再び現れるか?「住宅すごろく」の時代:マンションから戸建てへの買い替えトレンドがあるのでしょうか
これはあくまでも個人的に感じる事ですが、かつての高度経済成長期に流行した「住宅すごろく」という住み替えパターンが、再び現れつつあるのではないかという印象があります。今回は、その背景と、なぜ今この動きが再燃しているのかについて、私個人の経験に基づいた雑談レベルの話としてお伝えしたいと思います。
「住宅すごろく」とは?
まず、「住宅すごろく」という言葉をご存知でしょうか?これは高度経済成長期に一般的だった住み替えのステップを指します。具体的には、
- 賃貸アパートで生活をスタート
- 資金が貯まったら分譲マンションを購入
- さらに資産を増やし、庭付き戸建てに買い替える
という、まさに「すごろく」のように段階を踏んで住まいをグレードアップしていくパターンでした。この時代は不動産価格が右肩上がりで、特にマンションは常に値上がりしていたため、売却時に購入時と同等かそれ以上の価格で売却することが可能だったからこそ、この「すごろく」が成り立っていたのです。
消えた「すごろく」と再燃の兆し
しかし、1990年のバブル崩壊以降、この「住宅すごろく」はほとんど見られなくなりました。マンション価格が下落したり横ばいになったりしたため、住んでいる間に物件が古くなることで価値が下がり、買い替え自体が難しくなったからです。約30年間、この状況が続きました。
ところが、ここ1~2年で、かつての「すごろく」を思わせる動きが当社の顧客層で増えてきたのです。マンションを売却して戸建てに買い替える方が増えているという印象を受けています。
その背景には、大きく分けて二つの要因があると考えられます。
1. マンションと戸建ての価格差の拡大
不動産価格指数を見ると、2013年以降、マンション価格が大きく上昇していることがわかります。特に都心部や駅近の好立地マンションでは、国内外の投資マネーの流入や、建築費の高騰、低金利政策などが相まって、驚くほどのスピードで価格が上昇してきました。一方で、戸建てや土地もそれなりに上がってはいますが、マンションほどの急激な勢いではありません。戸建ての場合、マンションに比べて供給量が多いことや、一般的に駅から離れた場所に位置することが多いため、価格上昇のペースが緩やかだったと考えられます。
この結果、以前は考えられなかったようなマンションと戸建ての価格差が再び生まれ、「今、高値で売れるマンションを売却して、比較的手頃な価格で戸建てを購入した方が、資産形成の観点からも賢明なのではないか?」と考える方が増えているようです。特に、マンションの売却益で戸建ての購入費用を賄える、あるいは自己資金の持ち出しを最小限に抑えられるケースも出てきており、これが買い替えの大きな動機となっています。
2. マンション管理費・修繕積立金の問題
もう一つの大きな要因は、マンションの維持費、特に管理費や修繕積立金の問題です。これは、単に費用が増えるというだけでなく、将来的な住まいの安心感にも直結する深刻な問題として認識され始めています。
- 費用増額の現実: 最近、管理費や修繕積立金が大幅に増額されるマンションが顕著に増えています。この理由として、まず建材価格の高騰が挙げられます。世界的な資材価格の上昇や円安の影響で、修繕に必要な材料費が以前よりも格段に高くなっています。加えて、「働き方改革」の推進により、建設業界全体で労働時間の上限規制や賃金改善が進んだ結果、人件費が大幅に上昇しました。これらの要因が複合的に作用し、マンションの維持管理にかかるコスト全体が押し上げられているのです。
- 初期設定の甘さ: そもそも、多くのマンションでは、分譲当初の修繕積立金の設定が非常に安価だったという構造的な問題があります。例えば、マンションの長期修繕計画において、1m²あたり月200円程度の積立が必要と言われる中で、月1万円を切るような設定(70m²のファミリータイプで月7,000円程度)のマンションも少なくありませんでした。このような物件は、築10年、15年といった大規模修繕の時期を迎える頃には、積立金が圧倒的に不足していることが判明し、一気に大幅な値上げを余儀なくされます。この値上げ幅が、居住者の想定をはるかに超えるケースも珍しくありません。
- 高齢化と反対: マンションの居住者の高齢化も、この問題に拍車をかけています。購入当初は現役世代でローンの返済や管理費の支払いに問題がなかった方々も、定年を迎え年金生活に入ると、収入が減少します。そのような状況で、大幅に値上がりした管理費や修繕積立金の支払いは、家計に大きな負担となります。そのため、管理組合での値上げ決議に反対する声が大きくなり、必要な修繕計画が頓挫したり、先送りされたりするケースが増えています。修繕が遅れることで、建物の劣化が進み、結果として資産価値の低下を招くという悪循環に陥るリスクが高まっているのです。
