土地なしからの注文住宅はなぜ難しいのでしょうか?
注文住宅に憧れを抱き、「いつかは自分だけの家を」と考えている方は多いことでしょう。しかし、私たち不動産仲介業の現場から見ると、土地をまだ所有していない方がゼロから注文住宅を建てるのは、想像以上にハードルが高くなっているのが現状です。
もちろん、注文住宅は住む人のライフスタイルや価値観を反映できる、非常に魅力的な選択肢です。私も実際に注文住宅を建て、その良さを身をもって知っています。しかし、その最大のメリットを享受するためには、建売住宅や中古住宅とは異なる、事前に知っておくべき現実や注意点があるのです。
今回は、特に「土地から探す」ことを前提に、なぜ注文住宅が難しくなっているのか、その理由を不動産のプロの視点から、より詳しくお話しします。建売住宅や中古住宅も選択肢に入れている方は、ぜひこの記事を参考に、ご自身の家づくり計画を立てる一助にしてください。
1. 資金計画が複雑で、費用もかさむ
建売住宅や中古住宅の場合、土地と建物が一体のパッケージとして販売されているため、通常は引き渡し時に一括で住宅ローンを借り入れ、代金を支払うというシンプルな流れになります。しかし、注文住宅で土地から探す場合は、この資金計画が格段に複雑になります。
- 煩雑な借入れ手続き: 土地の購入費と建物の建築費は別々に考えなければなりません。土地を先に購入する場合、その決済時に融資が必要であれば、その時点で建築会社から建物の見積書を提出してもらう必要があります。この見積もりはあくまで概算であり、その後の詳細な打ち合わせで金額が変動することも多いため、手続きの煩雑さだけでなく、将来的な資金計画の見通しも立てにくいという側面があります。
- つなぎ融資と余計な費用: 金融機関によっては、建物が完成し、引き渡しが完了するまで本格的な住宅ローンの融資を実行しない場合があります。この場合、土地代や、工事の着手金・中間金・上棟金といった途中の支払いが必要なタイミングで、「つなぎ融資」という別の短期ローンを組むことが一般的です。このつなぎ融資には、利息やつなぎ融資を利用するための手数料などが別途発生するため、通常の住宅ローンを組むだけではかからない余計な費用が確実にかさんでしまいます。
- 家賃とローンの二重払い: 土地の購入後、建物の完成を待っている期間も、当然ながら住宅ローンの返済は始まります。たとえば、4月に土地を購入し、12月に建物が完成する場合、その間の約8カ月間は、すでに土地のローンの返済が始まっていることになります。もし現在賃貸住宅に住んでいるのであれば、この期間は家賃とローンの二重払いが発生します。家賃とローンの両方を毎月支払うことは、家計に大きな負担となり、人によっては金銭的なダメージが大きくなる可能性も否定できません。
- 設計期間の短縮リスク: この二重払いの期間を少しでも短くしたいと焦るあまり、設計の打ち合わせを急ぎ、十分に時間をかけられないケースも見受けられます。注文住宅最大の魅力は、時間をかけて理想の家を追求できることですが、ここで妥協してしまうと、間取りや設備、素材選びで後悔が残ってしまうかもしれません。これでは、わざわざ注文住宅を選んだメリットを十分に享受できなくなってしまいます。
2. 人気エリアでの土地探しが最大の難関
「まずは土地探しから」と考えている方にとって、この点が最大の難関となるでしょう。
- 好条件の土地は市場に出にくい: 多くの不動産会社は、土地を一般市場に公開するよりも、建売業者などの業者に直接売却するケースが少なくありません。これは、個人への売却に比べて手続きがスムーズですし、両手取引にしやすいというメリットが仲介会社にあるからです。そのため、立地や広さ、形状など、条件の良い土地は一般消費者の目に触れる前に契約が完了してしまうことが多々あります。
- 公開される土地は「訳あり」の場合も: 人気の高いエリアで一般市場で売りに出される土地は、何かしらの難しい条件を抱えていることが多いのが現実です。具体的な例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- いびつな形状: 旗竿地(道路から細い通路を通って奥にある土地)や、極端に細長い土地など。
