建物性能が高いって具体的にどういうところで判断しますか?
今回は、不動産や建設業界でよく耳にする「建物性能が高い」という言葉について、具体的に何を基準に判断すべきか、その真実を深掘りします。漠然としたイメージや部分的な情報に惑わされず、客観的なデータに基づいて建物の性能を見極めるためのポイントを解説します。
1. 断熱性:数値で判断できる明確な基準
幸いなことに、断熱性に関しては数値で判断しやすい基準が存在します。
- Ua値(外皮平均熱貫流率): 建物の外壁、屋根、床部分から平均的にどのくらい熱が逃げていくかを示す数値です。この数値が小さいほど断熱性能が高いことを意味します。具体的には、外気温と室温に差がある際に、どれだけの熱量が建物の外皮(外壁、屋根、床、窓など)を通過して移動するかを数値化したものです。Ua値が低い家は、冬は暖かく、夏は涼しく保たれやすく、冷暖房費の削減にも直結します。住宅性能表示制度の断熱等級にもUa値が紐づけられており、例えば断熱等級4なら0.87以下、断熱等級5なら0.6以下(千葉県の場合)といった具体的な基準があります。建設会社からUa値を聞くことで、その断熱性能をある程度判断できます。Ua値の話がないのに「断熱性が高い」と主張する会社は、個人的には疑問符がつきます。
- C値(隙間相当面積): 建物の気密性を示す数値で、家全体の隙間の合計面積を表します。C値が小さいほど気密性が高いことを意味します。この隙間は、壁と床の取り合い、窓サッシの取り付け部など、様々な箇所に存在します。C値が低い、つまり気密性が高い家は、計画的な換気が可能になり、冷暖房効率が向上するだけでなく、外部からの音の侵入や、壁内結露による構造材の劣化を防ぐ効果も期待できます。ただし、C値は一棟ごとに気密測定を行わないと分からない実測値であり、UA値のように設計段階で計算で出せるものではありません。全棟で気密測定を実施している会社は少ないですが、もし行っている場合は、気密性に対して非常に厳しいチェック基準を持っていると判断できます。C値に厳しい会社は、ほとんどの場合、UA値についても高いレベルを持っています。
断熱性に関するよくある誤解
- 「Low-Eガラスを使っているから断熱性が高い」: Low-Eガラスを使ったサッシはUa値の計算に組み込まれるため、断熱性能向上に貢献するのは事実です。しかし、それだけで建物全体の断熱性が高いとは限りません。例えば、窓の面積が非常に大きい場合や、日射取得を考慮しない窓の配置の場合、Low-Eガラスを使っていても、建物全体のUa値は思ったほど低くならないことがあります。窓の多さ、大きさ、他の壁の断熱性など、様々な要素でUa値は変わるため、部分的な要素だけで判断しないように注意が必要です。
- 「特定の断熱材や工法(外張り断熱など)を使っているから断熱性が高い」: どのような断熱材を、どのくらいの厚さで入れているか、外張り断熱の結果として最終的なUa値がどのくらいになっているか、といった総合的な判断が必要です。例えば、高性能な断熱材を使っていても、その厚みが不十分であったり、施工がずさんで隙間が多い場合、期待通りの断熱性能は発揮されません。単に素材や工法の名前だけで断熱性を主張するのは不十分であり、具体的な数値と施工品質が伴っているかを確認することが重要です。
- 「素材が良いから断熱性がある(ALC、無垢材など)」: ALC(軽量気泡コンクリート)や無垢材は、それぞれ一定の断熱性を持つこともありますが、それだけで建物全体の温かさが決まるわけではありません。例えば、無垢材の床は触ると温かく感じることがありますが、それは素材の熱伝導率が低いこと(空気を多く含んでいる等)によるもので、室温全体を大きく左右するものではありません。Ua値といった数値の話がなく、素材の話だけで終わらせようとする会社は、断熱性に関してはあまり期待できないかもしれません。
