【限界のタワーマンション】を読んで感じたことをまとめてみました
当社:ふくろう不動産では不動産を購入する前には、色々と勉強をしましょう、と主張しています。そして勉強方法として最も有効なのは書籍を読むことです、とも話しています。自分でそう主張している以上、自分自身も定期的に書籍を読み、情報をアップデートしなければならないと思っていますし、実際に月に数冊は関連本を読むようにしています。
ただ、それらの本について読みっぱなしという事も多くなりましたので、自分の備忘録を兼ねて今回読んだ本についてまとめ、と言いますか感想を述べる事にしました。
今回読みました本は「限界のタワーマンション(榊 淳司:著)集英社新書」です。
先に大まかな感想を述べますと、私はこの本の主張にはあまり賛同していません。大体8割位は意見が異なるなという印象です。私自身はタワマンは別に好きではありませんので、住みたいとは全く思っていません。ただそれは自分の好みに合わないというだけで、タワマンの存在自体がダメという話とは異なります。
ですので特にタワマンについて悪く言うつもりはないのですが、一方でタワマンならではリスクというものがあるのも確かで、そのリスクについては、購入者は知るべきだと思いますし、知った上で購入するかどうかを考えるべきだと思います。
その意味では、タワマンの購入を検討されている方は、この本を読む方が良いとは思っていますが、そうは言ってもこの本の偏見度合いはかなり高いと感じますので、読むときには注意が必要だと思っています。どのような点が偏見だと感じたかについて、簡単に意見を述べたいと思います。
[タワマンの寿命は30年]の根拠に信ぴょう性を感じません
この本の[はじめに]の部分では、「タワーマンションの寿命は30年で尽きる」との主張があります。その根拠として
・修繕費用が高い
・この先30年で大幅な資産価値の下落がある
・資産価値が下がったタワマン所有者は修繕を行わない
という論法となっています。
これらの話の詳細は、この後の章で出てきますが、各論について大変根拠が薄い話を元に、予想を積み重ねている感があります。どうしても書籍の特性上、センセーショナルな話を冒頭に持ってこなければならないのでしょうが、これだけの根拠と予想で、よくこの結論に持っていけますよね、と感心するレベルではあります。
この後の章毎にタワーマンションはダメである、的な話が続きますので、その各々のダメである根拠について感じる事をお話します。
ヨーロッパの人はタワーマンションが嫌いだという主張は正しいでしょうか
序章では、タワーマンションが好きなのは日本人だけである、という論調の話となっています。話の根拠として
1.イギリス人2人に聞くと、タワマンを住まいとして買わないという話があった
2.イギリスでは高層住宅は低所得者が住んでいるイメージである
3.オランダに住む人はタワマンに否定的
等の話が挙げられています。
ただこれらの意見については、正直どれも根拠として薄い印象があります。1.についてはイギリス人2人とサンプル数が少ないですし、更に言えばそのイギリス人2人はタワマンをダメと言っているのではありません。あくまでも自分は主たる住まいとしては買わないだろう、と言っているだけです。
また、2.についても一般的には高層のマンションは低所得者向けだが、富裕層向けの超高層住宅もある、との話もあり、こちらもやはりタワマン否定の話ではありません。
3.の否定的という見解についても、アンケート結果では住みたいという人が32%あったという事を考えますと、それほど悪い数値ではないと私には思えます。同じ質問が日本人にされていませんので、正確には分かりませんが、それ程大きな差では無いのではないでしょうか。
また仮にヨーロッパ系の人はタワーマンションが好きではなく、日本人が好きだという結果だったとしても、それは好みの差ですので、他の人がとやかく言う話ではありません。この章ではタワマンに住む人は見栄っ張りであるとの話で、それが本当かどうかは私には分かりませんが、仮に本当に見栄っ張りだとしても、それは住む方の価値観・趣味の問題であり、他の方が問題視する話でもありません。
この章では意図的にタワマンについて悪いイメージを作るように書かれているように感じます。実際によく読み込めば事実はそうではないのですが、印象として悪い印象を与えるような表現になっている気がします。
タワマンは迷惑施設化するからダメと言われましても
第1章では、タワマンが建つ事で周辺住民は迷惑している、という論調の内容となっています。具体的な内容としては
1.駅が混む
2.子供の数の割に公園や保育園の数が足りない
3.近隣住民は反対者が多い
という内容が書かれています。
