前提条件が整えば理論的には買う方が借りるよりも得するはずなのですが

住まいは買うべきか借りるべきかという議論は昔から数多くなされています。どちらが得になるかは、経済状況の移り変わりにもよりますし、買う人自体の状況によっても異なるでしょう。

この判断は未来予測と言う不確かなものを考えなければなりませんので、誰にも正しい答えは出せないのですが、単に分からないというだけでは面白くありませんので、理屈だけ考えた場合、買う方が得なのか借りる方が得なのか、思考実験として考えてみたいと思います。

帰属家賃という考え方を理解する事で比較が簡単になります

不動産を買うか借りるかの理論面を考える際には、帰属家賃という考え方が役に立ちます。この帰属家賃とは辞書等の定義によると「自分の所有する住宅に居住する場合も、借家や借間と同じサービスが生産され消費されたと考えて、このサービスの価格を市場の賃貸料から推定する計算上の家賃」の事です。

一般的な賃貸の場合

一般的にな賃貸では持ち主と借主は違う人ですが…

つまり実際には家賃が発生していなくても、自分自身が大家さんになったと考えて、大家さんである自分と借主である自分がいる、というように考える事になります。

帰属家賃の場合

購入の場合は、大家=借り主と考えます。

そして不動産を購入するという事は、この大家さんが自分自身であるという事、買わずに賃貸物件に住むという事は、この大家さんが自分ではなく他人であるという事になります。

この考え方では、家を買うのは居住用であっても不動産投資であって、単に家賃が発生しないだけ、という事になります。

そして買う方が得か借りる方が得かは、大家さんが得をするか借りる方が得をするかという考えに置き換える事ができます。この比べ方で、どちらが得かという理屈を考えてみましょう。

この2つのタイプを、賃貸タイプと購入タイプと呼ぶことにします。

この帰属家賃についてはGDPを計算する等の国民経済計算でも使われる内容です。ご興味がある方は、これらの内容について調べてみるのも面白いと思います。

家賃の支払いについては税金と空室率の問題から購入タイプの方が得をします

まずは大家さんの立場に立って考えてみましょう。大家さんは不動産を購入するためのお金や維持管理のためのお金を何らかの形で回収しなければなりません。

何らかの形と言っても、その形は基本的に1つしかありません。それは家賃収入です。この家賃収入で、すべての支払いを賄うという事になります。

購入か賃貸か

支払う内容が違うように見えても、実は家賃に含まれています。

仮に不動産が戸建住宅だったとします。土地は劣化しないので、資産を現金の形で持っているのではなく、土地の形で持っているだけと考えて、この分は考えないようにしましょう。

しかし、建物代は劣化して価格が下がっていくわけですし、最終的にゼロになるものですから、この劣化分は家賃で補わなければなりません。また、維持管理にかかる費用、建物修繕費や固定資産税、都市計画税といった税金関係も家賃から賄う事になります。

これは帰属家賃の考え方でも同じです。家賃を自分自身に払い、その家賃相当分で様々な費用に充てるという事になります。

この考え方が分かっていますと、変な議論にごまかされずに済みます。変な議論とは、賃貸の方が建物代のメンテナンスコストを考えなくても良い、とか、税金を払う必要が無いので得だ、という話の事です。

こういったコストは理論上は家賃に含まれています。ですので、間接的に払っているのですが、見た目の項目が違うだけ、というのが正しい解釈になると思われます。

ただ帰属家賃の場合、つまりは自分自身が所有している場合と、他人が所有している場合で違う点がいくつかあります。

他人が所有している場合には
1.家賃収入には税金がかかる
2.賃貸管理の費用がかかる
3.大家さんの利益が上乗せされる
4.空室率を考えた分だけ家賃を上乗せしなければならない
5.入居者入れ替えのためのリフォーム費用が発生する
といったものがあります。

賃貸管理

帰属家賃の方であれば、賃貸管理の費用はかかりません。

自分自身が所有して自分が借りているという事であれば、家賃はそのまま行って来いとなります。ですが不動産賃貸業を行っている場合には、原則として家賃収入については所得税等がかかります。自己所有の場合は、この所得税分が浮きます

また賃貸業を行う際には大家さんが直接管理する場合もありますが、通常は賃貸管理を不動産会社に任せます。それには当然費用がかかります。もう少し言えば、借主に入居してもらう際にもそれなりに費用が発生します。昔は敷金礼金等でこれらの費用は賄えたようですが、今では厳しいのではないでしょうか。

また不動産賃貸業は事業ですので、これも当然利益を上げなければなりません。この利益分も自己所有の時と比べますと、家賃が上乗せされる事になります。

また、問題になり易いのが空室率問題です。1年間ずっと借り主がいて家賃収入が入ってくるのであれば、若干利益がでる家賃設定で問題ないでしょう。ですが実際には借り主は定期的に入れ替わります。以前の借り主が出て行った後、すぐに新しい入居者が入ってくれれば問題にはなりません。

実際には次の入居者が決まるまではタイムラグがあり、その間は当然家賃収入はありません。ではこの不足分をどうするかと言えば、その分を家賃に上乗せするしかありません。つまり帰属家賃の場合よりも家賃は高くなるという事になります。

入居者入れ替えのためのリフォーム費用も追加分になります。自分で住んでいる文には多少の汚れや破損は気にしないでも済みます。ですが賃貸募集の際には、ひどい汚れにはリフォーム等で対処しなければなりませんし、そうでない場合でも、クリーニングは必要になります。

