帰属家賃の考え方を把握しておきましょう
「家は買ったほうがいいのか、一生賃貸がいいのか」
この議論にはさまざまな意見がありますが、実は経済学的には明確な一つの考え方があります。それが「帰属家賃(きぞくやちん)」という概念です。
今回は、感情論や表面的なコスト(固定資産税や修繕費)に惑わされないための、論理的な不動産判断基準について解説します。
1. そもそも「帰属家賃」とは何か?
帰属家賃とは、一言で言うと「自分が自分の大家さんになった」と仮定する考え方です。
1人2役(大家役と借り手役)を演じていると想像してみてください。
- 借り手としての自分: 本来、外の大家さんに払うはずの家賃を自分に払う。
- 大家としての自分: 借り手(自分)から家賃を受け取る。
この「自分で自分に払っている架空の家賃」が帰属家賃です。これを理解すると、「賃貸は固定資産税を払わなくていいから得だ」という意見が、なぜ論理的に間違いなのかが見えてきます。
なぜなら、賃貸の家賃には、大家さんが支払う固定資産税や修繕費、管理費がすべて「上乗せ」されているからです。見えないだけで、借り手はそれらを間接的にすべて負担しています。
2. 理論上「買ったほうが得」と言える3つの理由
経済的な合理性だけで考えると、賃貸よりも購入のほうが有利になるケースが多いです。その理由は主に3つあります。
① 中間マージンが発生しない
大家さんが第三者に貸す場合、以下のコストを家賃に上乗せします。
- 大家さんの利益
- 空室リスクへの備え
自分が住む場合は「空室リスク」がゼロになるため、その分のコストを浮かせることができます。
② 税制上の優遇措置
「貸す場合」と「自分が住む場合」では、税金の扱いが全く異なります。
- 賃貸経営: 利益が出れば所得税がかかる。
- 自宅購入: 「住宅ローン控除」により、所得税や住民税が戻ってくる大きなメリットがあります。
③ 資金調達(金利)の差
お金を借りる際のコストも劇的に違います。
- 不動産投資ローン: 金利 2%〜4% 前後
- 住宅ローン: 金利 0.5%〜0.6% 前後(近年の例)
自分が住むための家であれば、事業用よりも圧倒的に低い金利で資金を調達できるため、経済的なメリットが生まれます。
3. 忘れてはいけない「現実的なリスク」
理論上は購入が有利ですが、現実には「固定化リスク」という大きな壁があります。固定化リスクとは「住む場所の固定化」と「支払金額の固定化」です。転勤等があった場合に、簡単に引っ越す事は出来ませんし、住宅ローンの返済も1度借入金や借り入れ条件が確定した後では、高かったので安くします、という事は出来ません。
他にも下記のようなリスクもあります。
- 流動性の欠如: 不動産は売買コスト(手数料等)が高いため、短期間で手放すと高い確率で損をします。
- 資産価値の下落: 現金と違い、場所や建物によっては価値が大きく下がるリスクがあります。
- メンテナンス責任: 自分で建物を適切に維持管理する手間と責任が生じます。
4. 購入に向いている人・判断のポイント
これまでの話をまとめると、不動産購入で失敗しないための判断基準は以下の通りです。
- 居住期間: 最低でも10年以上、できれば20〜30年同じ場所に住む予定があるか(固定化リスクを受け入れられるか)。
- 物件の質: 賃貸物件と分譲物件では、断熱性や耐震性などの「建物の質」が大きく異なることが多いです。生活の質(QOL)をどう評価するかも重要です。
- ライフプランの確実性: 転勤の有無や家族構成の変化など、将来の見通しが立っているか。
- 長生きリスク: 高齢になると賃貸が借りにくくなるという現状のリスクを、持ち家で解消するか、あるいは現金で備えるか。
まとめ
不動産購入は「投資家としての自分(大家)」と「消費者としての自分(居住者)」の両方の視点を持つことが大切です。
「帰属家賃」の考え方を知っていれば、表面的な損得論に惑わされることはなくなります。その上で、自分自身のライフプランと照らし合わせ、「固定化リスク」を負ってでも、経済的メリットと住環境の質を取りに行くのかを判断してみてください。
どちらが正解ということはありませんが、論理的な背景を知った上で選ぶことが、後悔しない家選びの第一歩です。