- 非居住者オーナーの存在: 近年、投資目的でマンションを所有する非居住者オーナーも増加しています。彼らは、賃貸収入からの利回りを重視するため、管理費や修繕積立金の値上げは、その利回りを圧迫する要因となります。そのため、居住者とは異なる動機で値上げに反対する傾向があり、これもまた、管理組合での合意形成を困難にし、必要な修繕費が貯まらない一因となっています。
このような状況が続くと、必要な修繕が行われずにマンションの共用部分や設備が劣化し、建物の安全性が損なわれたり、美観が著しく損なわれたりする可能性があります。最終的には、居住環境が悪化し、物件の魅力が失われ、最悪の場合「スラム化」してしまう可能性もゼロではありません。
戸建てのメリット再評価
「では戸建てなら安全なのか?」という反論もあるでしょう。確かに戸建てにも修繕費用はかかります。外壁や屋根の塗装、水回りの設備交換など、定期的なメンテナンスは必要です。しかし、マンションとは異なる大きなメリットが再評価されています。
- 修繕費用の安さ: 戸建ての修繕費用は、マンションの修繕積立金や大規模修繕費用ほど高額にはなりません。マンションは共有部分の維持管理費用を全戸で負担するため、エレベーターや外壁、共用廊下など、戸建てにはない大規模な修繕が必要になります。戸建ての場合、規模が小さい分、個々の修繕にかかる費用も抑えられます。
- コントロールの自由度: 最大の違いは、修繕の頻度やレベルを100%自分でコントロールできる点です。マンションでは、大規模修繕の実施時期や内容、費用の負担割合などは管理組合の総会で決定されるため、個人の意向が反映されにくい場合があります。たとえ「これはまずい」と個人が感じても、他の区分所有者の合意が得られなければ、必要な修繕ができないというジレンマに陥ることもあります。しかし、戸建てなら、建物の状態や自身の経済状況に合わせて、修繕のタイミングや内容を自由に決めることができます。本当に緊急性が高いと判断すれば、自分で資金を調達してでも必要な修繕を行うという選択肢も可能です。この「自己決定権」の高さが、戸建ての大きな魅力として再認識されています。
さらに、戸建てへの買い替えを検討する方々の中には、定年後のライフスタイルを見据えた選択をするケースも増えています。
- 通勤からの解放: 定年後は通勤を考慮する必要がないため、駅からの距離を最優先する必要がなくなります。これにより、都心から少し離れた場所でも、より広い土地や庭付きの物件を、比較的安価に手に入れることが可能になります。自然豊かな環境や、静かで落ち着いた住環境を重視する方にとっては、大きなメリットです。
- ペットとの生活: マンションでは、管理規約によってペットの飼育が禁止されていたり、飼育可能なペットの種類や大きさに制限があったりすることが一般的です。特に大型犬を飼いたい場合、マンションでは選択肢が限られます。しかし、戸建てなら、敷地内で自由にペットを飼育でき、庭があればペットが走り回れるスペースも確保できます。長年ペットとの生活を夢見ていた方や、独立した子供に代わって新たな家族を迎えたいと考える方にとって、戸建ては理想的な選択肢となります。
- 趣味の充実: 定年後、仕事から解放されて、これまで我慢していた趣味に時間を費やしたいと考える方も少なくありません。車やバイクの趣味がある方にとって、マンションの駐車場は費用が高額であったり、洗車やメンテナンススペースが限られたりすることが不便でした。戸建てなら、ガレージを設けたり、庭で手入れをしたりと、より自由に趣味の時間を楽しめます。また、楽器演奏をしたい方にとっても、マンションでは音の問題で近隣に配慮が必要となり、練習時間や音量に制限がかかることがほとんどです。戸建てであれば、防音対策を施したり、離れた部屋で演奏したりと、思う存分楽器を演奏できる環境を整えやすくなります。陶芸やDIY、ガーデニングなど、音やスペースを必要とする趣味を持つ方にとっても、戸建ては活動の幅を広げる理想的な空間を提供してくれるでしょう。
まとめ:選択肢としての「住宅すごろく」
今回の話は、決して「マンションはダメだ」という主張ではありません。管理レベルが非常に高く、今後数十年も問題なく運営できるマンションはたくさん存在しますし、駅近の利便性やセキュリティの高さなど、マンションならではのメリットを享受し、マンションでの生活を好む方ももちろん多くいらっしゃいます。
しかし、一方で管理状況があまり良くないマンションも増えており、そこに住み続けることで将来的に予期せぬトラブルや経済的な負担に巻き込まれる可能性も否定できません。
今回の「住宅すごろく」の再燃は、あくまで一つの事例であり、特定のライフスタイルや価値観を持つ方々に当てはまる話ではありますが、もし現在、問題のあるマンションに住んでいて、この先何十年も住み続けることに不安を感じているのであれば、今回の話が、将来の住まいについて改めて深く考えてみる良いきっかけとなれば幸いです。