相続で破産するということは理論的にはあり得ないはずなのですが
2015年1月1日より新しい相続税が始まったことを受け、相続税対策で不動産を売却したり購入したりということが増えているようです。しかし、残念なことに相続の専門家と言えるような人はほとんどいません。
税理士は相続税についても分かるので専門家ではないか、とお考えの方もいるかもしれません。しかし相続の経験ががある税理士は意外と少なく、また相続税の額自体は分かってもその対策については素人と大きな差がないケースもよくあります。
また不動産会社の人は相続案件を数多く扱っているので詳しいとお考えかもしれません。ただ不動産会社の1番の目的は、その際に不動産を売ったり買ったり、または建物を建てたりすることです。その時に利益が出れば良い訳ですので、本当に相続される人のメリットになる提案かどうかは、期間が経ってみないと分かりません。
不動産会社に対策を依頼し、相続税自体は安く済んだとしても、受け継いだ資産自体がそれ以上に大きく価格を下げてしまうのであれば、最終的には損をすることになります。結局相続人、被相続人が事前に勉強し、専門家をコントロールして、相続対策を行わなければなりません。
当社:ふくろう不動産は不動産を買いたいという方のためのサービスを行う不動産会社ですので、相続に係ることは少ないのですが、それでも不動産に関係する相続についての基礎知識は持っています。また、定期的に相続についても勉強し、お客様に対し、最低限のアドバイスはできるようにしたいと思っています。
そんな状況で、今回相続関係で読んだ本について、紹介と感想を述べたいと思います。
知識が無い場合に最初に読む本として新書本はお勧めです
今回読んだ本はこちらです。
今回は新書本を紹介しています。話は本論から外れますが、最初にどういった本を買って勉強したら良いのか分からない、という場合には、最初に関連の新書本を読むという方法はお勧めです。なぜ新書本がお勧めかと言えば、
・専門家でない人を対象として書かれているため、読みやすい
・価格が高くないため買いやすい
・出版社が大手であることが多く、内容が一定レベル以上であることが期待できる
といったメリットがあるからです。
3つ目の理由の「内容が一定レベル以上」という話は少し分かりにくいかもしれません。これはマニュアル本を複数買ったことがある方はお分かりかもしれませんが、ノウハウ本、マニュアル本は結構当たり外れが大きいという背景があるからです。
私も仕事柄専門の本を多数購入して読んでいますが、これは良かった、と思える本は10冊読んだ中では1~2冊しかありません。残りの8~9冊は論点にまとまりが無く読み辛かったり、そもそも内容自体が間違っていたり、上っ面の知識が並べられているだけだったりと、良書に巡り合うのは簡単ではありません。担当編集者が、その本の内容に詳しくない場合や、編集能力が高くない場合にこのような傾向が特に出ます。
その点新書は、曲がりなりにも大手出版社が発行しています(一定点数を出さないと新書の発行自体が難しいため、大手以外は参入しにくいジャンルだからです)。これらの出版社の編集能力はそれなりに整っているせいか、明らかにおかしな内容の本はあまり見かけません。
また、少ない文字数で、内容を分かりやすく伝えるというコンセプトがはっきりしていますので、知らないジャンルの話でも、全く理解できない、ということはあまりありません。
このような理由で、新しいジャンルについて知りたい時や、あまりそのジャンルに詳しくない際に、入門書的に読む分には新書は結構お勧めです。
相続したために破産するとは本来ありえないはずですが
この本の著者自身も言っていますが、相続を受けで破産するなどということは理論的に考えればありえないはずです。何しろ資産を譲り受けて、その資産の一部を税金として納めます。残る部分がありますので破産するとは考えにくいはずです。仮に借金などの負の資産が多ければ、相続放棄を行えば良いはずで、こちらも破産するだなんてことはあり得ません。
しかし現実には相続がきっかけで破産する例は多いようです。この本では相続で破産する例を3パターン挙げて、説明しています。
相続する財産のほとんどすべてが不動産の場合に、少しだけリスクがあるようです
破産例の1パターン目は、相続財産のほぼすべてが不動産だった場合です。相続税を支払う際には土地などの不動産を売れば良い、と簡単に考えていたところ、その土地が全く売れず、結局相続税を支払うことができずに破産するというパターンです。
