注文住宅の相見積もりにはほとんど意味がありません
同じ商品、同じサービスを買う場合であれば、価格が安い店で買うという方は多いでしょう。私も家電製品などを買う時には、価格.com等を見て最安値を確認し、その後に安値に近い価格で信用が置けそうな店(ネットショップ)等で物を買うようにしています。
しかしこれが住宅、それも注文住宅となりますと勝手が違います。注文住宅を建てる際に、建設会社を比較するために相見積もりを取る方も多いと思いますが、私の個人的な意見としては、住宅の相見積もりを取る事はほとんど意味がないと思っています。
住宅では全く同じものがないため、価格だけでは比べられません
住宅の相見積もりに意味が無いと考える最大の理由は、住宅には全く同じものが存在しないからです。これは地元の工務店が建てる家であっても、大規模のハウスメーカーが建てる家であっても変わりません。
ハウスメーカーの家は工場生産部分が多いといっても、工事現場で作らなければならないものはたくさんあります。そして現場にいる職人さんのレベルや工事監理のレベルによって、建てられる建物のレベルも大きく変わってきます。
家電製品のように、既に出来てしまっているものや作り手のレベルによる差が小さなものであれば、いくら値引きして買ったとしても、その製品自体の性能が変わる事は無いでしょう。しかし建物はそうではありません。
建築前に値引き交渉を行い、当初提案された価格よりも大きく金額を下げる事が出来たとしましょう。その下げた分だけ得をしているかと言えば、そうでない事の方が多いと思われます。
工務店であれハウスメーカーであれ、注文住宅を建てる際には、金額が確定してから建て始めます。そして請け負った金額の範囲で、一定以上の利益を出そうとします。大きな値引き要求を受けたので、この物件は利益なしでも良い、という案件は存在しません。安く請け負った場合には、何らかの手段で利益を出そうとします。
利益を確保するためによく使われる手法として、下請け叩きがあります。営業側、会社側が一定の利益分を抜いた後、残りの金額で何とか建てろと下請けに強要する訳です。下請け会社や職人さんはその範囲内でやはり利益分を確保しようとします。そのため、工程を省く、材料を安いものに変える、作業を雑に終わらせる、等の事が起き、結果として欠陥住宅になり兼ねません。
材料は本社支給だから変えられるはずはないとか、検査をきちんと行っているので欠陥にはならないと、どの会社も主張されるとは思いますが、手の抜き方、経費の浮かせ方等の手法は本当にたくさんあるため、それをすべて監理してチェックするというは無理です。それ以前にお金の無い現場では、監理体制すらきちんとしてない事も良くあります。
もちろん費用を掛ければ必ず問題が出ない、と言うものでもありませんし、建設会社の姿勢によっても状況は異なるでしょう。ですが、少なくとも見積書の金額を見て、建物レベルを予想することは出来ない以上、見積書の比較は意味が無いと私は思っています。
プロであっても正確な積算は実際には出来ません
もう1点、見積書の比較に意味が無いと考える理由に、見積書の項目の作り方が会社ごとによって違うため、簡単に比較ができないという事もあります。
例えば経費や工賃を見積書のどの場所に組み込むかは、建設会社ごとにルールが大きく異なります。工種によっては、材料と工賃を別々に計算するものもあれば、材工でいくらというように、まとめて計算される場合もあります。
また建設会社の見積書の中には、数量の設定を間違えているという事も良くあります。同じ図面から積算をしているのに数量が違う事があるのかと思われるかもしれませんが、建築のプロであっても数量を把握し損ねる事はまれではありません。
著名な建築家である本間至さん(ブライシュティフト代表)によりますと、複数の工務店から見積もりを取った場合(もちろん同じ図面を提案しています)、項目ごとに並べ直して比較しないと、比較できないという旨の話をされていますし、項目をまとめたとしても経費の取り方の違いがあるため、一律には比較できないと言っています。
