床暖房のメリットとデメリットを経済性以外の点で見てみましょう

床暖房のメリットやデメリットについては、様々な本や雑誌、サイトで語られています。ですが、その内容の大半は導入費やランニングコストといった経済性が中心で、それに少し暖かさについての説明があるという内容が大半です。ですが床暖房については、安全性についても考えなければなりません。

床暖房のスイッチ

床暖房の安全性についても基礎知識を得ておきましょう。

このサイトでは経済性以外の内容を中心に、床暖房のメリットとデメリットをお話しします。

熱を伝えるものが温水かそれ以外かで大きく分けられます

床暖房の分類の仕方は、どういった切り口で分けるかによっても見方が変わります。私は、熱を伝えるものが何かという切り口で最初は分ける方法が分かりやすいと思っています。

熱を伝えるものとは、言い方を変えますと床材の下に敷かれているものです。これが、温水が通るパイプなのか、それ自体が熱を発する電熱線のようなものなのかで分けます。

電熱線のようなもの、というあいまいな表現になるのは、これが意外と種類が多く、かつ特徴も異なるからです。具体的には電熱線、カーボンフィルム、PTCに分けられます。よく面状か線状かという切り口で分けられますが、PTCは大半の製品は面状ですがたまに線状のものもあったりなど例外もあるため、まずは熱を出すものの性質から考えていく方が、誤解し難いと私は考えています。

一般的にこれら3種の床暖房は電気式床暖房というくくりで表されます。温水をパイプで床下に流すものを温水式という言い方で分けるのですが、温水式の場合はガスでお湯を沸かすものと電気で沸かすものの2種類に分けられます。電気でお湯を沸かすものは熱源と言う切り口で考えれば電気式なのですが、こちらは電気式とは呼ばれません。

ガスと電気

温水式の場合には熱源がガスであれ電気であれ、どちらも温水式に分類されます。

こういった紛らわしさで床暖房について誤解される方が多くなっているのですが、1つ1つの項目を分けて考えれば、考え方自体はそれ程難しいものではありません。

電気式床暖房は電熱線、カーボンフィルム、PTCと大きくは3つに分けられます

さて電気式床暖房ですが、前述しましたように3つの方式に分けられます。ただ、電気を通すものが違うというだけで、基本は電気を流す際の抵抗で熱が出るという仕組みに変わりはありません。

電熱線は金属の線に電気を流すことで、電気抵抗による熱が出るというシステムです。昔から使われている方式で歴史がある分安全性が高いとか導入のコストが安いというメリットがあります。ただ、他の電気式床暖房の方式と比べますと電気代が高くなりますので、最近はあまり使われていません。

電気のテスター

電気式床暖房は結局のところ電流が流れる時の抵抗を熱に変えたものです。

電気式床暖房の現在の主流はカーボンフィルムとPTCです。こちらは見た目は似ていて、ほとんどが線ではなく面で発熱するタイプになります。PTCでは例外的に線状になっている製品もあるのですが、今ではほとんど見かけなくなりましたので、概ね両方とも面状の発熱体と考えてよいかもしれません。

カーボンフィルムは先ほどお話ししました電熱線が面状のものに変わっただけという解釈で問題はありません。ただ電気代が電熱線よりも安く済むという事や、線状と異なり面全体が熱を持ちますので、床の温度ムラが無く均一に暖かくなるというメリットがあります。

PTCはカーボンフィルムに樹脂などを混ぜ、温度が高くなると電気が通り難くなり、その結果温度が下がるというものです。つまりPTCは素材自体にサーモスタットのような自動温度調節機能が付いているものです。

他の床暖房では床の上に物を置いた場合に、その部分に熱がこもりやすくなるという問題がありますが、PTCでは素材自体にサーモスタットのような温度センサー機能がありますので、部分的に熱がこもるという現象が起きにくいというメリットがあります。

PTCとカーボンフィルムは両方とも面状の発熱体のため、面状発熱体イコールPTCとして語られる事も多いのですが、両者は全くの別物です。安全性という切り口であれば、素材自体が熱が出にくい仕組みになっているPTCの方がより安全性が高いのではないかと思います。

率が低いとはいえ、電気式床暖房には火事の危険性があります

電気式床暖房で一応気を付けなければならないのは、まれではありますが火事の危険性がある事です。2008年の話ではありますがカーボンフィルムの床暖房を作っていたJBHというメーカーは火事などのトラブルが原因で倒産しました。

火事のイメージ

可能性が低いとはいえ、古い電気式床暖房システムには火事の危険性があります。

私は前職でJBHの方から話を聞く機会があり、その際に安全性についての話を聞いたのですが、サーモスタット装置で温度は完全にコントロールできているから全く問題はない、と主張されていました。火事などの事件が起きる前の話です。ですが実際には原因ははっきりしないながらも異常加熱となる事があり、それが原因で床面が焦げたり火事になったりした例が出てきました。