1つ1つの項目については、これらは事実でしょう。ただこれらの話はタワーマンションに限らず、一定規模以上のマンションが建設される時には、必ず出てくる話でタワマンの話に限りません。数百個単位のマンションが出来る時には同じような話になります。もちろん近くに住む人は何かしらの影響を受けるでしょう。一方でこの話を簡単な言葉に置き換えると、「町が混むからお前らは来るな」という事です。そして、このような話があるからタワマンはダメである、という理屈には無理があるように感じます。
ちなみにマンションの建設の場合は、タワマンに限らずほとんどのマンション建設の現場で近隣住民の反対者は出ます。小規模のマンションでも反対者は出ますし、さらに言えば、戸建て住宅の建設であっても反対する人は珍しくありません。様々な価値観の方が同じエリアに一緒に住む訳ですから、すべての人が納得する事はあり得ません。ですので反対者がいるからタワマンはダメという論調にはあまり根拠を感じません。
もちろんタワマン購入者は、駅や子育て環境は最初見た状況とは異なる事がある、という点は予め考えておく必要があります。思っていたよりも駅が混んでいた、保育園が無い、という不満を出したとしても、「いやそれはあなた方が大量に住み始めたからですよね」という事ですので、文句を言うのは将来予測の力が足りなかっただけでは、と思います。
そしてこの第1章の話は、タワマンの寿命30年の話とは全くつながりません。単に住民が急速に増えたため、駅や教育機関等の対応が間に合わない、という話だったりします。
タワマンは修繕費が高いため将来廃墟化するという主張に無理があると感じます
第2章は修繕費の話です。そしてタワマン寿命30年説の根拠としているのは、基本的にこの章の内容が中心です。著者の主張では、タワマンは大規模修繕にかかる費用がとても高く、2回目や3回目の大規模修繕では管理組合のお金が足りなくなり、年金生活者になっている所有者はその修繕金が支払えず、建物が傷み、タワマンが廃墟化する、という流れになっています。
そしてこの修繕金が足りなくなる根拠として
1.2回目の大規模修繕はお金が足りないタワマンの事例がある
2.スーパーゼネコンが20億の大規模修繕工事の見積もりを断る程修繕は大変
3.調査した80%のタワマンの修繕費が国交省のガイドライン以下
4.理事会の腐敗がタワマンで起こりやすい
等の話を挙げています。
ただこれらの話については、根拠として正しいかどうか疑問に感じる点も多くあります。例えば1.の修繕金が足りない事例のタワマンは、修繕積立金の専有面積単価は93円/平米との記載がありました。一般的に必要とされる修繕積立金は平米当たり200円位と言われており、このマンションはその半分以下です。このような安い積立金の設定をしているのであれば、タワーマンションでなくとも修繕金が足りなくなるのは当然で、これはタワマンのせいではなく、長期修繕計画がずさんであったものと思われます。このような修繕積立金が足りていないマンションはタワマンに限らずたくさんあり、これはマンション一般の注意点として知っておくべき話だとは思います。一方でタワマンだから足りない、という話の根拠としてはあまり当てはまらないと思います。
2.のスーパーゼネコンが見積もりを断ったという話から、タワマンの修繕が難しいという話も論理に無理があると思います。と言いますのも、この見積もりは予算20億円との事でしたが、通常スーパーゼネコンは本当に大規模の工事しか行わず、20億クラスの工事はスーパーゼネコンから見て、十分な金額の工事ではありません。ましてや手間のかかる修繕工事を、少ない予算で受けるという事は考え難く、見積もりを断るのは当然という気はします。
例えばゼネコンは戸建住宅の建設等は行っていません。技術が無いからではなく、ゼネコンから見れば効率が悪く、儲かり難いからです。しかしこの事実をもって、戸建て住宅の建設は高いからダメ、と主張する人はいません。会社毎に得手不得手のジャンルがあり、得意でないジャンルの工事を請けないのは当然と考えるからです。そして今回の20億円の修繕工事の見積もりを受けなかったことも、得意でないジャンルの工事であるから請けなかっただけで、この修繕工事が大変だからという理屈は無理があります。
この1.と2.の話は動画でも解説していますので、そちらもご参照ください。
3.の調査したタワマンの修繕積立金の設定が国交省のガイドライン以下というのは確かに問題です。ただこれもタワマンの問題ではなく、管理組合の問題です。もしタワマンが著者さんが主張されるように、通常よりも1住戸当たり多額の修繕金が必要なのであれば、当初から高めの修繕積立金の設定をすべきです。実際にはむしろ低い設定になっているのであれば、もちろん問題ですが、これは通常のマンションでも同じことが言えますので、タワマンの問題として扱うのは不適切な気はします。
これが通常のマンションではいくら位足りない、そしてタワマンではいくら位足りないと比較し、タワマンの方が圧倒的に修繕金が足りないという比較論が出ていれば、それなりに説得力があるのですが、タワマンの足りない部分だけを説明し、だからタワマンはダメという話はタワマンだけの問題かどうかが分かりません。