- 「遮熱と断熱の混同」: 遮熱は太陽光の熱を反射して室内への侵入を防ぐことであり、断熱は熱の伝わりを抑えることであり、それぞれ異なる概念です。例えば、夏の日差しが強い時に遮熱材は効果を発揮しますが、冬の寒さから家を守るには断熱材が不可欠です。両者は相補的な関係にありますが、「遮熱材を入れているから暖かい・涼しい」といった説明しかしない場合は、断熱性能について正しく理解していない可能性があり、注意が必要です。
2. 構造:耐震等級が唯一の客観的指標
建物の構造的な強さを公的に判断できるのは、残念ながら「耐震等級」くらいしかありません。
- 耐震等級: 耐震等級は1から3まであり、数字が大きいほど耐震性能が高いことを示します。
- 耐震等級1: 建築基準法で定められた最低限の耐震性能。数百年に一度発生する大地震(震度6強から7程度)に対して倒壊・崩壊しないレベル。
- 耐震等級2: 耐震等級1の1.25倍の耐震性能。昔の長期優良住宅の認定基準の一つ(最近ルールが変更になり、長期優良住宅でも等級3が必要になりました)。
- 耐震等級3: 耐震等級1の1.5倍の耐震性能。災害時に避難所となる学校や病院と同等の耐震性。数百年に一度発生する大地震(震度6強から7程度)の1.5倍の地震力に対して倒壊・崩壊しないレベルとされています。熊本地震での実績からも、耐震等級3の建物の損傷が非常に少なかったことが報告されており、その信頼性は非常に高いと言えます。
構造に関するよくある誤解
- 「制振装置が入っているから地震に強い」: 制振装置は、地震の揺れを吸収・抑制する効果があり、特定の振動や周波数に対して効果があるのは事実です。しかし、制振装置はあくまで建物全体の揺れを低減する「付加的な」要素であり、建物自体の構造的な強度を直接高めるものではありません。建物全体のバランスや、異なる周波数の揺れに対する効果、そして長期的な耐久性については、まだまだデータが不足しています。実績のある耐震等級3と比較すると、データ不足のため「安全」と断言するには至りません。制振装置は、建物の構造的な強度を補完する役割を果たすものであり、それ単体で耐震等級3と同等の性能を持つと考えるのは誤解です。
- 「構造計算をしているから大丈夫」: ほとんどの木造2階建て以下の住宅は、法律上「壁量計算」や「4分割法」といった簡易的な計算で済まされており、本格的な「構造計算(許容応力度計算)」は行われていません。壁量計算は、建物の壁の量と配置のバランスを見るもので、簡易的な安全性の確認に過ぎません。許容応力度計算は、柱や梁、基礎など、建物の各部材にかかる力を詳細に計算し、安全性を確認するもので、より高い精度で建物の安全性を検証します。鉄骨系のハウスメーカーでも、一棟ごとの構造計算ではなく、特定のパターンに対して認定を受けた「形式認定」を取っているケースが多く、これも厳密な意味での構造計算とは異なります。もし構造計算をしていると主張するなら、100ページ以上ある「構造計算書」の提出を求めましょう。紙1〜2枚のものは壁量計算であり、構造計算ではありません。
- 「今まで倒壊した建物がないから強い」: 首都圏では過去数十年、震度6弱以上の強い地震は発生していません。これは、実際に建物が大規模な地震に耐えうるかどうかの「実証」ができていないことを意味します。強い地震がない中での「倒壊実績なし」は、あくまで過去の比較的穏やかな地震に対する実績であり、将来の大地震に対する保証にはなりません。正しい知識を持って判断することが重要です。
3. 耐久性:メンテナンス性が鍵
耐久性に関しては、公的に明確な基準で証明されているものが非常に少ないのが現状です。住宅性能表示制度の「維持管理対策等級」が最高等級3であれば、ある程度のメンテナンス性は考慮されていますが、これは「長く持つ」というより「メンテナンスのしやすさ」を重視した考え方です。例えば、床下や屋根裏の点検口の設置、水道・下水配管のコンクリート埋め込みを避けるなどが評価されます。これは、建物を長く使い続けるためには、定期的な点検や補修が不可欠であるという考えに基づいています。
