「無理なローンを組むな」ってどういう事なのか具体的な考え方を解説します
住宅ローンを検討する際、「無理なローンは組まない方がいい」とよく耳にします。しかし、この「無理なローン」とは具体的に何を指すのでしょうか?月々の返済額が少ないから大丈夫、と考えているだけでは、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。
今回は、この「無理なローン」について、返済期間や家計の収支など、より具体的な視点から掘り下げて考えてみましょう。
返済期間は定年後まで続いても大丈夫?
まず、ローンの返済期間について考えてみましょう。「定年後まで返済が続くローンは無理なローンだ」という意見があります。これについて、私は原則として「定年時までに完済の目処が立つ」のが無理のないローンだと考えています。
借り入れ当初は定年後も返済が続く期間で組んでいても、その後の繰り上げ返済などによって、最終的に定年時までに完済できる計算が立つのであれば、必ずしも無理なローンとは言い切れません。重要なのは、退職金や将来の貯蓄ペースなどを踏まえ、現実的な計画として定年時完済が見込めるかどうかです。
単に月々の返済額を少なくするために返済期間を長くした結果、収入が大きく減る定年後も多額の返済が続くようなローンは、やはり無理があると言えるでしょう。月々の返済額だけで無理かどうかを判断するのは危険です。
収入だけではなく「収支」で考える重要性
次に、ローンの返済額が問題ないか考える際に、収入だけで判断するのは不十分です。同じ収入であっても、その人あるいはそのご家庭によって支出の額というのはものすごく違うものですから、住宅ローン以外の様々な支出(食費、水道光熱費、通信費、教育費、医療費、娯楽費など)を考慮せずに、単に収入の何割までなら大丈夫、といった考え方で返済額の上限を決めるのは、非常に無理があると言わざるを得ません。銀行が融資額を判断する際に収入を重視するのは事実ですが、彼らは個々の詳細な家計支出まで踏み込んで分析するわけではありません。あなたのライフスタイル、趣味、家族構成、そして将来の計画によって、住宅ローン返済に実際に充てられる「手残り」の金額は大きく変わってきます。
私は、月々の返済可能額の上限を考える際、より現実的な目安として、「今払っている毎月の家賃」と「毎月できている貯蓄額の半分」を合計した金額を提案しています。この考え方の根拠は、あなたが今まで家賃として無理なく支払ってきた金額は、住居費として許容できる一つの基準となるからです。また、毎月貯蓄できている金額の半分を返済に回すというのは、現在の生活レベルを大きく変えずに捻出できる可能性が高い金額であり、かつ、緊急時のための貯蓄や将来の目標に向けた貯蓄も一定程度維持するというバランスを考慮したものです。つまり、現在の家計において、住居費以外の様々な支出を賄った上で、どれだけのお金が「余力」として残っているのかを、具体的な行動(家賃支払いと貯蓄)から逆算して把握するための方法と言えます。社宅などで家賃負担が極端に少ない場合や、そもそも毎月の貯蓄がほとんどできていない場合は、この計算方法だと返済可能額も少なくなる傾向がありますが、それは世間一般と比較してではなく、あなたの現在の支出パターンに基づいた「現実的な」返済能力を示していると捉えるべきです。
例えば、高収入であっても、私立学校の学費、高額な習い事、頻繁な旅行、あるいはご家族への仕送りなど、固定費や変動費が高い家庭の場合、手元に残るお金は意外と少ないものです。一方、収入はそれほど高くなくても、非常に堅実な支出管理をしている家庭であれば、より多くの金額を住宅ローン返済に充てられるかもしれません。収入だけで判断すると、前者の家庭は無理なローンを組んでしまい、後者の家庭は本来組めるはずのローンを組まない、といったミスマッチが起こり得ます。さらに、予期せぬ病気や怪我、会社の業績悪化によるボーナスカット、あるいは予定外の大きな出費(住宅の修繕など)が発生した場合、収入だけに頼った計画はあっという間に破綻する可能性があります。
現在の支出習慣を無視して返済額を決めてしまうと、住宅ローン返済のために他の生活費を大幅に削る必要が出てくるかもしれません。これは、日々の生活に窮屈さを感じたり、本来実現したいと思っていたライフイベント(子供の進学、趣味への投資、老後資金の積み立てなど)を諦めざるを得なくなったりする原因となります。家を持つことは、生活を豊かにするためであるはずなのに、ローン返済が重荷となり、かえって生活の質を下げてしまうような状況は避けたいものです。
だからこそ、世間一般の平均的な返済額や金融機関が提示する借入可能額といった表面的な数字にとらわれるのではなく、ご自身の家庭の具体的な収支を詳細に把握し、そこから無理なく返済に充てられる金額を算出することが、無理のないローンを組むための最も重要な鍵となります。家計簿をつける、支出を分類して分析するなど、ご自身のキャッシュフローを正確に理解する努力が、安全な住宅ローン計画の第一歩となるのです。
ペアローンは危険?リスクを正しく理解する
ペアローンについても、「無理なローンになりやすい」と言われることがあります。しかし、ペアローンそのものが悪いわけではありません。本来は、夫婦どちらか一方の収入だけでも返済が可能なくらいの借入額であれば、どちらかに万が一のことがあっても返済が滞るリスクを減らせる、むしろ安全側の仕組みとも言えます。
ペアローンが危険になるのは、夫婦二人の収入があって初めて返済できるような、収入に対して過大な借入額を設定した場合です。出産や離婚、働き方改革による残業代の減少、景気悪化によるボーナスカットなど、人生には様々な予期せぬ出来事が起こり得ます。そういったリスクが発生した際に、夫婦どちらかの収入が減ると返済が厳しくなるようなペアローンは、やはり無理があると言えるでしょう。
ペアローンを組む際は、必ず夫婦どちらか一方の収入になった場合でも返済が可能か、あるいはそのための具体的な備え(貯蓄など)があるかをしっかりと検討することが重要です。
無理なローンを避けるために:具体的な想定と予算決定の順番
無理なローンを組まないためには、単に「無理しちゃいけない」と曖昧に考えるのではなく、具体的な状況を想定し、数値で判断することが大切です。
- 収入だけでなく「収支」で考える:ご自身の家計の支出パターンを把握し、そこから無理なく返済できる額を算出しましょう。
- 月々の返済額だけでなく「返済期間」も考える:特に定年時までに完済できるか、現実的な計画を立てましょう。最近は定年前のリストラリスクなども考慮する必要があります。
- 未来をある程度予測・想定する:起こりうるライフイベントや収入変動のリスクを想定し、それに対応できる計画を立てましょう。
- 「買うか買わないか」もセットで考える:無理なローンを組むくらいなら、賃貸という選択肢も含めて、長期的な視点でどちらが得かを比較検討しましょう。
- 「予算を先に決める」という順番を意識する:物件探しを始める前に、ご自身の家計から見て安全な予算額を先に決めましょう。良い物件を見つけてから予算を考えると、ついつい無理な金額に手を出してしまいがちです。
これらの点を具体的に考え、ご自身の状況に合った無理のないローン計画を立てることが、安心してマイホームを持つための第一歩となります。曖昧な情報に惑わされず、しっかりと現実を見据えて判断しましょう。