4.に至っては単なる著者さんの思い込みではないかという気もしますが、これは正確なデータが無い以上、私も何ともコメントできません。著者さん独自の情報源があり、そこから概ね正しいという判断なのかもしれませんが、私見では少し怪しい意見のような気もします。
タワマンは災害に弱いという主張は正しいでしょうか
続く第3章ではタワマンは災害に弱いとの主張がされています。根拠としては、今までに無かったタイプの地震の揺れがある事が分かり、その揺れに今までの対策が施されたタワマンが耐えられるかどうかという点を挙げています。具体的には
・長周期地震動
・長周期パルス
に耐えられないのではないか、との主張です。
この意見が正しいのかどうかは私には分かりません。恐らく日本全国を探しても確実にこうだと答えられる方はいないでしょう。建築構造に詳しくない方は、この造りであれば耐えられる耐えられないとゼロイチで答えが出るものと考えているかもしれませんが、実際はそうではありません。技術的な内容と、今までの地震の被害などから、この考えは正しかった、この部分は間違っていた等、実際の地震の被害から考察する等、経験で成り立っている部分があります。逆に言えば、今までないタイプの地震については、どの建物も検証されていませんので、このタイプの住宅であれば安全と断言できるものはありません。
これはタワマンに限らず、普通のマンションであっても戸建住宅であっても実は同じです。戸建やマンションは歴史があるではないか、と言われるかもしれませんが、その歴史はたかだか50年程度の歴史であって、100年単位、1000年単位の災害に強いかどうかは、実際にその災害が起こってみないと誰にも分からないというのが正直なところではあります。
そう考えますと、タワマンだから特にダメ、という主張はあまり根拠が無いように感じます。
一方でエレベータが使えなくなった時のダメージが大きい、という主張については、その通りだろうと感じます。こちらも他のマンションでも同じ事が言えますが、現実として階段を使わなければならなくなった時のダメージの大きさは大きく異なります。停電時には水道も止まる可能性が高いのですが、5階6階であれば水を持って下から住戸に上がる事は可能であっても、20階30階の人が水を持ち運びできるとは思えません。私はこの本の主張には賛同しない部分が多いのですが、この分についてのみ、その通りであろうと思います。
タワマンは子育てに適していないという主張は正しいでしょうか
第4章ではタワマンは子育てには向かないとの主張が語られています。具体的な問題点として
1.タワマンで育つと近視になりやすい
2.高所平気症になり易い
3.タワマン上層階の子供は成績が伸び難い
4.タワマンの階層ヒエラルヒーが子供の心を蝕む
等の話がありました。
1.の話の根拠は「あなたのこども、そのままだと近視になります。(坪田一男:著)ディスカヴァー携書」から取っているとの事でした。この原著を私は確認していませんので、詳しい話ができませんが、本の中で「数ある『近視のエビデンス』の中でも唯一確かだとされているのが『外で遊ぶと近視になりにくい』というものです」との文があります。逆に言えば、「タワマンで育つと近視になります」という意見は確かなエビデンスが無いとも解釈できます。
また「高層マンション子育ての危険(織田正昭:著)メタモル出版」の中では「高層に住む子どもの方が、1日あたり0.6時間外遊び時間が少ない」との主張があり、その話を受けて、「外遊びが少ない=近視になり易い(エビデンスあり)」「高層住宅に住む子供は外遊びが少ない」「よって高層マンションに住む子供は近視が多い」という3段論法となっています(本書では断定はしていませんが)。
ただ「高層マンション子育ての危険」で示されている子供が住んでいるのは6階以上の子供が対象となっており、高層マンションではなく通常のマンションが対象です。この話からタワマンの子供が禁止になり易いという主張は少し無理があるように感じます。この場合ではタワマンに限らず6階以上の住宅に住む子供は近視になり易い、と主張すべき話だと思いますので、タワマンのみやり玉に挙げるのは不思議な気がします。
2.の高所平気症の話も同様で、調査対象は4階以上の住宅に住む子供ですので、これもタワマンに限りません。この話を元にするのであれば、タワマンに住むな、ではなくマンションの4階以上に住むな、という話の展開にすべきである気がします。また別の調査では「タワマンに住む子供は高所を怖がる慎重派の子供が圧倒的に多い」との話があり、2.の主張と真逆の話があります。これらの内容を合わせますと、結局のところ、調査が不十分で現時点では正確な話は分からない、という事なのだろうと思います。
