戸建を買いづらいのは償却期間や住宅ローンのせいではありません
先日ダイヤモンドオンラインで「マンションより割安になった戸建をそれでも買いづらくしている元凶」という記事が公開されました。当社も仕事柄不動産やマンションに関する記事や書籍などは定期的にチェックしており、この記事を書いている沖さんの記事や書籍などもよく参考にしています。
こういった記事は参考になるのですが、一方で意見が合わないという事もよくあります。私に記事を批判するつもりはありませんが、私はこう思うという考えを述べ、読者の方には両方の意見を聞いてもらった上で、皆さんご自身がどうされるのかを考えて頂きたいと思います。
マンションの方が含み益が出やすいという意見には疑問を感じます
前述の記事では一戸建てと比べてマンションの方が資産の下落幅が小さいので、含み益が出やすいという意見が書かれていました。
計算の根拠としては、新築時から10年後の価格は
マンションの場合 資産の下落幅 -20%
住宅ローンの減り方 -25%
なので、資産価値の減り方よりもローン残債の方が早く減るために含み益が出やすいという考え方です。
これと比べ戸建住宅の新築後10年後の価格は
資産の下落幅 -23%
住宅ローンの減り方 -25%
となり、含み益が出るかどうかが微妙という話になっています。
この意見には、私は賛成しません。資産価値の下落幅やローンの残り方が現実的ではないからです。例えばマンションの10年後の下落幅を-20%と想定していますが、大半のマンションではもっと大きく価格が下がります。
また、ローンの減り方も10年後に-25%という事は通常ではあり得ません。10年で元本が4分の1という事は、元本を毎年均等に返す計算でも40年のローンを組んでいなければならない計算です。ですが、ほとんどのローンは借入期間が最長でも35年ですからこのような長期ローンの想定はあまり意味がありません。実際には元利均等払いで、当初は利息の比率が高い訳ですから、40年のローンでも10年で4分の1の残債が減るという事はありません。
この想定はマンションや戸建て住宅の法的な償却期間から逆算して計算したものでしょうが、実際に存在しないローンの内容や、実際の資産価値(中古での価格)と違う内容で計算したものに意味があるとは思えません。
意味の無い数値での計算をもって、マンションの方が含み益が出やすいという結論は、本当に正しいかどうかは私は疑問に思います。
建物の償却期間と市場価値とは関係が無いと思います
上記の計算は、マンションは法定の償却期間が47年、木造の戸建住宅が22年という償却期間だと想定して計算されています。ですが実際の資産価値、つまりは中古で売れる価格は、この償却期間とは直接は連動していません。
中古戸建て住宅の取引が多いアメリカの例も出していますが、アメリカでも償却期間は27.5年との事で、日本とそれほど大きな差がある訳ではありません。アメリカで中古住宅の価値が高いのは、リフォームなどの手入れが、建物の資産価値に上乗せされるから、という説明はその通りだと思いますが、それは償却期間に関係がある話ではありません。
一方でアメリカではリフォーム内容が資産価値に上乗せされるが、日本ではリフォームをしても資産価値に変わりはなく、建物価格は築年数でしか評価されない、というのは概ねその通りだと思います。
話はここだけで十分だと思うのですが、なぜ償却年数を問題にしているのかはよく分かりませんでした。
償却期間については動画でも説明しています
償却期間に関しては動画でも解説しています。その動画がこちらです。
よろしければ、動画もご確認ください。
中古の戸建住宅に価値が無いのでローンが付かないという意見も間違っています
記事では、中古の戸建住宅は建物の価値が無い、そのために建物分のローンがあまり付かないために、高く買えなくなるとの話がありました。
中古の戸建住宅の建物に価値が付かないというのはその通りですし、建物分のローンもあまり付かないというのもその通りです。ですが、実際の売買代金にも建物代はほとんど乗せられていませんから、そもそもこの分のローンは必要ありません。
ニワトリが先か卵が先かという話になるのかもしれませんが、実際の売買価格に建物代が乗らない事を考えますと、金融機関もこの建物代を高く評価してローン設定をするというのは無理だと思います。現実に高く売れないものを担保として認めるはずが無いからです。
