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ル・コルビュジエが設計した東京・上野の国立西洋美術館が2016年7月に、世界遺産に登録される見通しとなりました。コルビュジエは近代建築の三大巨匠の1人とも言われており、日本の建築家でもこの方の影響を受けている人は多いと思います。

コルビュジエが素晴らしい建築家である事は今さら言うまでもありませんが、その一方でコルビュジエの考え方を日本の戸建て住宅に当てはめるには相当な無理があると思っています。

私にはコルビュジエを貶めるような意図は全くありません。しかし、このコルビュジエの形だけを真似て、本来住宅に求められる機能を落としたデザインの建物を見かけることについては、少し嫌な感じを受けます。このページでは、コルビュジエの考え方を理解するのではなく、形だけ真似た場合の問題点について、少し意見を述べたいと思います。

近代建築の5原則を改めて考えましょう

コルビュジエの建築に対する考え方の1つに、近代建築の5原則があります。そしてこの考え方に沿って設計されている建物も数多くあります。そこでこの近代建築の5原則を改めて確認してみます。

幾何学のイメージ

コルビュジエ提唱の5原則をもう一度考えてみましょう。

コルビュジェが考えたといわれる近代建築の5原則とは、
1.ピロティ
2.屋上庭園
3.自由な平面
4.横長の窓
5.自由なファサード
の5つです。

色々な意味で自由な発想だったと思いますし、この後の建築家たちに本当に大きな影響を与えた考え方だと思います。しかし、これを実際の建築物、特に木造の戸建住宅、一戸建て住宅に当てはめようと考えた場合には、大きなデメリットが付いてきます。

このデメリットを、5原則の項目ごとに考えてみます。

ピロティは地震に対して強いものではありません

まずは有名なピロティです。ピロティとは1階で壁が無く、柱のみで構成される空間の事です。国立西洋美術館でもこのピロティがあります。

ピロティのメリットは、ピロティ部分が駐車場として使えるとか、外と同じ空間として使えるので公共性が高いとか、いつくものメリットがあります。

ピロティのイメージ

木造建築でもピロティ的なものがあったりします。しかし構造的に強いものではありません。

しかしピロティは地震に対して弱いという大きなデメリットがあります。これは戸建住宅はもちろん、マンションやビルでも、ピロティがある建物は構造上弱くなっている可能性が高く、実際に阪神淡路大震災では、ピロティ形式の建物に大きな被害が出ています。

コルビュジエのいたフランスでは問題になりにくいのかもしれませんが、地震の多い日本に適した形式とは思えません。戸建住宅でも駐車場スペースを確保するために、1階の一部をピロティ形式としている建物もありますが、構造的な点から見ますと、あまりお勧めできない形式です。

私見ですが、特別な条件が無い限りは、戸建住宅やマンションでピロティ形式のものは選ぶべきではありません

屋上庭園や箱型の家は防水上望ましくない形です

5原則の中に屋上庭園という考え方があります。ピロティといい屋上庭園といい、空間を広く有効に使いたいという考えが強くあるのでしょう。

しかしこの屋上庭園にもデメリットがあります。1番のデメリットは防水機能が低下する可能性が高いという点でしょうか。最近では戸建住宅でも陸屋根の建物や屋上がある建物、屋上緑化の建物が増えていますが、防水工事を念入りに行わないと防水上の問題が出ます。

屋上のイメージ

通常の住宅で屋上や陸屋根は防水上は望ましいものではありません。

最近では技術が発達し、防水上問題が無い、と主張される方も多くいらっしゃいますが、私個人はその意見には全面的に賛成できません。水が建物内に入らないようにするには、防水シートなどによる防水と、雨仕舞などそもそも水が入りにくい形の両方がある方が望ましいからです。

防水シートやコーキングに頼った防水は、一定期間経過後にシート等が劣化した場合に、急に雨漏りが始まることもあります。そしてその雨漏りは、壁内にのみ入っている場合、何年間も雨漏りに気が付かないという可能性もあります。壁内に長年水が入っていますと、柱や梁、土台などが水で腐食し、構造上弱くなっている可能性もあります。このような危険は極力避けるべきだと思っています。

もちろん陸屋根でも完全な防水工事を行い、メンテナンスも適切に行われていれば問題は出ないのかもしれません。ですが一定の率で施工不良があることや、経年劣化の状況が見ただけでは分かり難い事を考えますと、より安全な作りの建物としておいた方が望ましいと思います。

