木造住宅の制振装置は効果があるとは思っていますが

戸建住宅の地震対策として制振装置の広告をよく見かけます。私は制振装置の効果を否定するものではありませんが、一方で怪しい製品もあるのではないか、と疑っている部分も少しあります。

うかつな事を言いますと会社批判や商品批判になりますし、制振装置の効果について、私が何らかの証明をできるものでもありません。ですので、この記事については、私の個人的な感想として読んでもらえればと思います。

ちなみに制振は人や団体によって、制振と言ったり制震と言ったりと表現が統一されていないようです。私が昔習った時は、制振は振動を制御するから制振、免震は地震から免れるから免震と教わりました。この話が正しいかどうかは確認が取れませんが、このページではとりあえず、制振、免震という表現でお話をします。

制振装置の効果をうたう動画の比較対象が適切ではないケースが多くあります

制振装置の広告は本当にたくさん見る事ができます。ネットで検索をしますと、数多くの紹介サイトがある事が分かりますし、Youtubeで検索をかけても、比較動画をたくさん見つけることができるでしょう。

動画での説明は、効果が目で見える分だけ分かりやすいので、皆さんが自分で導入しようと思っている制振装置の動画は1度見てみると良いと思います。

一方でこれらの動画は、制振装置を導入していない建物との比較を表しているものが多いのですが、その比較対象が適切ではないと思われるものがたくさんあります。

比較のイメージ

動画で比較されている建物がそれで良いのかどうか疑問に思う事があります。

制振装置は筋違と似た形である事も多く、柱と柱の間に取り付けられています。そして、振動実験の比較動画では、柱間には何も取り付けられていない壁や建物が比較として取り上げられるケースも多々あります。

この比較であれば、当然制振装置が入っている建物の方が強くなります。制振装置の効果があまり出なかったとしても、筋違的に装置が入っているだけで、筋違と同様の効果が期待できるからです。

これほど酷い例ではなく、普通の木材の筋違を入れている建物との比較動画を公開しているケースもあります。これは悪くは無いのですが、通常制振装置を入れようと検討している方は、簡単な筋違の建物と制振装置が入っている建物とで比較される方はほとんどいないのではないかと思います。

制振装置の導入を考えている方は、地震に対しての意識が高い方々でしょう。そういう方であれば、通常の耐力面材、つまりは構造用合板等を貼って強くした壁と、制振装置を入れた壁とで比較する事の方が多いでしょう。私もその比較で実験を見てみたいのですが、この内容が分かるような動画はあまりありません。

個人的には、構造壁等を全く入れていない建物と制振装置を入れた建物の比較はあまり意味が無いと考えており、制振装置の単なるパフォーマンスの1つだと思っています。振動実験はとてもお金がかかるものらしいので、せっかくの実験を広告効果の高いものにしたいというメーカー側の意図は分かります。ただ真剣に導入を考えている人が比較してみたい動画にはなっていませんので、その点が私は不満があります。

せっかく費用や労力をかけて開発し、お金のかかる実験も行っている訳ですから、もう少し現実的な比較動画を作ったり、効果が分かりやすい動画を作って欲しいものだと思いました。

1つの検査結果だけで100%の効果を期待してはいけません

もう1つ比較動画や紹介サイトで不満なのは、1つの実験で効果が過大に語られるケースが多いと感じる事です。そもそも実験とは、特定の条件を設定し、その条件下でどのような効果が得られるかを検証するものです。そして、実験場の状況と、実際の地震とは違う点も出てきます。

実験のイメージ

建築物では実験の結果が必ず正しいとは限らないものです。

例えば実験では壁単体でテストを行う事がありますが、壁だけで動く場合と建物の一部としての壁として動く場合は動きが異なります

また振動実験では、特定の周期の揺れ、特定の加速度を与えて実験を行います。その結果、実験を行った特定の揺れに対しては効果があるか無いかは分かりますが、他の周期、他の加速度、他の建物重量等に対しても同様の効果が出るかどうかは、予測でしかない事もあります。

よく動画では研究者や学者のコメントが寄せられていますが、そのコメントを注意深く聞いていますと、「特定の周期に対して効果があったと認められる」というような表現がよくあります。

これは実験で行われた周期の揺れに対して効果があったのであって、すべての揺れに対して効果があると断言しているのではありません。学者の方は表現にとても気を付けている事が多いため、正確を期すために、敢えてこのような表現を使う事がよくあります。

もちろんこれらの話は実験自体を否定するものではありませんし、一定の周期で効果があり、シミュレーション等を行うと他の周期であってもある程度の効果を期待できるという事で、恐らく間違っていないでしょう。

ただ、販売店等のサイトで、これらの実験結果を過大に説明しているものもありますし、効果は絶対で、必ず使うべき的な表現がされていることもあります。私が感じた良くない例として、耐震等級2や耐震等級3の建物でも揺れ方によっては建物が崩れる事があるという説明から、耐震だけでなく、制振が絶対に必要だと主張しているものがあります。