3.の子供の成績については、単に1人の教育関係者のコメントです。かつ成績が延びない理由も、同じ教育関係者の単なる予想です。正直なところ、エビデンスは全く無い状況だと思われます。ただエビデンスが取れるくらいの公的なデータを集めるのはかなり難しいと思われますので、意見で言わざるを得ないのは仕方が無いのかもしれません。
子供の学力を判断する指標として「全国学力テスト」があります。これは小学6年生と中学3年生を対象にした一斉テストですが、こちらの学校ごとの成績が公開されていれば、タワマンが集まっている小学校区の成績から何かしらの判断ができるのかもしれませんが、こういったデータの公開は難しいのかもしれません。
小学校別ではデータはありませんが、都道府県別にはデータは公開されており、そこから多少は考える事ができます。タワマンのほとんどは都心等に集中していますので、東京の成績が低ければ何かしらの影響が、と思われるのですが、むしろ東京は2018年度の調査ランキングでは5位でかなり良い位置に付けています(全国学力テスト正答率より)。まあ、このデータだけで判断するには無理があるとは思います。
4.については何だかなと感じるレベルの話です。タワマンに限らず、昔からこういった話は子供間でもあります。マンションと戸建が混じっているエリアですとか、裕福なエリアとどうでないそうでないエリアが混じっている小学校区では普通にある話です。○○地域の子は、的な話は誰でも聞いた事があるのではないでしょうか。もちろんこのような格差的な話が良いとは思いませんが、特にタワマンだからという事でも無いような気はします。まあ気になる方は、最初からタワマンを選ばないという選択肢はあって良いと思いますが。
この子供に対する影響の話は、現時点ではどれもあまりエビデンスの無い説の1つに過ぎません。だからといってすべてが根拠がなく嘘である、と言うつもりもありませんが、一方で信ぴょう性がはっきりしない話である、という事も知っておくべきだと思います。
一方でエビデンスは無いものの、この話が正しい可能性が高いのでは、と感じられる方は安全側を見てタワマンを見送る、という方がいてもその方の判断であれば良いとは思います。
廃墟化の根拠は修繕金の部分だけですが、ちょっと根拠が弱い気がします
ここまで色々と本内容について感じる事をお話してきましたが、タワマン廃墟化の話につながるのは、基本的に修繕金の不足の部分だけです。他の話は、このようなデメリットがあるかもしれない、と言う話で、廃墟化の話に直接つながるものではありません。
そして修繕金不足の話も、想定に想定を重ねた話ですので、この話もどこまで正しいのか微妙なものがあります。例えば、タワマンの修繕金が通常のマンションよりも高いのは確かですが、それが1住戸当たりにしても高いのかどうかは実のところ正確には分かりません。全体の金額が高くても、住戸数が多いため、住戸当たりで考えれば、それ程の差では無い可能性もあるからです。
またタワマンの大半は立地が良く価格が高いマンションです。修繕金が払えない住戸が出た場合でも、競売にかけ、代金を回収できる可能性が高いエリアである事が多いと思います。仮にローンの残債が販売代金を上回っていたとしても、修繕金の負債は次の購入者に引き継がれます。そして次の購入者は、修繕積立金の負債分を考慮した上で、入札金額を決めますので、十分に情報が伝わっていれば、この段階でトラブルになるケースも少ないでしょう。
リゾートマンションのように価格が全くつかないエリアのタワマンであれば、廃墟化する可能性は高いと思いますが、首都圏の大半のタワマンはその条件に当てはまらないだろうと思っています。
こういったタワマンの将来性についてはどこまでいっても予想でしかありません。後はこの予想の根拠となる話の信ぴょう性をどう考えるかという話ですが、この本を読んだ限り、どの根拠も信ぴょう性が低いように感じます。私はこの著者さんである榊さんの本は何冊か読んでおり、参考にもしていますが、今回の本に関しては内容が酷いな、と感じる部分がたくさんあります。ただこれはあくまでも私はそう感じた、というだけの話ですし、当然私の知識が無いために、理解できない部分も数多くあるのかもしれません。
私の個人的な嗜好としては、タワマンは別に好きではありませんし、住もうと思ったことは1度もありません。ただそれは嗜好の問題です。実際にタワマンのデメリットはたくさんあると思っていますし、それを知らずに買うと後悔される方もいるかもしれませんが、その一方で情報をしっかりと取り、デメリットを理解した上で、それ以上にメリットが大きいと考えれば、その方が購入するのを別に止めようとは思いません。
この本もデメリットを知るための参考にする、という点では悪くない部分もありますが、あまりにも恣意的にデメリットを強調している印象がありますので、内容は注意しながら読み込み必要がある本だと思います。
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