建物検査は本当に不要?中古住宅購入前に知っておきたいこと
最近、中古の戸建て住宅を購入される方で「建物検査をした物件を買いたい」という声が非常に増えています。しかし、「建物検査」という言葉は知っていても、その具体的な内容や、どのような検査をクリアすれば良いのか、といった詳細がまだあまり知られていないのが現状です。
今回は、建物検査が具体的にどのようなものなのか、そしてなぜその検査が重要なのかについて、一般論と当社の検査内容を交えながら詳しく解説していきます。中古住宅は新築とは異なり、これまでの使用状況や経年劣化が避けられないため、購入前の詳細な状態把握が非常に重要になります。
建物検査ってどんなレベルの検査?「健康診断」のようなもの
まず知っていただきたいのは、建物検査が「どのようなレベルの検査なのか」ということです。特に中古の戸建て住宅の建物検査は、例えるなら「健康診断レベル」だと考えてください。
これはどういうことかというと、「明らかに問題がある建物は分かる」レベルの検査であり、この検査をクリアしたからといって「全く問題がない」と全ての内容を保証するものではありません。例えば、壁の裏側や基礎の内部など、解体しないと見えない部分の構造的な欠陥や、将来的に発生する可能性のある問題までを完全に予見することはできません。しかし、目視や専用機器で確認できる範囲で、大きなひび割れ、明らかな雨漏りの痕跡、深刻なシロアリ被害の兆候、著しい建物の傾きといった「明らかに問題がある」状態は確実に発見できます。
「問題の原因が分からないのに検査する意味があるの?」と思うかもしれません。しかし、たとえ原因が特定できなくても、「何かしらの問題がある」という事実が分かるだけでも、不動産を購入するかどうかの判断材料として非常に有効です。
例えば、建物の「傾き」について。築20年以上の建物でも、普通に建てられていれば基準以上の傾きが出ることはほとんどありません。不動産会社の営業担当者の中には「中古だから傾くのが普通」と言う人もいますが、これは誤解です。傾きが出ているということは、何かしらの問題がある証拠なのです。その原因が地盤の不同沈下なのか、構造体の問題なのかは、さらに詳細な調査(一部解体など)をしないと特定できない場合が多いですが、傾いているという事実自体が、住み心地の悪さや将来的な構造的リスクを示唆します。
検査では、傾きの原因を特定するために建物を部分的に壊して調べることはできませんが、傾きの有無やその程度を把握することで、購入判断に役立つ重要な情報を得ることができます。この情報があることで、購入を見送る、価格交渉の材料にする、あるいは追加調査を検討するといった具体的なアクションに繋げることが可能になります。
建物検査にはいくつかのタイプがある
一言で「建物検査」と言っても、実はいくつかのタイプがあります。不動産購入者が何を求めるかによって、選ぶべきタイプが変わってきます。
現在、最もメジャーなのは「建物状況調査」と呼ばれるタイプで、さらに「瑕疵保険適合タイプ」と「貸保険と関係のないタイプ」の2種類があります。
- 瑕疵保険適合タイプ: この検査に合格すれば、保険料を支払うことで「既存住宅瑕疵保険」に加入できます。この保険は、引き渡し後に発見された構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分の隠れた瑕疵(欠陥)に対して、補修費用などを保険金でまかなうことができるため、買主にとって大きな安心材料となります。不適合の場合は、修理工事を行って再検査しない限り、保険には入れません。売主が引き渡し前に大規模な修復工事を行うことは稀であるため、不適合となった場合は、そのままでは瑕疵保険に加入できないと考えるのが現実的です。
- 瑕疵保険と関係のないタイプ: 保険とは関係なく建物の状況を調査するものです。最近は「建物状況調査」という同じ名前が使われることがありますが、保険の加入には繋がりません。このタイプは、純粋に建物の現状を把握し、購入判断や将来のリフォーム計画に役立てたい場合に選ばれます。
その他に「ホームインスペクション」という検査もありますが、これも瑕疵保険とは関係のないタイプで、指導している団体が異なるため名称が違います。ホームインスペクションは、中立的な立場から建物の劣化状況や欠陥の有無を診断し、その結果を報告書として提供することで、不動産取引の透明性を高め、消費者保護の役割も果たしています。
では、なぜ瑕疵保険と関係のない検査を選ぶ人がいるのでしょうか? 具体的な例としては、売主が業者である場合です。業者が売主の場合、法律により2年間の瑕疵担保責任を負うため、買主が別途貸保険に加入する必要がないからです。しかし、それでも「念のため検査を受けて、物件の状態を詳細に把握しておきたい」「将来的なメンテナンス計画を立てるために、専門家の意見が欲しい」といったニーズから、瑕疵保険とは関係のない検査を希望するケースは少なくありません。新築物件や買取再販の中古物件(業者がリフォームして販売する物件)でも、建物の状態を客観的に確認したいという買主の要望に応える形で、このタイプの検査が実施されることがあります。