耐久性に関するよくある誤解
- 「この材料を使えば半永久的に持つ」: 材料の寿命だけで建物の寿命が決まるわけではありません。建物の寿命は、使用される材料の品質、施工の精度、そして何よりも適切なメンテナンスによって大きく左右されます。
- 「窯業系サイディングは寿命が短い」: 外壁サイディングの主な役割は、雨水の侵入を防ぐ防水シートや、壁内の通気層といった多層的な防水システムの一部を担うことです。サイディングそのものが防水の全てを担うわけではありません。サイディング自体の防水性や美観は、定期的な再塗装やコーキングの補修によって維持できます。部分的な性能だけで寿命が短いと主張するのは適切ではありません。
- 「木造住宅は30年持たない」: これは税法上の償却年数(20数年)を根拠にした誤解です。税法上の償却期間は、資産価値の減価償却を目的としたものであり、建物の物理的な寿命とは異なります。実際には築30年、40年、さらにはそれ以上の木造住宅は多数存在し、適切なメンテナンスが施されていれば問題なく使用されています。現在の研究では、木造住宅の寿命は60年以上、近年建てられたものは、より高い性能と適切な維持管理により70〜80年程度とされています。多くの木造住宅が比較的早期に取り壊されるのは、物理的な老朽化よりも、建物の狭さ、間取りの使いにくさ、キッチンや浴室などの設備の陳腐化といった「社会的な状況」や「使い勝手の悪さ」が主な原因であることが多いです。
- 「集成材や合板の接着剤は長期間持たない」: 現代の集成材や合板に使用されている接着剤は、非常に高い耐久性を持つように改良されています。過去の研究データからは、そのような主張は必ずしも正しくないことが示されています。適切な環境下で使用されれば、構造材としての性能を長期間維持することが可能です。
まとめ:根拠と全体像で判断を
建物の性能に関する情報は、世の中に誤解や不正確なものが多数出回っています。その話が本当かどうかは、以下の点を踏まえて判断しましょう。
- 根拠の確認: その話の根拠は何なのか、具体的なデータや数値があるのかを確認しましょう。例えば、断熱性であればUA値やC値、耐震性であれば耐震等級といった客観的な指標を求めましょう。
- 全体像での判断: 部分的な性能や部品の性能だけで建物全体の性能が決まるわけではありません。全体としてどうなのか、総合的に判断することが重要です。例えば、壁の一面だけが非常に強くても、他の部分との構造的なバランスが悪ければ、かえって建物全体を弱くすることもあります。個々の要素が建物全体にどのように影響するかを理解することが不可欠です。
- 情報源の確認: 誰が、どのような立場で話をしているのか、利害関係者はいないかを確認しましょう。建築の素人がなんとなくの感覚で「これが正しい」と主張しているケースも少なくありません。専門家の意見であっても、その根拠や背景を理解しようと努めることが大切です。
- 謙虚な姿勢で学ぶ: 建物の性能は、専門的な知識が必要であり、素人がすぐに理解できるものではありません。高性能な家を求めるのであれば、様々な情報を学び、多角的に判断する謙虚な姿勢が不可欠です。疑問に思ったことは積極的に質問し、複数の情報源から情報を得るように心がけましょう。
「大丈夫」という言葉だけで押し切ろうとする営業トークには注意が必要です。特に、首都圏では大きな地震の経験が少ない中で「実績があるから大丈夫」と主張されても、それは根拠になりません。
今回の動画はざっくりとした話でしたが、本当に高い建物性能の家が欲しいと考える方は、ぜひ色々な勉強をしていただいた上で、建物性能について深く考えてみてください。