでではなく、半分強位の金額となります。つまり2倍ではなく1.5倍くらい、と考えれば良い、という事になります。

実際には上記の費用の中で抑えられるものもあり、もう少し低くなりそうな気もします。この期間内に大きな災害、トラブルに合わなければ、まあ50%分位は余計にかかる、と考えてもそれ程大きな差は出ないような気はします。

保有期間を50年に延ばして考えてみましょう

では次に保有期間を50年間として考えてみましょう。この場合、諸費用や支払利息については30年の場合と変わりません。固都税やリフォーム関連の費用がどのくらいかかるかです。

固都税は、税額がそのままである前提(実際には建物の評価額が下がりますからもっと安くはなりますが)で計算、保険金も同じ額を掛ける前提で計算、屋根外壁は12年に1回の補修という考えで、30年目から50年目までにもう2回あるとして計算、設備は同じ比率で20年分をプラス、リフォーム費用は大きな水回りの修繕があったとして200万円としてして計算、修繕も何かあったとして100万円で計算してみました。

その結果、
・諸費用  221万円
・支払利息 578万円
・固都税  600万円
・保険金   75万円
・屋根外壁 200万円
・設備   107万円
・リフォーム 200万円
・修繕    100万円
となりますと、合計で2,081万円となります。

当初の購入代金が3,000万円だった事を考えますと、こちらも100%分までには至らず、3分の2位の費用がかかるという計算になります。

実際には物件の個別の状況によって費用は変わってきます

こういった計算をしてみますと、不動産を購入した場合には実際にはその2倍のお金がかかる、という主張はあまり当たっていないような気はします。もちろんこれは、その不動産によって状況は異なりますので、もっと費用がかかるときもあれば、逆にもっと安く済むケースも多々あるでしょう。

ただ、どういった内容のものがあるのか、目安として1度計算してみる事も重要だと思いますので、今回モデルケースとしてシミュレーションをしてみました。

ちなみにこのような話をしますと、いや木造住宅はそんなに持たずに建て替えが必要になるはず、と主張される方もいらっしゃるようですが、以前別の記事「木造住宅の実際の寿命はどの位と考えるべきでしょうか~世間一般のデータに惑わされないために」で説明しましたように、今の木造住宅であれば、寿命は60年以上はあると考えています。

このあたりも様々な意見が出ていますし、私の意見が絶対に正しいとも限りませんので、多くの意見を聞き、ご自身はどう行動するのが良いのかを考えて頂ければと思います。

また、この記事の内容は動画でも説明しています。その動画はこちらです。

よろしければ、動画もご確認下さい。

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