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私は仕事柄、不動産関連の本をよく読みます。しかし大半の本は、あまり役に立たない内容だったり、宣伝的な内容で読者をミスリーディングするような内容であったりすることも多く、皆さんにお勧めできるという本はあまり多くありません。

今回ご紹介する本は、実は「とてもお勧め」という本ではありません。しかし考え方や不動産の現状の把握という点では参考になる部分が結構入っていますので、マンション購入検討者は1度は読んでみても良い本だと思います。

その本とは「新築マンションは買わないほうがいいワケ(扶桑社新書)」です。

新築マンションを買わないほうがいいワケ表紙

出典:扶桑社

章のタイトルの付け方など、人を煽り過ぎている印象はありますが、参考となる内容が書かれていると思います。

良い点は不動産業界のマイナス面について書かれている点です

この本で特に良いと思われる点は、不動産業界の問題と思われる点がしっかりと書かれている点です。この本の著者さん自身も同じ業界にいるため、普通であれば自分の業界の問題について、詳しく書くことはためらわれます。しかし、この著者はお客様にとって問題である部分は、はっきりと問題であると指摘している点がよく出来ていると思います。

きちんと説明

業界の悪い点をきちんと説明しています。

例えば、
・物件情報を無料で公開しているのは集客目的
・「人気物件」はねつ造されている
・仲介手数料ゼロ円の物件ではバックマージンがある
・不動産営業マンの多くは建物の素人
・初めて会ったお客様に掘り出し物のお宝物件を紹介するはずがない
・相互取引(両手取引)はユーザーにとって、利益相反
という内容が語られています。

また、著者の経験した不動産業者の悪行もところどころ出てきて、面白く読むことができます。

また、住宅ローンについても、不動産業界の人が言い難い事をしっかりと説明しています。この例として「住宅ローンの残債が残っている内は、賃貸に出すことができない」という事を解説しています。

不動産の営業マンの中に、ローンが払えなくなったとしても、賃貸に回せばその収入からローン返済が出来ますよ、と話をする人がいますが、実際にはこのやり方は通用しないという点がきちんと書かれている点は、良いところだと思います。

一方でなぜか、破綻のリスク回避の方法として、返済額よりも高い金額で貸せること、という内容がこの本の中で語られており、矛盾している点は、この本のマイナスだと思います。

悪い点は不動産の善し悪しの判断の論理の組み立てがおかしな部分が多いことです

ここまでお話ししたような良い内容もたくさんあるのですが、一方で何かおかしいなと感じる部分も結構あります。その中の代表例を2つほどお話しします。

新築マンションがダメという主張の根拠と結論へのつなげ方が問題です

正しく考える

考え方に少し無理があるように感じます。

この本では第1章で新築マンションがダメという理由を述べています。その理由を箇条書きにすると次のような内容となります。
1.住宅の数は供給過剰である
2.新築至上主義は、不動産業界、建設業界、金融機関を儲けさせる
3.新興住宅地(街)で世代を超えて発展している街はほとんどない
4.新築が多いのは日本だけで、欧米では中古住宅が中心
5.新築は瑕疵や建物管理の実績が不明
6.日本の住宅資産額の合計は住宅の投資額の累計額より大きく下回る
7.戸建住宅は22年で資産価値がゼロになる
という7つの項目に分けられます。

ただ、これらの理由については、正直あまり説得力を感じません。
1.の供給過剰という話は確かですが、それが新築がダメという理由に直接はつながりません。立地や建物性能が悪い中古戸建てや中古マンションが淘汰され、その新築マンションは残るという可能性も考えられるからです。

2.の内容自体は間違っていませんが、特定の業界が儲かるからといって、新築マンション自体がダメという理由にはなりません。

3.についても内容は私も同意見ですが、これは街の話、立地選びの話であって、新築マンションがダメという話ではありません。この理屈で言えば、古くから発展している街の中であれば、新築マンションでもOKという話になります。