記事ではローンの設定が建物評価を低くしているという論調ですが、私は逆で、建物代が高く評価されない市場なので、金融機関もローンを付けない、という形だと思っています。
戸建の場合は賃料が正しいという仮定に問題があります
記事では、不動産の価値はロケーションで決まり、築年数には大きな意味はない、としています。また不動産の価値は賃料で決まる、という考えも披露されています。
投資として考えるのであれば、この考えは正しいのでしょう。ですが、実際に自分でその不動産に住むという事を考えた場合には、必ずしも正しいとは言い切れません。賃料が正しく不動産の価値を示しているとは思えないからです。
例えば、耐震性が高い住宅とそうでない住宅とを比べても、賃料に大きな差は出ません。少なくとも、耐震性を高くするためにかかった余分な建設費を回収できるほどの賃料の差は出ません。一般的に賃貸で借りる人は耐震性に大きな期待をしませんし、詳しく調べる方もいないからです。調べる人がいたとしても、その分余分な賃料を受け入れられる人も少ないと思います。
ですが、その差は実際に地震が起きた時には大きな差になる事もあります。最悪の場合には生命の存続に差が出ます。これほど大きな差が出るものであっても、賃料には基本的には差がでません。
他にも断熱性や住人の健康配慮といった項目でも、実際の性能差に対して賃料で差が出ることはほとんどありません。これらの差は実際の生活では大きな差になりますが、賃料には反映されません。投資と考えれば賃料で不動産の価格を考えるのは正しいと思いますが、実需として実際に生活する人がこれらの差を受け入れるかどうかは別の話になると思います。
市場の歪みを利用できればお買い得な不動産が買えます
記事では、中古の戸建住宅に価値が付かない点を悪いものと捉え、そのために戸建住宅の売買が盛んにならないと嘆いています。ですが、逆に買う方から見れば中古の戸建住宅はお買い得の住宅が多い、という事でもあります。
記事では値段が付かないのであれば、売るのを止める、という話がありましたが、実際に土地や戸建住宅を売る人は、売らなければならない理由があります。それが希望の値段が付かないからといって、すべて売り止めにする事にはなりません。
ローンの残債の残りが多すぎて、売却価格ではローンの返済が出来ない、という場合を除けば、最終的には売れるべき価格で、大半は相場に近い価格で成約することになります。
中古の戸建住宅では建物には価格があまり載っていませんので、土地代プラスアルファで戸建住宅を手に入れる事が実際に可能です。当社のサイトでは何度も同じ主張をしていますが、利用価値が高く資産価値が低い物件は実際に生活する人から見れば、とてもお買い得です。
土地代が変わらないのであれば、すでに資産価値が大幅に下がってしまった戸建住宅の建物部分をタダ同然で手に入れられるのであれば、経済的にはとても得をすることができます。私は、現在の市場がおかしいと嘆くよりも、現在の市場の歪みを利用して得をする方が現実的だと考えています。
ふくろう不動産は利用価値が高いかどうかの検査を充実させています
ただ、中古住宅購入の際に気になるのは、本当に利用価値が高いのかどうかの判断が難しいことです。特に中古の建物にはそれなりの率でトラブルがあるのですが、そのトラブルを見分ける目が無いと、資産価値が無いだけではなく利用価値もない戸建て住宅を選んでしまう事になり兼ねません(「2-04-05.リフォームが必要となる可能性が高い戸建住宅があります」参照)。
例えば当社:ふくろう不動産では、問題がある住宅を間違って選ばないように、建物検査を組み入れ、実際の利用価値、つまりは構造に問題が無いか、雨漏りなどの危険はないかを、様々な検査機器を使って確認するようにしています(「第2章.技術的・経済的な土地建物チェックに優れています」参照)。
皆さんがどういった不動産会社と付き合うかによっても、良い中古物件を見つけられるかどうかの差が出るのですが、価格は安くても利用価値が高い、あるいは問題の無い物件を紹介してくれる会社を、または対策を立ててくれる会社を選ぶべきだと思います。
この記事の内容は考え方の1つですから、どれが絶対的に正しいという話ではありません。ただ、どのような不動産を買うのが良いかについては、様々な角度から意見を聞き、買う人本人が決めるべきものだと私は考えています。そしてこの意見が、皆様の何らかの参考になればと思います。
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