戸建住宅は新築だから安心とは限りません
世間一般では新築は建物性能が高く、中古は性能が低く少し壊れていると考えられています。ですが実のところ、そうではない部分もたくさんあったりします。戸建住宅の欠陥が表に出てくるまで数年という時間がかかることがあるため、見かたによっては、新築よりも築3年以上経過している建物の方が安心できるという面もあるからです。
建物の傾きは築後数年経過しなければ分からない事があります
例えば建物の傾きについては、新築当初よりも築数年経過した建物の方が分かりやすいという点があります。と、言いますのも新築時には水平に建っていたものが、買主さんが引っ越して住みはじめ、建物に重さが掛かった状態で何年か経ってようやく傾き始めるという事もあるからです。また、住み始めてからあった地震の影響で傾き始めるという事もあります。
最近の新築では、家を建てる前に地盤調査を行わなければならない事になっており、その地盤調査書と、調査書に記された対応策を取った建物であれば、原則として傾くという事は考えにくいのですが、ただ絶対傾かないとも言い切れませんので、むしろ一定期間経った建物の方が、傾かない事を実証したとも言えます。
建物は古くなると傾くのは仕方が無いと主張される方もいらっしゃるようなのですが、建てる際に正しく施工していれば、10年や20年で建物は傾いたりはしません。これが数年で傾きが出始めるという事は何かしらの問題があったと考えるべきだと思います。
どの位の傾きがあれば問題とされるのかについては「3-02-15.床の傾きは何度あると危険ですか?」の記事を参考にしてください。
基礎や建物のひび割れも、築3年以上経過しないと出てこない事もあります
基礎や外壁についても、新築時に大きなひびがある建物はまずありませんし、ひびの数もほとんど見つける事は出来ないでしょう。ですが、問題がある住宅や欠陥住宅であれば、築2~3年でひびが数多く出始める事があります。
先程の傾きと同様に、新築時には住人や家具などの重量がかかっていませんし、地震等の振動をそれ程多く受けていません。それが引き渡し後建物に重さがかかり、何回かの地震を経験しますと、問題があった場所が表に出始めるという訳です。
もちろん問題なく建てられた建物であれば、築数年で大きなひびや傾きが出る事はありませんが、何かしらの問題があった場合、新築時にはよく分からなかったものが、数年後に分かるようになってきます。
新築であれば、当然保証が付いていますので売主さんの負担で修繕できるはずですが、ひびの理由が構造などの根本的な問題出会った場合は、その修繕や改修は容易ではありません。ひび等の部分についてはその部分を修理すればよいかもしれませんが、根本的な問題が解決しない限り、また同様の問題が出てきます。
数年おきの修繕を繰り返している間に保証期間が終わってしまい、その後は何も手を打てないという事も起こり得ます。問題なのは根本の問題であって、表面に出てくるひびでは無いのですが、この根本の問題が構造や地盤にあった場合には、解決するのは結構難しかったりします。
雨漏りは経年劣化よりも施工不備のケースが多いように感じます
雨漏りについても、新築時には分からないという事もあります。一般的に雨漏りと言いますと経年劣化で雨水が漏るようになると思われるかもしれませんが、どちらかと言えば施工ミスによる雨漏りの方が多いのではないかと私は思っています。
しかし、新築時には雨漏りの跡が見つからないという事も良くあります。これは雨の降り方にパターンがあり、特定のパターンの時でなければ雨漏りしないという事があるからです。
例えば台風のような強い風と一緒に降る雨で、特定の角度から水が降ってきた場合にのみ雨漏りするといった事です。このような理由から実際には1年間、季節を一通り経験しないと、本当に雨漏りしない建物なのかどうかが判断できない事もあります。
余談ですが、当社では建物検査を行う際に、サーモグラフィカメラによる雨漏り調査も行っているのですが、この調査は雨が降ってから5日以内(できれば3日以内)でなければ調査を行うことが出来ません。5日以上経ちますと、壁内等に入った雨水が乾いてしまうからです。しかしこの調査で完璧な雨漏り調査ができるかと言われれば、そうでもありません。あくまでも5日以内に降った雨のパターンで水が入った場合には分かる事が多いというだけであって、すべての雨のパターンに対応している訳ではないからです。
そして実際に雨が入っていた場合、その原因究明や補修は簡単ではない事もよくあります。明らかにこの部分から雨漏りしていると分かる場合もあれば、何回修繕しても結局治らないというケースも良く聞きます。
そのため雨漏り補修を専門で行う会社以外の工事店は、雨漏りの補修はあまり積極的にやりたがりません。何度工事を行っても修復できず、原価割れしてしまう可能性がそれなりに高いからです。