幸い今では製品の検査も厳しくなっているようですし、施工時の注意点も分かりやすくなってきていますので、日常の使用で火事に至る危険性はほとんどないでしょう。ただ、築10年以上の中古住宅を購入する方で、最初から電気式の床暖房が入っている建物を購入する際には注意が必要です。最低でも不在時には電気を入れっぱなしにしない等の注意は怠るべきではありません。

電気式床暖房では電磁波の影響が強く出る可能性があります

もう1点電気式の床暖房で注意したいのは、電磁波の問題です。これは製品によっても異なりますので一律には言えませんが、低周波の電場と低周波の磁場が強く発生する製品もあるようです。

送電線

電磁波は高圧線だけを注意すれば良いというものではありません。

電場についてはアースをうまく組み込んでいる製品や、RC造の建物では問題にならない(躯体の鉄筋コンクリートが余計な電場を逃がすため)事が多いようですが、木造の住宅で電場対策が行われていない電気式床暖房のシステムでは強い電場が出ていることがあります。

磁場についても、最初から磁場を打ち消すような設計になっていない床暖房では高い磁場を検出することもあります。特に電熱線型の床暖房では高い磁場を出す事例を見たことがあります。

カーボンフィルムやPTCのような面状発熱体は電磁波を出さないと主張されている方もいらっしゃいますが、その主張中に電磁波の計測結果が表示される事がほとんどないため、どの位信用して良いかどうかが分かりません。実際に計測結果を公開しているPTCタイプの製品のサイトでは、電磁波はほとんど出ませんと主張していますが、計測結果は5mGとなっていました。ほとんど出ないと言ってはいますが、日本電磁波協会の安全基準である3mGという数値を大きく上回っています。

通常の住宅地にある住まいの室内の磁場は0.3から0.5mGという数値である事が多く、5mGという数値でほとんど出ていないという表現は問題ではないかと思います。

もし今後電気式床暖房を導入予定で、メーカーから電磁波はほとんど出ていませんと言われた場合には、言葉ではなく実験結果では何mGだったのかの数値を聞くようにする方が良さそうです。「ほとんど」というあいまいな言葉で済まさない方が安心です。

これは床暖房に限りませんが、電磁波は全く出ません、と主張されている製品でも強い電磁波が出ているという事はよくあります。計測結果が示されていない製品については、言葉だけで考えるのは危険です。

温水式床暖房は水漏れと熱源について考えましょう

温水式床暖房の場合には電磁波の心配はありません。その代わりに水漏れと熱源となる給湯器の音などに気を付ける必要があります。

水漏れについてですが、通常の使用で温水パイプから水が漏れるという事はほとんどないと思われます。最近の温水式床暖房に利用する温水パイプは架橋ポリエチレン管でできています。架橋ポリエチレン管は水道管等にも採用されている素材で耐久性は30年以上あると言われています(温度や水圧にもよりますが50年以上と主張される方もいらっしゃるようです)。

ただ、昔は床暖房の温水パイプを取り付けた後に床材の工事で釘を打ち、パイプに穴を空けてしまったりとかパイプの無理な取り回しで亀裂が入ったりという事があったようです。今では工事の手順も確立されていますので、そのような事故は少ないと思います。

時々温水の水漏れがあると聞きますが、聞いている限りではパイプと給湯器の接続ミスなどの施工の問題であるケースが多いと思われ、架橋ポリエチレン管などのパイプ自身に問題がある訳で無さそうです。

エコキュートの配管

配管の繋ぎ損ねの漏水は考えられますが、架橋ポリエチレン管の破損率は高くありません。

ただ滅多にないとは言え、万一パイプから水漏れがあり、その事に気が付かずに長年放置しますと、構造体である木部が濡れ腐朽してしまう可能性もありますので、水が抜けていないかどうかは定期的にチェックする方が良さそうです。

水漏れよりも問題になる可能性が高そうなのが熱源の問題です。熱源が通常のガス給湯器やエコジョーズ等であれば、問題になる事はあまり無いでしょう。問題になる可能性があるのはエコキュートを利用する場合です。エコキュートは効率が良い給湯器であるため電気代が安くなるなどのメリットはありますが、低周波音を発生させる機械でもあります。そのため、一定の割合で住んでいる人や隣地の方が低周波音過敏症になるリスクがあります。

エコキュート

率は低いとはいえ、低周波音過敏症になるリスクを軽く考えてはいけません。

消費者庁の調査によりますと、エコキュートが原因で低周波音過敏症になるリスクは10万人当たり7人程度との事ですが、この計算は申告した人のみを数えているため、実際にはもう少し率が高いでしょう。発症率が数千人に1人と仮定しますと、率的にはたいへん少ないかもしれませんが、一度低周波音過敏症を発症しますと日常生活が大変に困難になります。発症した場合の生活の困難さを考えますと、率が低いとはいえ、敢えて選択する必要は無いのではないかと私は思っています。

