不動産選びの際には資産価値と利用価値を明確に分けて考えましょう
不動産について調べていると、「この物件は価値がある」「資産価値が高い」といった言葉を頻繁に耳にします。しかし、これらの情報の中には「資産価値」と「利用価値」が混ざって語られていることが少なくありません。
不動産を正しく選び、後悔しない判断をするためには、この二つの価値を明確に区別して考えることが極めて重要です。今回は、この二つの価値の定義と、それぞれをどう判断すべきかについて解説します。
1. 資産価値と利用価値は「全くの別物」
まず、私たちが考える「価値」の定義を明確にしましょう。
資産価値(Market Value)
定義: その不動産を現金化した時の価格。つまり、市場における売却価格や換金性を指します。これは個人の意見ではなく、市場全体(買い手)がいくらなら買うかという人気投票の結果で決まります。
利用価値(Use Value)
定義: その不動産を使う人(住む人、所有者)が、どれだけの満足や利便性を感じるかという主観的な価値。快適性、利便性、デザイン、愛着といった、そこに住むことで得られるメリット全般を指します。
具体例で見てみましょう
高性能住宅(高断熱・高気密など):
- 利用価値: 非常に高い(快適性が格段に向上し、満足度が高い)。
- 資産価値: 低い〜中程度。現在の市場では、高性能化にかかったコストを売却時に全額回収できるほど、中古市場の評価額に反映されにくい傾向があります。
築20年前後の戸建て:
- 利用価値: 十分に高い(住む分には全く問題がない)。
- 資産価値の維持: 建物価格がすでに大きく下がっているため、これ以上大きく下落するリスクが少なく、資産価値の維持という側面から見ると悪くない選択肢となります。
このように、利用価値が高くても資産価値には直結しないケースが多々あることを理解する必要があります。
2. 「資産価値」と「資産価値の維持」も区別する
資産価値(今の価格)
「この物件は資産価値があります」と言われた場合、それは「この物件は現時点で値段が高い物件です」という意味でしかありません。これは単なる現在の事実です。
資産価値の維持(将来の価格差)
本当に重要なのはこちらです。資産価値の維持とは、購入した時の価格と、将来売却した時の価格の差額(価格の下落幅)がどれだけ少ないかを指します。
不動産の営業担当者が「資産価値がある」と言うとき、それは暗に「資産価値が維持できる」という意味で使っていることがほとんどですが、この維持の根拠を曖昧にしている場合が多いです。
資産価値の維持を考える上で欠かせない視点:
- 将来予測の視点: 10年後、20年後にいくらで売れるかという価格の予測をセットで考える必要があります。
- 市場のデータ分析: 過去の価格推移や、周辺エリアの工事状況(工事チェックなどで確認可能)といったデータから、将来性を予測する努力が必要です。
高い物件を買うことで「資産価値がある」状態を確保できても、もし将来大きく値下がりすれば、資産価値は「維持できなかった」ことになります。この二つを分けて、論理的に判断しましょう。
3. 資産価値は「人気投票」、利用価値は「人それぞれ」
利用価値と資産価値の最大の違いは、「誰が価値を判断するか」という点です。
利用価値は感情を含む
利用価値は、個人の好みに大きく左右されます。「この場所への強い思い入れがある」「このデザインや質感に愛着を感じる」といった感情的な要素も、その人にとっての重要な利用価値の一部となります。
資産価値は市場の総意
一方で、資産価値はあくまで市場の人気投票です。自分の利用価値が世間一般の資産価値になるかどうかは、全く別の話なのです。
資産価値につながる利用価値の例(多くの人が価値を認めるもの):
- 眺望の良さ
- 抜群の立地
- 整った周辺環境
まとめ:判断を間違えないために
不動産選びにおいて、最も危険なのは「利用価値」と「資産価値」を混同することです。
- 1.「自分にとっての最高の利用価値」を追求し、
- 2.「市場が認める資産価値の維持」も同時に考える。
この二つの軸を明確に分けることで、「市場の評価(資産価値)は低いけれど、自分にとっての利用価値は極めて高い」という、人によっては非常に「お買い得」となる物件を見つける視点も生まれます。ぜひ、ご自身の価値観と市場の動向を冷静に見極めながら、不動産選びを進めてみてください。

