年収だけで住宅ローン借入額を決めてはいけません

インターネットの掲示板やSNSを見ていると、「私は年収〇〇万円ですが、無理なく住宅ローンはいくらまで借りられますか?」という、年収を唯一の判断材料とする質問が非常に多く見受けられます。

確かに、銀行の融資審査では年収(勤務先の安定性や勤続年数なども含む)が重要な指標となりますが、それはあくまで「銀行が貸せる上限」を決める要素の一つに過ぎません。あなたにとって適切な借入額は年収だけで決まるものではありません

この記事では、年収という一面だけで判断することの危険性と、住宅ローンの予算を決める際に絶対に考慮すべき3つの重要な要素について、より深く解説します。この3つの要素を無視して予算を決めてしまうと、何十年にもわたる後悔につながりかねません。

1. 借入年数が10年違うだけで「1,000万円近く」予算が変わる

住宅ローンの借入額は、年収よりもまず「いつまでに完済するか」という借入年数に強く依存します。これは最も単純ですが、同時に最も見落とされがちなポイントです。

基本原則:定年までの完済を目指す

銀行は審査上、最長80歳までの長期返済期間を認めるケースがありますが、これは「返済できる可能性がある」という基準に過ぎません。定年退職後、公的年金などの不安定な収入源しかない状態で多額のローン返済を続けるのは現実的ではありません。住宅ローンは、原則として定年時(多くは65歳)までに完済できる計画を立てるべきです。

また、「定年時に残債があっても退職金で一括完済すれば大丈夫」と考える方もいますが、これも危険な考え方です。現在の企業経営環境において、退職金制度自体が廃止されたり、金額が大幅に減額されたりするリスクは無視できません。本来の計画としては、退職金に頼らず、現役時代の定期的な繰り上げ返済によって定年時完済を目指すのが理想です。退職金はあくまで「最悪の場合の最後の砦」として考えるべきでしょう。

年齢による借入可能額の差が示すこと

同じ月々10万円の返済額(生活への負担度)であっても、完済目標を65歳に設定した場合、借入開始年齢が違うだけで予算は大きく変動します。(金利0.7%で試算)

借入年齢 返済期間 月々返済額 借入可能額(概算)
30歳 35年間 10万円 約3,724万円
40歳 25年間 10万円 約2,751万円
55歳 10年間 10万円 約1,158万円

わずか10歳の差で、借入可能額に約1,000万円の差が出ます。年収が同じでも、返済期間という基本的な要素を無視して「年収いくらだからいくら万円借りられる」と考えるのは、いかに机上の空論であるかが分かります。

補足:この表から「少しでも早く買った方が得だ」と結論づける営業マンもいますが、それも一面的です。不動産の購入タイミングは、家族計画、資産状況、物件との巡り合わせなど、多くの要素で決まるべきものです。借入額が増やせるという理由だけで、焦って購入を決定するのは避けるべきです。

2. 家族構成や価値観で「支出」の予算は大きく変わる

住宅ローンの借入額は「収入」だけで決まるのではなく、「収支(収入と支出)のバランスで決まる」と考えるのが鉄則です。特に、月々の手取りから住宅ローン返済額を引いた後の「残りの支出」は、以下の要素で大きく変動するため、個別の考慮が不可欠です。

a. 子どもの教育費(最大の負担)

お子様がいるご家庭にとって、教育費は住宅ローン返済と並ぶか、それ以上の経済的負担となります。特に負担が大きくなるのは高校生以降です。

  • 大学授業料:国立か私立か、理系か文系か、自宅通学か下宿かによって、年間数百万円単位で支出が変わります。下宿を伴う私立大学の場合、4年間で1,000万円以上の費用を準備する必要が出てきます。
  • 学習塾・予備校:高校生以降は、大学受験対策のために予備校や個別指導に多額の費用がかかります。一定レベル以上の予備校では、お子様一人当たり月に10万円程度の出費となることも珍しくありません。
  • その他の教育関連費:お子様が幼い頃の習い事(英語、ピアノ、プログラミングなど)や、進学に伴う制服代、教材費、部活動の費用なども積み重なれば大きな額になります。

