不動産購入の頭金は入れない方が良いは本当ですか?
近年、「不動産購入の際、頭金は入れずにフルローンを組む方がいい」という意見をよく耳にします。頭金を貯める間に物件価格が上がってしまうリスクや、手元に現金を残しておく重要性が理由として挙げられることが多いです。
今回は、そうした「頭金不要論」の主張に含まれる5つの主な論点について、一つずつ検証し、私の見解をお話しします。結論から言うと、「その通り」と納得できる部分もあれば、「それは論点が違う」と感じる部分もあります。
5つの意見を徹底検証!あなたの判断基準は?
頭金不要論を構成する5つの主張と、それに対する私の見解を解説します。
1. 予備資金を確保しておくべき説
◆ 主張: 予備資金(緊急時の生活費)を確保しておくべきなので、全てを頭金に入れるべきではない。
◆ 筆者の見解: 【予備資金の確保は絶対条件!】として、それを確保した上で、いくら頭金を入れるかを考えるべき
予備資金の必要性については全くその通りです。むしろ、予備資金なしで住宅ローンという長期の借入を始めるのは論外です。 ただし、予備資金を確保できたのなら、その上で残りを頭金に回し、借入金額を減らす方が長期的なメリットは大きくなります。
- 予備資金の目安: 金額ではなく、収入が途絶えても何ヶ月生活できるかという期間で判断すべきです。目安は、安定した仕事であれば最低6ヶ月分、不安定な仕事であれば1〜2年分と考えています。
2. 頭金を入れても借入効果が少ない説
◆ 主張: 100万円の頭金を増やしても、月々の返済額の差は小さく、手元に現金を残すべき。
◆ 筆者の見解: 差額が小さいかどうかは【数値で判断しましょう】
この話は「効果がある/ない」といった言葉の印象ではなく、数値で冷静に判断すべきです。
借入額 (30年/金利0.7%想定) | 月々返済額 (概算) | 30年間の利息累計 (概算) |
---|---|---|
3,000万円 (頭金ゼロ) | 92,413円 | 326.6万円 |
2,900万円 (頭金100万円) | 89,333円 | 315.7万円 |
差額 | ▲3,080円 | ▲10.9万円 |
さらに、借入額が増えることで発生する融資手数料(借入額の約2.2%)も考慮すると、3,000万円のフルローンの方が、合計で約13万円多く支払うことになります。月々約3,000円の差は小さく見えますが、13万円というコストをどう捉えるかは、あなたの家計の余力次第です。
3. 借入条件にあまり大差がない説
◆ 主張: 昔と違い、頭金の有無で金利や手数料などの借入条件に大きな差がない時代になった。
◆ 筆者の見解: 【金融機関を調べれば差はある】
これも「大差ない」という言葉で片付けるのは危険です。実際、金融機関によっては頭金の割合によって貸出金利が明確に変わるケースが多くあります。
- 例: ネット銀行や【フラット35】などは、頭金が物件価格の2割以上あるかどうかで金利が優遇されるメニューを用意しています。
- 行動:複数の金融機関の金利メニューを比較し、頭金がどれくらいでどれだけ金利が下がるのかを、ご自身でシミュレーションすべきです。
4. お金を貯める時間が無駄になる説(先行購入説)
◆ 主張: 頭金を貯める間に払う家賃がもったいない。先に買ってしまった方が有効。
◆ 筆者の見解: 【予備資金確保済なら一理あり】
予備資金が確保できていることを大前提とすれば、この意見には一理あります。購入時期が早まることには以下のメリットがあるためです。
- 家賃支払いの減少: 100%消費である家賃の支払いを早期に終えられる。
- 生活の質の向上: 快適な持ち家での生活期間が長くなる。
- 資産形成の早期開始: 住宅ローンの返済には資産形成の側面もある。
- 価格上昇リスクの回避: 特に過去10年ほどの価格上昇局面では、早く買った方が得策だったという事実もあります。
ただし、これは予備資金なしで無理に買う理由にはなりません。不動産営業マンのセールストークには、マイナス面が語られないことが多いので注意が必要です。
5. 頭金より資産価値の高い不動産を買うべき説
◆ 主張: 頭金の額にこだわるより、資産価値が高く売却しやすい不動産選びに注力すべき。
◆ 筆者の見解: 【論点が違います】
資産価値の高い物件を選ぶことは当然重要ですが、それは「頭金をどうするか」という借入戦略やタイミングの問題とは全く別の論点です。資産価値の検討は、頭金の有無に関わらず、必ず行うべき項目です。
結論:判断は「数値」と「自己責任」で
頭金を「入れる」「入れない」の判断は、感情論や主張の強さで決めるべきではありません。
【最低条件】生活予備資金(6ヶ月〜2年分)と諸費用分(物件価格の10〜13%程度)は必ず現金で確保する。
【自己検証】 その上で、頭金を入れて借入を減らした場合と、フルローンを組んだ場合の総支払額(利息、手数料、住宅ローン控除の戻り額など)を自分自身でシミュレーションし、数値で比較する。
【最終判断】どちらの方が、ご自身の家計と将来設計にとって「安心」と「メリット」が大きいかを総合的に判断しましょう。
銀行や不動産会社の営業担当者は「利害関係者」です。彼らのシミュレーションを鵜呑みにせず、必ずご自身で確認することが、後悔のない不動産購入への第一歩となります。