4.は30年以上前から言われている話ですが、未だに日本の不動産業界は欧米スタイルにはなっていません。今後欧米スタイルになるかどうかは誰にもわかりません。

5.については同感です。これは実際の建物管理も含めた状況を見て買う方が良いと私も思います。

6.は業界全体の話ですが、これを個別の話に当てはめるのは無理があると思います。元にしている統計データはマンションと戸建住宅が混じっていると思われ、このデータを元に新築マンションがダメと言うのはおかしな話だと思います。

7.に至っては戸建住宅の話であって、マンションとは関係がありません。違う建物の話で新築マンションがダメと主張するのはいかがなものかと思います。

論理的な考え方

その根拠が本当に正しく結論を導いているのかどうかを、しっかりと確認しましょう。

私自身は、新築マンションの購入は経済的にはあまり得とは思っていません。しかしそれは中古となったマンションは新築との価格差が大きいから、あるいは新築プレミアムと呼ばれる価格の上乗せ分が大きく、経済的に損をし易いからであって、ここまでお話しした理由とは全く異なります。

項目に書かれている内容の1つ1つは正しい話ですが、そこから結論に持っていく話の展開に無理があるように感じます。これはこの本に限らず、ノウハウ本ではよくある話です。家探しで不動産のノウハウ本を購入される方は、事実である項目と、そこから導かれる結論が正しくつながっているかを考えながら読まなければならないという事を、改めて考えさせられます。

せっかく良い話をたくさん書いているのに、このような展開は本の価値を大きく落としているように思います。改訂版を出す際には、この点は改めてもらう方が良いのではないかと思いました。

リノベーションが資産価値になるという意見には賛成できません

また、この著者は中古マンションをリノベーションすることで、不動産の資産価値を守る事ができる、と主張されています。この点には私は賛同できません。

リフォーム後のイメージ

リノベーションしたマンションの資産価値は高くなりますか?

マンションの資産価値とは、そのマンションの売れる価格の事だと私は考えています。人によっては、利回りの良い物件と主張されるでしょうが、居住用財産として住宅ローンを組む以上、大半の人は自分の不動産を賃貸に回すことはできません。賃貸に回すことが難しいとなれば、結局は資産価値イコール売れる価格となります。

そしてリノベーションした中古マンションが、リノベーションした費用以上に高く売れるかと言えば、実際にリノベーションにかけた費用以上の売却価格が付くことは滅多にありません。この本の中でも、リノベーションした結果、快適に暮らしているという話はあっても、高く売れたという事例は出ていません。

リノベーションの結果、快適に暮らせるのはうそではないでしょう。ですがそれは資産価値が上がったのではなく、利用価値が上がっただけです。利用価値が上がるのは素晴らしいことですが、資産価値の話と一緒にして説明しているのは、紛らわしいと感じます。

リノベーションで資産価値が上がるかどうかについては、このサイトでも「中古マンションはスケルトンリフォームで資産価値が上がるでしょうか?」の記事で説明しています。よろしければこちらの記事もご覧ください。

良くも悪くも様々な情報が入っている本です

ここで説明した以外にも、様々な内容が書かれている本です。私自身はこの本で主張されている内容の約半分について、違う意見を持っていますが、それでも参考になる話が結構入っています。

図形問題

色々な角度から問題を考える事で、自分の考えがまとまります。

ノウハウ本を読む場合、同じような意見の本ばかり読んでも、自分の中にノウハウが貯まりません。違う切り口の意見を照らし合わせることで、初めて自分の考えがまとまるようになります。

ここまでこの本を批判するような話をしましたが、通常の雑誌などに載っていない大事な話が数多く入っているのも確かです。マンションの購入を考えている方は、1度読んでみると良いと思います。

この記事の意見は当社:ふくろう不動産の意見でしかありません。この記事についての反論がある方も多いかもしれませんが、こういった複数の意見を照らし合わせながら、不動産選びについて皆さんに考えて欲しいと思います。

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