これらの教育費のピーク期間に、住宅ローン返済が重なることを想定せずに予算を組むのは非常に危険です。お子様のいるご家庭と独身・DINKS(共働きで子供を持たない夫婦)の方を、同じ年収だからといって同列に比較することはできません。

b. 生活パターンに直結するその他の支出

住居費以外の出費(ランニングコスト)は、個人の趣味嗜好やライフスタイル、居住エリアによって大きく異なります。

  • 車の維持費:車が必須の地域では、車両本体価格(買い替え費用)、駐車場代、ガソリン代、自動車保険料、車検費用など、全てを含めると年間数十万円の支出となり、毎月の家計を大きく圧迫します。都心部で車が不要な生活との差は歴然です。
  • 趣味・価値観への出費:頻繁に海外旅行に行く、高級外車を乗り回す、高級な食材や外食を好むなど、住居費以外の部分に高い価値を見出し、積極的にお金を投じている方は、当然ながら住居費に回せる金額は少なくなります。

大切なのは、「世帯年収の何割」といった一般的な目安ではなく、ご自身の価値観やライフスタイルに合わせた現実的な支出を把握し、「削れない支出」を確保した上で、住宅ローンにいくら充てられるかを決定することです。

3. 収入の「安定度」と「未来予測」をどこまで考えるか

現在年収が安定している正社員の方であっても、将来の変動リスクを無視して最大限の借入を行うのは賢明ではありません。収入の安定性には、所属企業だけでなく、社会情勢や個人の健康状態も影響します。

  • 残業代の変動リスク:働き方改革や企業の業績悪化等により、残業時間が大幅に削減され、残業手当てが激減し、年収が大きくダウンするケースが増えています。残業手当てを前提とした返済計画は、法律や企業方針の変更によって簡単に崩壊する、非常に脆いものです。
  • 歩合制・自営業のリスク:営業職の歩合給(インセンティブ)の比率が高い方や自営業(フリーランス)の場合、景気変動や市場の変化により、高収入の安定維持が困難になることがあります。好況時の高収入を基準にローンを組むと、不況期に返済が苦しくなります。
  • キャリアチェンジ・健康・介護リスク:転職・独立を考えている場合や、予期せぬ病気・怪我、あるいは家族の介護などで休職や時短勤務を余儀なくされた場合、収入は一時的または恒久的に減少します。

現実的な対応策:毎月必ず貯蓄ができる「予備費」の確保

将来の不確実性に備えるためには、以下の計画を立てることが、最も現実的かつ具体的な対応策となります。

住宅ローンを返済したとしても、ボーナスに頼らず毎月安定して貯蓄ができる

この月々の貯蓄こそが、収入が減った時、または緊急の支出(急な家の修理や家族の医療費など)が発生した時の「予備費」となります。収入が減少した際には、まずこの貯蓄分を切り崩す、あるいは趣味の費用や外食費など「削れる支出」を諦めることで対応できるようにしておく必要があります。これにより、生活の根幹である住居の返済体制が揺るがないようにすることが、賢明なローンの組み方です。

まとめ

住宅ローンの借入額を決めるのは、高い物件を買ってもらうことで収益を得る不動産会社の営業マンや銀行の担当者ではなく、あなた自身です

年収という一面だけで、人生の長期的な計画を決定してしまうと、後になって取り返しのつかない後悔をすることになりかねません。あなたの人生設計を守るために、以下の3つの要素を総合的に判断してください。

  1. 完済目標: 定年までの完済を前提に、借入年数から逆算する。
  2. 収支バランス: 教育費や車の維持費、趣味にかかる費用など、将来の大きな支出を確保した上で、住居費に充てる予算を決める。
  3. 貯蓄体制: 返済後も毎月確実に貯蓄ができる、余裕のある予算を設定し、不測の事態に備える。

これらの要素を深く考慮し、ご自身の生活と家計を守るための適切な住宅ローン予算を、冷静に決定してください。

Follow me!

不動産購入のご相談はふくろう不動産まで

CTAの画像
まずはメールにてご相談ください。