しかしこのパターンはあまり多くなく、事前に相続税の金額を計算し、準備しておけば良い、という話を著者はしています。実際このパターンはそう多いとは思えませんが、ゼロでもないのでしょう。不動産の売却は立地によっては何年もかかるということはよくありますので、相続税額を計算し、その分の現金が無いのであれば、早い段階で、一部でも売却を進めるなどの対策は必要になりそうです。
特に広い土地を分割して住宅地として売りに出そうと思った場合、その土地をどう切るかによって、売上、売れ行きは大きく異なります。これは、戸建住宅の分譲を得意としている不動産会社や建築家でなければ、うまくできないでしょう。
また、相続前の対策ですので、土地を切ってどの部分を残すか、どの部分を売却するかも考えないと、同じように土地を切ったつもりでも、相続税が大きくかかる場合もあります。こういった内容を考えるのにも時間がかかりますので、早い段階で対策を立てなければならないという事は間違いなさそうです。
相続破産の最大の要因はアパート節税とのことです
破産例の2パターン目として、アパート節税について述べられています。著者は相続破産の1番の要因はアパート節税だと暗に主張しています。アパート節税は確かに相続税自体は安くなるかもしれませんが、その後に破産する可能性が確かに高くなります。それはアパート経営というものが1つの事業であり、事業を行うのは簡単ではないからです。
また一括借り上げシステムも真に受けてはいけない、と否定的な考えを持っているようです。この意見には私も概ね賛成です。一括借り上げシステムについては当サイトでも「30年一括借り上げという不動産のサブリースを理解するのは難しいことです」の記事を書いています。この本の主旨とも概ね一致しますので、良かった読んでみてください。
アパート経営などと絡めた相続破産については動画でも解説してみました
この部分については動画でも説明しています。その動画がこちらです。
よろしければ、動画もご確認ください。
宝くじ破産という問題についても解説しています
破産例の3パターン目として、宝くじ破産について述べられています。これは高額の宝くじに当たった人が、金銭感覚をおかしくしてしまい、その結果お金の使い方が荒くなって、結局破産してしまうという例から付けた名前です。相続財産を第2の退職金として考える人も増えているという話も出てきました。
しかし相続は宝くじと違い、いきなり当たるものではありませんし、事前に対策を取ることも可能です。財産を信託して、毎年一定のお金を受け取る方式を取る方法も有効との話もありました。
自分1人が相続財産を受け取るのであればまだしも、複数の親族が遺産を受け取り場合にはトラブルが起きやすくなっています。この宝くじ破産も自分1人が気を付ければ良いのではなく、他の相続人の分についても注意しなければならないのは大変です。
相続税の支払いは、遺産を受け取った各自で行うものですが、他の相続人が相続税を支払えない場合には、他の相続人が連帯責任者として、支払えない人の分の相続税を払わなければならないということもあります。そういった展開まで考えて、事前にどのような手を打つかを考えなければならないと、この本では主張しています。
初心者向けに分かりやすく書かれている良い本だと思います
他にも相続の基本的な話が色々と書かれています。相続に対する知識が全く無い人が最初に読むのに良い本だと思います。一方ある程度相続に対する知識がある方には、少し物足りない内容かもしれません。ただ、内容が特殊な手法などに偏っていないので、知識の再確認という意味はあると思います。
この本の考え方の基本は、事前に税額を計算しておく、事前に相続人や被相続人と話をしておく、ということを徹底しよう、という点です。話し合うだけですべてが解決するとは思えませんが、変な誤解やマイナスとなるような対策を取ることは防ぐことができると思いますし、仮に問題が起きそうなのであれば、事前に遺言書を作成してもらうなどの対策も取れるでしょう。
人の生き死にに係る話ですので、積極的にしたい話ではないと思いますが、相続に対してもめそうな場合や多額の相続税がかかる可能性がある場合などには、やはり事前の打ち合わせが欠かせない、ということを再度理解するには良い本だと思います。
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One thought on “相続で破産するということは理論的にはあり得ないはずなのですが”
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