これが中古戸建ての場合には、雨漏りしていればその跡が残っている事もあり、問題があると分かる可能性が増えます。そして中古の場合には、雨漏りの可能性があり問題であると判断すれば買わなければ良い話ですので、雨漏りしている原因を見つけなければならないという義務を負う事もありません。
床下の換気状況も築数年後でなければはっきりとは分かりません
床下の換気がきちんとできているかどうかについても、新築戸建てでははっきりと分かりません。当社の検査では、床下の換気がうまくいっているかどうかの基準の1つに、床下のコンクリートの基礎や土台などの木材の含水率をチェックするようにしています。
築年数が10年以上の建物であれば、コンクリートの含水率は2%台以下になる事が多いですし、木材の含水率も20%以下になるケースが多くなります。(注:当社の水分計による計測結果です。当社ではこの数値を目安として見ているだけで、これらの数値が絶対的に正しいという話ではありません。)
もしその建物の床下の換気がうまくいかず、湿度が高い状態であれば、土台の木材の含水率は25%を超えていることもあり、このような建物であれば、床下換気に問題があるかもしれないと疑う事になります(必ず相関関係があるとは限りません)。
ただその建物が新築の場合ですと、判断が難しくなります。新築の場合コンクリートが完全に乾いていないため、コンクリートの含水率が4%以上になる事もよくあります。そしてその場合にはコンクリートの木材の影響なのか、土台の木材の含水率も結構高い数値を出すことがあります。
だからといって、すぐに床下換気がうまくいっていないと判断することは出来ません。数年経てばコンクリートが乾燥し、木材の含水率も下がる事も考えられるからです。
そのために、当社では新築の建物検査を行う事もありますが、床下の換気については目安程度で含水率を調べるだけで、実際には判断ができないという状況にならざるを得ません。
断熱工事は新築中古を問わず、大半の建物の工事は雑です
この話も少し余談ですが、断熱工事については新築の建物であっても中古の建物であっても雑に行われているというケースが良くあります。全く断熱工事が行われていない古い建物は別ですが、これは新築だからきちんと断熱されていて、中古はうまくない、という話ではありません。
当社で新築の建物検査でサーモグラフィカメラで雨漏り状況をチェックするのですが、その際に壁や天井の温度を確認します。すると、天井でこの面のみ断熱材を敷き忘れたのではないか、と思われる部分が高い熱を持っている事がありますし、端の辺りでは断熱材が足りないのか浮いているのか、やはり断熱ができていないという事も良くあります。
壁も同様で、筋交いの中心当たりの断熱ができていないとか、狭い範囲の壁部分にも断熱材が入っていないと思われるケースも良く見ます。これは建物を施工する会社の姿勢や精度による部分が大きく、新築だからとか中古だからという部分はあまり関係は無いように感じます。
新築は保証があるのがメリットですが、本当に保証を受けるのは簡単ではありません
新築物件であれば、中古と異なり売り主の瑕疵保証が付くため、問題があっても大丈夫と考える方も多いかもしれません。確かに新築物件であれば、建物の基本的な性能については10年間の瑕疵保証が付くことになっていますし、売り主自身がそのための保険に入っているケースも多くなりますので、その点では安心できるはずです。
しかし、この問題があると立証することも言うほど簡単ではありません。雨漏りのようにはっきりした瑕疵であれば話は早いのですが、ひび割れがあるという状態ですと、どのレベルで瑕疵であると言えるのかの判断は割と曖昧だったりします。
売り主側はもちろん瑕疵ではないと主張するでしょうし、保証期間は何としてもお金をかけずに乗り切ろうとする会社も出てくるでしょう。瑕疵であると証明するために、裁判にも精通した検査会社に依頼しなければならないという事にもなり兼ねません。簡単に、保証があるから大丈夫とは思わない方が賢明です。
さて、新築であっても問題があるかもしれないという話をしてきました。もちろん本当に問題が出そうな物件はごく一部だと思いますし、大半の物件では問題は出ないとは思っています。ただ、新築だから必ず安全だと簡単に結論を出してはいけませんし、過剰な期待をするのも間違っていると思います。
実際に不動産を選ぶ際には、様々な選択肢の中から、多くのメリットとデメリットを見た上で決断しなければなりません。このページでは、新築の過大な評価をきちんと考えて欲しいと思い、記事を作りました。
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