その本間至さんが、実際に工務店ごとの見積書を比較できるのは、工務店から出た見積書を自分で内訳書として作り直し、工事単価や数量のチェックを行うという訓練を10年以上行っているため、比較することが可能になったと言われています(月刊建築知識2014年6月号より)。これを建築の素人である我々が見積書を見ただけで高いか安いかを判断するのは、不可能だと私は思っています。
ちなみに普通の建築家の方や工務店の方が、他の会社の見積書を見て、その内容を正確に理解するという事はほとんどできないと考えるべきです。前述しましたように会社ごとにルールが大きく異なりますし、比較するための訓練も行っていないからです。
また、建築に詳しくない方は、見積書と言うものは釘1本まで正確に計算されて作られたものだと考えられるかもしれませんが、実際にはそこまで正確な見積もりを行う事はできません。どの会社であっても、この項目はこの位の金額がかかるという経験から概算で見積書を作っています。
本当に細かな計算を行おうと考えますと見積書を作るだけでも1か月以上はかかるでしょうし、それ以上に見積書を作るための費用も馬鹿になりません。ですのでほとんどの建設会社は、概算で見積書を作りますし、契約するときでもあっても、それが多少細かくなるくらいで、後は現場の中で調整していくという事になります。
つまり見積書は精度が高いものではありませんので、細かな点を比較するのはあまり意味がありませんし、そもそも比較できる技量はほとんどの人にはありませんので、どちらにしてもあまり意味が無い事になります。
ちなみに建物のどの部分にいくらかかっているかについては「2-04-06.戸建の値段はそもそも何にいくらかかっているかご存知ですか?」のページでも解説しています。これを見ても見積書の見かたが分かる訳ではありませんが、ざっくりと何にいくらかかっているかの参考にはなると思います。
建設会社を決めてから見積もりを取る方が現実的だと思っています
見積書がこのようなものだとしましたら、どうやって工事を頼む建設会社を決めるべきでしょうか。私は、まずは全体の予算を決め、その価格帯の家を日常的に建てている会社をいくつか見比べ、この会社に建築を依頼しようと決めた後に、初めて見積もりを取る方が現実的だと考えています。
自分が思っている予算の家を日常的に建てている建設会社を選ぶという点がポイントです。どの建設会社に聞いても、お施主さんがローコスト希望であればローコストの家を建てますと言うでしょうし、高級住宅を望むのであれば、どの会社も自社で建てられると言うでしょう。
ですがローコストにはローコストの、高級住宅には高級住宅のノウハウがあります。そのため普段建てていないタイプの住宅をその建設会社に依頼したとしても、あまりうまく建てられない可能性が高いと思われます。
これは建設会社が普段依頼している職人さんも同様です。大半の建設会社は、普段から使う下請け会社や職人さんが概ね決まっている事が多いため、同じレベルのものであれば同じ価格で同じような仕様の建物ができる可能性が高くなりますが、全く違うタイプの建物を依頼しても、うまく作る事が出来ず、イメージ通りの建物にならないという事も出てきます。
これが普段から建てているタイプ、価格帯の建物であれば、性能やイメージに差が出るケースは少なく、失敗する率も下げる事ができます。見た目が同じように見える建物でも、作り方が大きく違うという事が普通にあるため、慣れていないタイプ、慣れていない価格帯の建物を作らせるのは皆さんが考えている以上にリスクが高いと私は考えています。
相見積もりを取らなければ、不当に高い金額を請求されるのではないかと考えられるかもしれませんが、実際には見積金額が安くても、内容から見れば不当に高いという事もありますし、そもそも信用が出来ないと思われる会社には、見積書を取るまでもなく、工事を頼むべきではありません。
技術的な能力も含めて信用できると思える会社と、予算上の打ち合わせもしながら1社で見積もりを取り、予算オーバーの分については、その会社と話をしながら減額案を考える方が現実的だと私は思います。
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