中古住宅の建物状況調査でトラブルに遭わないために知っておくべきこと
中古住宅の建物状況調査、なぜトラブルが多い?
中古の戸建て住宅の売買において、建物状況調査(インスペクション)をめぐるトラブルが頻繁に発生しています。この調査は、売買契約の前に中古物件の潜在的な欠陥を事前に把握し、買主が安心して取引を進めるために非常に重要なプロセスです。
しかし、数年前から法律で義務付けられた「建物状況調査のあっせん」という項目は、必ずしも買主の利益のために活用されているとは限りません。多くの不動産仲介業者が、詳細な説明をすることなく「あっせんなし」へと誘導しようとします。これはなぜなのでしょうか?仲介業者側の事情や、中古住宅の売買における独特の商習慣が深く関わっています。
仲介業者が調査を避けたがる3つの理由
仲介業者が建物状況調査をしたがらないのには、買主側からは見えにくい、いくつかの複雑な背景が存在します。
1. 手間がかかる上に、仲介業者の直接的な利益にならない
調査の手配には、売主さんや売主側の仲介業者との綿密なスケジュール調整が必要です。これは、双方の都合を確認し、検査員を手配し、鍵の手配をするなど、多くの労力を伴います。しかし、これらの手続き自体は仲介業務の範囲外とされ、仲介業者に直接的な報酬は発生しません。調査会社への費用(一般的に5万〜10万円程度)は買主さんが負担するしますが、仲介業者が得られるインセンティブはほとんどないのが現状です。
2. 売買契約が破談になるリスクが高まる
調査の結果、雨漏りやシロアリ被害といった重大な欠陥が見つかった場合、買主さんが購入を諦める可能性が非常に高まります。不動産仲介業者の報酬は「成果報酬型」です。つまり、売買契約が成立してはじめて仲介手数料が発生するため、手間をかけたにもかかわらず契約が流れてしまえば、それまでの努力はすべて水の泡になってしまいます。このリスクを避けるため、最初から調査を勧めない方が得策だと考える業者が少なくないのです。
3. 後のトラブルにつながる火種を抱えやすい
調査費用を買主さんが負担した場合でも、契約が不成立になった際に、その報告書をどう扱うかが問題になります。買主さんには所有権がありますが、売主さんのプライベートな建物情報が記載された資料を、第三者である買主さんが持ち続けることの是非が問われることがあります。また、万が一、売買契約後に問題が見つかった場合、契約の解除や損害賠償について、新たな交渉や調整が必要となり、トラブルの長期化につながる恐れもあります。
建物状況調査は「精密検査」ではなく「健康診断」
建物状況調査は、家の壁や床を壊して内部を調べるような「精密検査」ではありません。あくまでも、専門家が目視で確認できる範囲、たとえば屋根や外壁、床下、天井裏などをチェックする「健康診断」レベルの調査です。
そのため、「調査で問題なしとされたのに、住み始めたら欠陥が見つかった」というトラブルも起こり得ます。例えば、外壁のサイディングのひび割れや、目地にあるコーキングの劣化で瑕疵保険の「適合外」と判断されることは珍しくありません。しかし、だからといって建物全体の価値がゼロになるわけではなく、あくまでもメンテナンスの必要性を示しているに過ぎないのです。この点を理解せずに検査結果を鵜呑みにしてしまうと、不要な不安を抱えたり、正しい判断ができなくなったりする可能性があります。
賢い買主になるための対策
では、中古住宅を安心して購入するためには、どのような対策を講じれば良いのでしょうか?
- 原則として、建物状況調査は「行う」方向で進める
仲介業者や売主さんが消極的であっても、安易に調査を諦めるのは避けるべきです。健康診断レベルの調査でも、明らかに問題のある物件を初期段階でふるいにかけることができます。契約後に見つかるはずだった欠陥を事前に把握し、交渉材料にすることも可能です。
- 自分で調査会社を手配する
仲介業者が協力的でない場合や、自身で信頼できる会社を選びたい場合は、「既存住宅状況調査技術者検索サイト」などの公的なサイトを利用して、自分で調査会社を探すという選択肢があります。自分で担当者と直接やり取りし、調査費用や日時の調整を行うことで、仲介業者側の「面倒な手間」を省き、スムーズに進められることがあります。ただし、調査の実施には売主さんの承諾が必須です。
- 「瑕疵保険に対応した調査」を選ぶ
建物状況調査と同時に、既存住宅売買瑕疵(かし)保険に加入できるかどうかも必ず確認しましょう。この保険は、引き渡しから一定期間(通常は2年間または5年間)、雨漏りや構造上の問題など、隠れた欠陥が見つかった場合に補修費用を保証してくれるものです。ただし、全ての建物状況調査がこの保険に対応しているわけではありません。「調査結果は問題なしでも、この報告書では保険に入れません」というケースもあるため、依頼する段階で、瑕疵保険の加入を前提とした調査であるかどうかを必ず確認することが重要です。
中古住宅の購入は人生における大きな決断です。建物状況調査について正しい知識を持ち、仲介業者任せにせず、自ら積極的に行動することが、後悔しないための第一歩となります。