住宅ローンを組む時には最初の想定は本当に重要です
住宅ローンという長期的な契約を結ぶ際に、「将来の想定」を単なる希望的観測ではなく、細かく、そして厳しく行うことが、生活の破綻を防ぐ上で極めて重要です。これは、ローンを組んだ後の人生の舵取りを、感情論ではなく数値に基づいて行うための土台作りとなります。
1. なぜ「想定」が重要なのか?(未来が分からないからこそ必要)
「将来のことは分からないので想定しても無駄ではないか」という考えもありますが、私は「全くそうではない」と思っています。想定の真の目的は、未来を完璧に予測することではなく、予期せぬ収入減や支出増といった想定外の事態に、迅速かつ合理的に備えるための基準点を持つことです。
- 目標設定の明確化と「ずれ」の把握:
最初に金利変動、将来の収入の減少期、固定資産税などの増加要素を含む綿密な想定(「絵に描いた餅」で構いません)を組みます。これにより、想定外の出来事が発生した際、「当初の計画と比べて、現在いくら金額的なずれが生じているのか」を数値で把握できます。この「ずれ」こそが、修正すべき具体的な目標値となります。
- 具体的な対応策の判断と実行:
この差額(ずれ)が具体的に数値で分かれば、初めて具体的な行動計画を立てることができます。「毎月あと〇万円を浮かすためには何をすべきか」「残りの返済期間で〇〇万円の繰り上げ返済目標を設定する」といった、判断に直結するアクションプラン(例:生活費の見直し、繰り上げ返済の目標設定、資産の売却計画)を実行に移せます。
- 「無理のないローン」の客観的な明確化:
世間で一般的に言われる「年収の〇%以内」といった表面的な指標や、他人の平均的な借入額に頼ることは危険です。それらの基準は、あなたの個人的なライフスタイルや支出癖、家族構成を考慮していません。自分自身のキャッシュフローに基づいた想定をすることで、何が無理で、何が無理でないかを客観的な数値で判断する唯一の基準を得ることができます。
2. 想定外の事態への対応シミュレーション
【事例】退職金による完済計画が破綻した場合
30代前半でローンを組み、60歳での退職金1,000万円で残債を一括返済し、完済する計画。
40歳で転職を余儀なくされ、新しい会社では退職金制度がない、または大幅に見込めないことが判明。
- 差額(ずれ): 1,000万円(当初当てにしていた退職金分)。
- 残りの期間: 60歳までの20年間。
- 対策: 20年で1,000万円を別途貯蓄できれば、当初の完済目標を達成可能(**毎年50万円**の貯蓄が必要)。
- 結論: 「毎年50万円」という具体的な数値を捻出するために、「自動車のグレードを下げる」「通信費や保険料を見直し、月々4万円を浮かす」など、具体的な生活パターンの変更を今すぐ判断し、行動に繋げることができます。
3. 「想定外」と誤解されがちなリスクへの備え
ローン破綻の理由としてよく挙げられる事態の多くは、実は「全く予測できない」ものではなく、「備えようと思えば備えられた」リスクであるケースの方が実は多いと私は考えています。
想定外とされがちな事態 | 具体的な対応策の例 |
---|---|
会社倒産・リストラ | 予備資金として「最低半年~1年分の生活費+ローン返済額」を通常以上に確保する。市場価値を高めるスキル習得を常に意識する。 |
給与・ボーナスカット | **ボーナスや変動給を前提とせず**、月々の基本給のみで返済可能な計画を組む。ボーナスは繰り上げ返済や貯蓄に回す。 |
子供の教育費の増加 | **ライフプランに基づき**、中学・高校・大学の各フェーズで必要となる費用を細かく見積もる。予想以上の出費が出た時点で、即座に生活費全体を調整する。 |
結論として、予期せぬ収入の減少や支出の増加が起こった時、「なんとかなるだろう」と根拠なく楽観視するのではなく、最初に立てた細かな想定を基準として、すぐ数値を計算し直す(シミュレーションをし直す)ことが、破綻の道を進まないための最も重要な鍵となります。