どちらのタイプを選ぶにしても、検査結果の内容は購入判断の重要な材料となるため、単に「合格」「不合格」だけでなく、その詳細を厳しくチェックすることが重要です。検査の範囲、報告書の内容、そして検査会社の信頼性などを総合的に判断し、ご自身のニーズに合った検査を選ぶことが肝要です。
当社が行う建物検査の具体的な項目
大体の会社では似たような項目を調べますが、ここでは当社が建物検査で行う具体的な内容をご紹介します。これらの項目は、建物の主要な部分から、見落とされがちな細部までを網羅し、多角的に物件の状態を把握することを目指しています。
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サーモカメラによる雨漏り調査
通常の建物状況調査では珍しい項目ですが、当社では創業当初から導入しています。
サーモグラフィーカメラを使用し、壁や天井の表面温度のわずかな違いを検知することで、非破壊で雨漏りの有無やその経路を推定します。水は蒸発する際に熱を奪うため、濡れている部分は周囲よりも温度が低くなる特性を利用した検査です。これにより、目視では発見しにくい隠れた雨漏りも発見できる可能性があります。
詳しくは「2-01.サーモグラフィカメラは雨漏りの建物を見つけます」の記事をご参照下さい。
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レーザーレベルによる傾き調査
ほとんどの検査会社が行う項目です。新築で3/1000まで、中古で6/1000までの傾きであれば問題ないと判断されます。
高精度なレーザーレベル測定器を使用し、室内の床や壁の傾きをミリ単位で測定します。建物の傾きは、地盤沈下や基礎の不具合、構造的な問題など、様々な原因で発生し、住み心地の悪化だけでなく、将来的な建物の寿命にも影響を与える可能性があります。
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床下・屋根裏の目視
雨染み、クラック、ボルトの緩み、シロアリの被害がないかなどを、可能な範囲で入り込み、写真を撮って拡大チェックします。これらの空間は普段目にすることがないため、劣化や不具合が進行しやすい場所です。特に、湿気がこもりやすく、木材の腐朽やシロアリの発生リスクが高い床下、雨漏りの影響を受けやすい屋根裏は、建物の健康状態を把握する上で非常に重要なチェックポイントとなります。
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基礎の鉄筋チェック
外から見ただけでは分からない基礎の鉄筋の有無を、金属探知機で調べます。
基礎に鉄筋が入っていない「無筋コンクリート」の場合、地震や地盤沈下に対して強度が著しく劣るため、建物の安全性が大きく損なわれます。過去には無筋コンクリートの建物も確認されており、念のためのチェックとして重要です。
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外壁・基礎の立ち上がりの目視・手触り
クラックの有無や幅(クラックスケールを使用)、外壁のチョーキング現象(手で触って粉が付く現象)などをチェックします。外壁のクラックは、雨水の浸入経路となるだけでなく、構造的な問題を示唆することもあります。チョーキング現象は、塗膜の劣化を示すサインであり、防水機能の低下や美観の損ないに繋がります。シーリング材の劣化や切れも、雨漏りの原因となるため、細かく確認します。
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電磁波(磁場)と放射線測定
これも珍しい項目ですが、当社では実施しています。
電磁波(磁場)は、高圧線の近くなどで高くなることがあり、健康への影響を懸念する方もいらっしゃいます。放射線測定は、ガイガーカウンターやシンチレーションカウンターを使い、数値をチェックします。幸い放射線測定で問題のある数値が出たことはありませんが、磁場に関しては場所によって強いところもあり、お客様に情報を提供し判断を委ねます。
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屋根の目視チェック
望遠レンズで屋根材の割れやずれがないかなどを確認します。ほとんどの検査会社が実施する項目です。屋根は雨風から建物を守る重要な部分であり、屋根材の破損やずれは雨漏りに直結する可能性があります。可能な限り詳細な目視で劣化状況を把握します。
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室内の雨染み、クロスのクラック、床材の沈み込み
室内の雨染み、壁紙の過度なクラック、床材の著しい沈み込みがないかなどをチェックします。室内の雨染みは、屋根や外壁からの雨漏りが内部にまで達していることを示します。壁紙のクラックが広範囲にわたる場合や、特定の箇所に集中している場合は、建物の構造的な動きや歪みを示唆している可能性があります。床材の沈み込みが著しい場合は、床下の構造材(根太や大引)の劣化や不具合が考えられ、歩行時の不快感だけでなく、将来的な補修費用に繋がる可能性があります。これらの項目は、特に瑕疵保険加入の重要な判断材料となることが多いです。
なぜ建物検査は必要なのか?