もちろん不動産投資家は、こういった費用をうまく減らすためのテクニックはたくさん持っていますし、こういった費用を100%家賃に載せなくても対応できる技術もあるでしょう。ですが、原則としてこういった費用はかかるものですし、その費用は家賃に乗っていると理屈では考えられます。

資金調達にかかるコストも購入タイプの方が得しやすくなっています

前章の話では、借り入れの話をしていませんが、実は借入に関しても、自己所有の方がメリットが大きくなっています。

その内容とは
1.借入金利は自己所有の方が安い設定にできるケースが多い
2.自己所有では住宅ローン減税のメリットを受けられる
等があります。

不動産を購入する際の銀行ローンの借入金利は、居住用と投資用では大きく異なります。この記事を書いている2018年5月時点では、居住用の変動金利で安いものですと、0.6%近い利率で借り入れができます。これが投資用であれば、1%を切るという事はまずありません。4%前後近い金利になる事も多いのではないでしょうか。

資金調達

資金も自己所有の方が安いコストで調達できます。

よく不動産の購入をあおる記事は、銀行がお金を貸したいが故の陰謀である、という話を聞きますが、同じ建物が建つのであれば、自己所有よりも投資家に買ってもらい借りてもらう方が高い利率で貸せますので、金融機関の利益率は高くなるはずです。

もっとも自己所有の方が貸し倒れリスクが小さいというメリットもありますので、この陰謀論に全く根拠がないとも言い切れませんが。

そしてこの金利差に加えて、自己所有の場合はローン減税が使えるというメリットもあります。不動産の購入者が高所得のサラリーマンの方であれば、年間に戻る減税分は20万円近い金額になる事もあります。この減税は最大10年間続きますので、200万円近いメリットを受けられる事もあります。

このように、借り入れについて理屈を考えた場合も、自己所有の方が得をするという事になっています。

現実が理屈通りになっていないのは何故でしょうか?

このように考えていきますと、不動産は借りるよりも買う方が得、というようになってしまいます。ですが実際にはこの理論通りになるとは限りません。この理論通りに得をしようと思うと、いくつかの前提条件を満たさなければならないからです。

同じ物件に住み続ける前提での計算になっています

その前提条件の最たるものは、ずっと同じ場所に住み続ける、という点です。同じ物件に長く住み続ける事が出来れば、その期間が長いほど買う方が得になる率が高くなります。

住み続ける

これまでの話は、同じ物件に住み続ける前提での話です。

逆に言いますと、引っ越しを考えなければならない人、引っ越しの可能性が高い人は買わない方が得をするケースが出てきます

もう少し正確に言えば、引っ越し等をする場合は購入時と売却時の金額差と、購入の際の諸費用、売却の際の諸費用等を比べて考えるという事になります。そして不動産は売買の時の費用は割と高くかかるため、この分で損をする可能性があります。

また、購入時と売却時の価格差もある程度は考えなければなりません。市況の変化で不動産の価格が上がったり下がったりしている事もあれば、当初に割高なものを買ってしまったため、売却時に大幅に価格が下がっている事もあります。

このようなケースの場合は、賃貸にしておいた方が得である事があります。

特に長生きするリスクを考えた場合には、購入の方が得しやすくなります。世間であるシミュレーションでは、70歳までとか80歳まで住み続けた場合、等で賃貸との比較の計算がされます。80歳以上は施設に入る事も多いので、持ち家は不要という考えです。

ですが、自分が何歳で動けなくなるか、施設に入らなければならなくなるかは、誰にも分かりません。実際に80歳を超えても元気なお年寄りはたくさんいますし、慣れた家に住み続ける事ができるという点もメリットになります。

賃貸物件と分譲物件では建物のグレードが大きく異なります

また、帰属家賃の考え方では、同じ物件に住むという前提で話を進めていますが、実際には賃貸物件と分譲物件では建物のグレードが大きく異なります。これは大家さん側の立場から見れば当然で、利回りを良くするためには、建物に必要以上の費用をかける事が出来ないからです。

この話は「2-05-04.賃料からマンションの価格を考えましょう」の記事でも似た話をしていますので、こちらのページも参考にしてください。

大家さんは利益分も含め全て家賃に乗せられているという前提もあります

他にも帰属家賃の考え方では、大家さんは必ず利益を出す前提での話になっています。ですが実際には利益が出ない家賃設定になっているケースも珍しくありません。

それには様々な理由がありますが、代表的なモノとして
・相続税等の税金対策の賃貸経営のため、利益が出なくても構わない
・赤字にはしたくないが、入居者ゼロよりはマシなので、低い家賃に留まっている
・元々土地や建物を持っており、本来かかる取得コストを計算に入れていない
等があります。

相続対策

相続対策の為に、賃貸事業は赤字でも可という事もあります。

このあたりの話をしますと長くなりますので、話はしませんが、こういった諸々の事情が重なり、現実は理屈通りに動いていないという事は良くあります。

これは考え方の1つを示したもので、この考えが絶対的に正しいというものではありません。ただ、買う方が良いのか借りる方が良いのかという世の中の意見で、明らかにおかしな意見がたくさん出回っています。その意見が本当に正しいのかどうかを考える際に、こういった帰属家賃について考える事も有効だと思います。

この記事の内容を動画でも説明してみました

このページでお話ししました事を動画でも解説しています。その動画がこちらです。

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