私見では温水式の方がメリットが大きいように感じています

このような事を考えていますと、安全面などから見た印象では、温水式、それもガス給湯器による温水式床暖房が1番リスクが低いように私は感じます。

ちなみに電気式と温水式では経済面で見れば面積によって差が出るようです。有名な設備設計者である山田浩之さんの試算では、設置面積が20平米当たりが経済性の分かれ目だそうです。設置面積が20平米以下であれば電気式の方が、20平米以上であれば温水式の方が経済性が優れているそうです。

もっともこれは2014年時点での試算ですので、機械の発展状況により今は異なっているかもしれません。

この記事でお話ししました内容の一部を動画でも解説しています

ここまでお話ししました内容の一部を動画でも説明してみました。その動画がこちらです。

よろしければ、動画もご確認ください。

蓄熱式床暖房は全く違う切り口で考える必要があります

温水式や電気式という切り口とは別に、蓄熱式床暖房と言うものがあります。蓄熱式も温水式や電気式という区分けができるのですが、日常的な使い方が通常の床暖房と異なるため、蓄熱式のみ他の床暖房システムと別として比較される事があります。

蓄熱式床暖房は、熱源や熱を伝えるものは他のシステムと同様に種類が多くありますが、暖房をしたい時に使うのではなく、価格の安い深夜電力などを使い、夜のうちにコンクリート等の蓄熱体に熱を溜め、日中はその蓄熱体の暖かさで室内を温めるというものです。

レンガ

コンクリートやレンガのような蓄熱体を夜間に温めておき、昼はその熱で室内を温めるものです。

これは個人的な意見ではありますが、首都圏ではこの蓄熱式暖房は使いにくいのではないかと考えています。それは蓄熱式床暖房は細かな温度調節が難しいからです。この日は寒いと考えて、前日の夜からコンクリートを温めておいたものの、翌日は天気が良く気温が高くなったため、逆に暑くて困るという話をよく聞きます。

北国のような平均して気温が低い場所では利用価値は高いと思いますが、冬はもちろん春秋でも気温が読み難い首都圏では使い勝手が難しい気がします。

さらには蓄熱式床暖房は深夜電力を使う率が高いのですが、深夜電力の使い方としてエコキュートを使う例が多くなります。前述しましたようにエコキュートは低周波音の問題が解決されるまでは、リスクが少し高い選択肢だと思っていますので、個人的にはこちらの面でもあまりお勧めできません。

新築であれば、床暖房の設置の前に断熱性を考える方がエコで快適であるはずです

ここまで床暖房について、思うところを述べてきました。私は床暖房否定派ではありませんが、それでも床暖房を選ぶ際には慎重になるべきだと思っています。ここまで述べてきたような様々なリスクを考えつつ、選ばなければならないからです。

そしてこれから戸建住宅を新築されるという事であれば、床暖房の設置の前に断熱をどうするかを深く考えるべきだと思います。床暖房の設置コストはタイプや面積にもよりますが、60万円から100万円以上の費用がかかるでしょう。しかしその分を断熱性向上に向けますと、かなり断熱性は高くなります。

実際に首都圏で高気密高断熱系の家を建てている工務店さんでは床暖房を入れないという会社はたくさんあります。話を聞きますと必要ないから、と言われます。

高気密高断熱の家ですと確かに床も冷たくありませんし、エアコン1台でも問題を感じません。費用は床暖房を入れるよりも余分にかかるかもしれませんが、全室の快適性を考えますと、断熱効果の方が効率が高いように感じますし、ランニングコストまで考えますと、その方が元が取りやすいと思います。エネルギーをあまり使わないというエコ的な切り口で考えても、断熱性が高い住宅の方がエコになります。

エアコン

断熱性を高くすることで暖房はエアコン1台で足りるという事もあります。

床暖房を入れた普通の戸建住宅と床暖房を入れていない高気密高断熱の住宅の両方を経験した人であれば、後者の方が良いと感じる人の方が多いでしょう。

ただ残念な事に高気密高断熱の住まいを経験している人はほとんどおらず、床暖房を入れた人の率が圧倒的に高いために、床暖房の良さの方が世間には広く伝わっているように感じます。

建売住宅などを作る会社も、床暖房であれば売りになるけれども、高気密高断熱ではあまり売りにならないという理由で前者を採用する率が高いようです。

建物が古く断熱改修が大変と言う家やマンションであれば床暖房の設置は効果が高いと思いますが、新築であればまずは断熱をどうするかを考える方が、色々な意味で価値が高いと私は思っています。

もっとも何が快適かは人によって感じ方も違いますので、この話が絶対に正しいというものではありません。参考意見としてこのページを読んでもらえればと思います。

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