- 高低差: 道路よりも土地が低かったり、逆に高かったりする場合。
- 法規制: 敷地の半分が日影規制にかかり建物の高さが制限される、建ぺい率や容積率が厳しく、希望通りの家を建てられないなど。
このような土地では、建物の設計や建築費用が通常よりもかさむ可能性があります。
- エリアを広げる必要性: 理想の土地を見つけるために、希望するエリアを広げたり、妥協点を見つけたりするなど、建売住宅を選ぶ人以上に時間と労力が必要になります。利便性の高い場所を優先するのか、日当たりの良い庭を優先するのか、それとも建物のデザインを優先するのか、といった価値観を明確にしておくことが重要です。
3. 選択肢が多すぎて決めるのが大変
注文住宅は自由度が高い分、自分で決めなければならないことが非常に多いです。この「決める」という行為自体が、人によっては大きなストレスになることもあります。
- パートナー選びから一苦労: 家づくりのパートナー選びだけでも、選択肢は多岐にわたります。通常注文先は下記の3パターンがあります。一般的に言われている特徴としましては、
- ハウスメーカー: 規格化された商品が豊富で、デザインや性能、アフターフォローが手厚い点が魅力です。
- 工務店: 地域密着型で、柔軟な対応や細やかなサービスを期待できます。
- 設計事務所: 建築家とゼロから家を創り上げるため、デザイン性の高い唯一無二の家が建てられます。
といったものがあります。実際にはハウスメーカーごと、工務店ごと、設計事務所ごとに特徴も大きく異なりますので、上記の一般論だけでなく、詳しくその会社の特徴を把握する必要があります。どのパートナーを選ぶかで、家づくりの進め方や出来上がる建物の方向性が大きく変わってきます。
- 自分の好みを明確にする必要性: 選択肢が多いということは、一つひとつの要素について自分で判断を下さなければならないということです。間取りや壁紙、床材といった大きなことから、ドアノブや照明のスイッチ、コンセントの位置といった細かい部分まで、すべてを決定する必要があります。この意思決定の連続は、想像以上に大変な作業であり、「何をどう選べばいいかわからない」と途中で迷子になってしまう方も少なくありません。
4. そもそも価格が高いという現実
注文住宅は、建売住宅や中古住宅に比べて価格が非常に高いという現実から目を背けることはできません。
- 価格差は数百万円単位: 今、都心近郊の建売新築が2,000万円あたりから購入できるのに対し、注文住宅は安くても2,500万円以上、人気のハウスメーカーであれば4,000万円を超えるケースも珍しくありません。この価格差は、数十万円ではなく、数百万円、ときには数千万円単位に及ぶこともあります。
- 「消費する部分」への出費: 住宅は、時間の経過とともに価値が下がる「消費する部分」と、土地のように価値が比較的下がりにくい「資産となる部分」に分けられます。注文住宅は、この消費する部分である建物に多額の費用をかけることになります。もちろん、その費用をかけることで得られる満足度は非常に高いものですが、将来的な資産価値という視点も考慮に入れて資金計画を立てることが重要です。
注文住宅は「無理」ではなく「高いハードル」
ここまでデメリットばかりを並べ立てたため、「注文住宅は諦めた方がいいのか」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私が本当に伝えたいのは、「注文住宅は無理」という話ではなく、「注文住宅には高いハードルがある」という現実を事前に知っておいてほしいということです。
私自身も注文住宅を建てた一人として、これだけのハードルを乗り越えてでも得られるメリットは計り知れないと感じています。理想の暮らしを追求した家は、住む人に最高の満足感を与えてくれます。
大切なのは、「注文住宅は簡単だ」という誤った認識で進めるのではなく、こうした現実を事前にきちんと把握し、綿密な準備をしておくことです。メリットとデメリットを両方知った上で、どうするのかを決めて頂ければと思います。