自由な平面は追い求め過ぎても構造上の問題が出ます

この自由な平面、という考え方については色々な解釈がありそうです。ここでは、昔はレンガ積みなどの建物が多かったため、室内でも壁がたくさん必要だったのに、今の建築技術では壁を多く必要とせず、広い空間が作れるようになったので、平面設計が自由にできるという解釈で考えます。

大空間の図書館

技術的には大空間を作ることは可能です。ですが通常の住宅で大空間を作ろうとすると、無理が出ることがあります。

ただこれも、広い空間を作ることができる、というだけで、壁がある場合と全く同じ強度の建物を作ることができる、という意味ではありません。戸建住宅でも広いリビングを求める人が増えたせいか、1階に広いスペースを作る家も増えていますが、1階部分に柱や壁が少ないとそれだけ構造的には弱くなります。

新築時から構造バランスを考えて作られた建物であればまだしも、リフォームなどで柱や壁を抜いた場合などは、構造的にかなり弱くなります。

解放感と構造は相反することが多く出ます。あくまでも構造上強さと解放感を含めたデザインとのバランスで考えるべきで、間取りは何でも自由になると考えてはいけません。

横長の窓や連窓があると構造壁が作り難くなります

コルビュジエの建物に限らず、連窓は多くの建築家が好んで使います。ですが、連窓があるという事はその場所には壁が無いという事です。「3-02-06.建物の壁の量によって安全性は大きく異なります」のページでも説明しましたが、建物の強さは構造壁の量に大きく影響されます。

連窓のイメージ

横に長く続く窓は、建物の構造上良いものではありません。

また、幅が4m以上ある大きな窓は、地震に対して強いものではありません。連窓や大きな開口部を求める場合には、その分どこで構造を確保するかを考えなければなりません。

しかし、足りなくなった構造壁をうまく確保できている建物は多くありませんし、仮に建物の内側に別の構造壁を作ったとしても、外側にあるよりもトータルで弱い構造体になるケースの方が多いと思われます。

このような状況を知った上で、連窓を入れるかどうかを判断しなければなりません。

自由なファサードは防水施工を難しくすることもあります

自由なファサード(建物の正面を見た外観だと考えてください)もコルビュジエの主張の1つです。これも壁によって建物を支える必要が無いので、窓の位置や形を自由に設定できる、というように捉えられる事も多いのですが、先ほどから述べているように、構造壁との兼ね合いで本来は考えるべきです。

ファサードのイメージ

自由なファサードといっても、構造の影響から逃れることはできません。

またファサードの自由度を増すために、霧除け庇を省いたり、面一(ツライチ:壁と窓との段差を無くしているもの)とするために、窓の取り付けに無理をしたりというケースも見受けられます。

窓周りは漏水しやすい場所なのですが、デザイン上の無理をすることで、防水処理工事がうまくできないケースもあります。これがすべて設計士のせいであるとは言いませんが、特殊なファサードを作る際には、窓周りの納まりをきちんと考えたり、詳細図をしっかりと描き、施工者に指示してほしいものだと思います。

一般の方が納まりを考えることは通常ありませんが、特殊なデザインと言うのはそれだけ注意しなければならない点がたくさんあるものです。特殊なデザインやファサードを望む場合には、一般の方であっても詳細図を見せてもらい、防水をどのように行うのかの説明を受けるべきだと思います。

デザインと機能とのバランスをもっと真剣に考えるべきです

ここまでお話ししましたように、コルビュジエのデザインの考え方を実現しようと思うと、多くのデメリットを克服しなければなりません。

バランスのイメージ

デザインと構造・防水などの機能とのバランスをどうとるかを簡単にできると思ってはいけません。

きちんと性能を考えている設計士であれば、その具体的な方法も話をしてくれると思いますが、性能や機能を管げない、デザイン優先で設計する建築士も一定以上いますので、注意が必要です。

例えば著名な建築家である前川國男は、コルビュジェの影響を強く受けつつも、建物の機能・性能という面も強く意識した設計をされていると感じます。現在の戸建住宅の柱が3.5寸で出来ているというのも、前川國男が戦後の木材の流通状況と建物に必要な構造力とのバランスで決めたという話もあり、デザインと機能とのバランスをどうとるかを真剣に考えた建築家の1人ではないかと思っています。

私は一介の不動産屋であり、建築の専門家ではありません。ですので、建築家評論を行える立場ではありませんが、日本の住宅業界や不動産業界を憂える1人として、現在ある問題点についてはなるべく多くの人に考えてもらいたいと思っています。

このページの内容は、私個人の意見ですので、反論も多いかと思います。ご意見などがありましたら「お問い合わせフォーム」をご利用の上、ご連絡を頂ければと思います。