耐震等級のレベルが高いものであっても、揺れ方によっては倒壊することもあるのでしょう。ですがそれが、すぐに耐震性の考え方を否定するものではありませんし、ましてや制振システムの方が優れていると証明するものでもありません。

サイト等によっては、強引に制振の方が優れているという結論を出すものもありますが、何がどのような状況で効果が出るのかは、まだ分からない事がたくさんあります。効果を強調し過ぎる記事やセールストークは、何が正しく本当なのかを、詳しく確認する必要があります。

耐震や制振についてはどれにもレベルがあります。一律に耐震<制振と考えるのは危険です。

断熱材との組み合わせがはっきりと分かりません

他にある制振装置の説明の不満点に、断熱との組み合わせをどうするかを明確に説明しているものがあまりありません。前述しましたように、制振装置は筋違形式のものが多いのですが、このタイプは断熱材が入れ難いという問題があります。

これは制振装置に限らないのですが、筋違タイプに綿状の断熱材(一般的にはグラスウール)を入れる場合、入れ方が雑なため、断熱効果が怪しいものや、壁内結露の恐れがある施工も数多くあります。

筋違のために断熱欠損

筋違部分に正しく断熱材が入っていないと、断熱欠損の場所が出ます。サーモの検査で時々このような断熱の不備を発見します。

更には制振装置は金属製のものが多いため、その部分がサーマルブリッジとなってしまう事も考えられます。こういった対策をどうしているのか、どの断熱材をどのように組み合わせれば問題にならないのかを説明しているサイトや動画を見つける事ができません。

建物性能は構造だけでなく、様々なバランスで決まります。構造的にはOKだけれども断熱的にはアウトというものでは当然困る事になります。各メーカーさんや販売店さんは、このあたりの対策も含め、もっと丁寧に説明して欲しいものだと思います。

制振装置は繰り返しの揺れに強いのは確かだと考えています

ここまで制振装置についての不満を色々と語ってきましたが、制振装置に効果が無いと思っている訳ではありません。正しく言えば、効果が本当にあるのかどうか怪しいものもありますが、大半の制振装置は揺れを低減させる効果があると考えています。

特に繰り返しの揺れに対して強いというのは制振装置の大きなメリットだと思います。通常の耐震では、構造用面材を壁に張る事で耐力壁を強くしているのですが、この耐力壁や釘やビス等で柱に打ち付けられています。大きな地震が複数回あった場合には、釘が抜けそうになったりビスが緩んできたリという事が考えられます。

緩んだビスで取り付けられた構造用面材が、地震の揺れに対して、どこまで耐えられるかについては確かに不安が残ります。その点制振装置であれば、複数回の揺れであっても同じ効果が期待できるという点は、大きなメリットだと考えています。

ですので、効果が無いと批判しているのではなく、どの位の効果が見込めるのか、デメリットは何なのか、費用対効果としてどうかという点を見て、判断するのが良いと思います。

家づくりはどこまでいってもバランスを考えるべきです

安全性に対して費用対効果という話をしますと、安全はお金に換えられないという人も多いでしょう。ですが私は家作りや不動産選びはどこまでいってもバランスが重要と考えています。安全面についても、経済面と快適性とのバランスは重要です。

家のフレーム

家づくりはどこまでいってもバランスが重要です。

今回お話ししています制振装置を取り付けますと、種類や入れる量にもよりますが、40~50万円位は費用は上がるでしょう。建物全体の金額からすれば小さな金額に思えるかもしれませんが、50万円あれば様々な選択ができます。

例えば50万円あれば建物の断熱性をそれなりに高くすることができます。安全性には換えられないと思われるかもしれませんが、実際にヒートショックで亡くなる方の多さや率を考えますと、どちらに費用をかけるのが正解なのかは簡単には言えません。

あるいは浴室暖房機を入れる方が安全性が高くなるという事も考えられます。お風呂での突然死も珍しくないからです。このように50万円の選択肢はそれなりに多くあります。

正直なところ、何が正解なのか、どの部分にいくらかけるべきなのかはプロであっても正しい結論が出せるとは限りません。購入者の価値観にもよりますし、運に左右される部分も多いからです。

私個人の意見とすれば、
1.構造用面材を使い、耐震等級3以上のレベルを確保する
2.十分な断熱性を取り、温熱環境を整える
3.制振装置を導入し、更に地震に対する性能を上げる
という順番だと思っていますが、これも人によって意見は異なるでしょう。

繰り返しになりますが、制振装置自体が悪いものでは無いと私は思っています。ですが、変に制振装置の万能感を出している広告や、優先順位の高さを必要以上に強調しているものをよく見かけますので、購入する方には落ち着いて導入の検討をして欲しいと思い、この記事を作りました。

このページでお話ししました内容の一部を動画でも説明しています

この記事でお話ししました内容の一部を動画でも解説しています。その動画がこちらです。

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