「売主さんが問題なく住んでいたのだから、問題なんかあるわけないでしょう?」という主張を耳にすることがあります。しかし、これは全く納得できるものではありません。
実際には、問題があっても売主さんが気づかないことの方がはるかに多いのです。建物が6/1000以上傾いていても、敏感な人であれば気づくかもしれませんが、多くの方は日常の生活の中でその変化に気づかないものです。私自身も計測機器でチェックして初めて「ああ、傾いているな」と分かることが多く、感覚だけでは判断が難しい場合がほとんどです。また、屋根裏に雨染みがあったり、基礎にクラックがあったりしても、売主さんが日常的に屋根裏に上がったり、基礎を細かくチェックしたりすることはほとんどありません。壁の内部で発生している配管からの水漏れや、電気配線の劣化、隠れたカビの発生なども、住んでいる人が気づかないうちに進行しているケースは多々あります。
「売主さんが大丈夫だと言っているから」という話には、正直何の説得力もありません。売主が悪意を持って隠しているわけではなくても、単に「気づいていない」という可能性が非常に高いからです。
そして、建物検査を「不要」と主張する人のほとんどは、残念ながら建築の素人であり、根拠のない主張をしているに過ぎないことが、これまでの経験上、非常に多いです。不動産会社の営業担当者の中には、検査によって契約が滞ることを避けたい、あるいは物件の欠陥が露見して価格交渉に発展することを恐れるあまり、検査を勧めない、あるいは拒否するケースも存在します。彼らが建築の専門知識を持たない場合、その主張は客観的な根拠に乏しいと言わざるを得ません。
建物検査は、当社の場合は約3時間かけて現場で調査し、その後、数時間かけてデータをチェックし、お客様への説明に1時間ほどかける、非常に手間と時間のかかる作業です。しかし、それだけの時間と労力をかける価値があるほど、建物の現状を判断する上で非常に重要な情報となります。この情報があることで、買主は物件の真の状態を理解し、購入の可否、価格交渉、あるいは必要な修繕費用を見積もるための根拠を得ることができます。
不動産会社の中には、検査を「させません」と言う人もいますが、それは「面倒だからやりたくない」のか、あるいは「何かしら問題があるので検査をさせないようにして、分からないようにしている」のではないかと疑ってしまうような状況もあります。買主が安心して物件を購入し、長く住み続けるためには、物件の状態を透明にすることが不可欠です。
まとめ
これから不動産を購入しようとしている皆さんには、建物検査が本当に必要ないのかどうか、そして費用を払ってでも検査をした方が良いのかどうかを、ご自身でしっかりと考えていただきたいと思います。
建物検査は、購入する物件が抱えるかもしれないリスクを事前に把握し、後悔のない選択をするための、非常に重要な「判断材料」です。物件の状態を客観的に把握することは、単に安心を得るだけでなく、将来的な予期せぬ出費を防ぐための賢明な投資とも言えます。ぜひ、積極的な建物検査の実施をご検討ください。