不動産の資産価値の維持とは価格差の事だと理解しましょう
不動産を購入する際、「この物件は資産価値が維持しやすい」「資産価値が高い」といった言葉をよく耳にします。しかし、この「資産価値」の定義は非常に曖昧で、多くの方が誤解しているように感じます。今回は、私が考える「不動産の資産価値」そして「資産価値の維持」について、その本質を「価格差」という視点から掘り下げて解説します。
「資産価値」とは結局何なのか?
居住用の不動産における「資産価値」とは、最終的にその不動産を売却し、現金化した際に「手元にいくら残るか」という現金部分に他なりません。投資用不動産であれば異なる評価基準もありますが、住むための不動産であれば、このシンプルな考え方で十分です。
そして、「資産価値を維持する」「資産価値が高い物件」とは、購入した価格と売却した価格の「価格差」が小さい、あるいはプラスになる物件を指します。少なくとも大きなマイナスにならないことが重要です。この価格差を考慮せずに資産価値を語ることは、正直なところ意味がないと言えるでしょう。
「永住するつもりだから資産価値は関係ない」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、ご自身が永住したとしても、いつかは相続人がその不動産を売却する日が来るかもしれません。その際にも、購入時と売却時の価格差で資産価値が決まるという視点を持っておくことが、賢明な判断に繋がります。
セールストークと現実の乖離
不動産営業担当者から「この物件は非常に資産価値が高い物件ですよ」と言われたとしても、その言葉の裏側には、8割が「単なるセールストーク」、2割が「単なる予想」が隠れていると考えてください。
高い物件を売りたいがために、本来は高値で手が出しにくい物件であっても、「資産価値があるから」という理由で納得させようとするケースが少なくありません。また、「将来は高く売れる」という言葉も、売却価格が確定していない以上、あくまで予測に過ぎません。
価格差が大きい物件は「ダメ」なのか?
では、買った時と売る時の価格差が大きくなる(つまり損をする)物件は、すべてダメな物件なのでしょうか?答えは「NO」です。
居住用不動産の場合、資産価値がすべてではありません。「消費分」という考え方も重要です。例えば、多少価格差が出たとしても、その期間、その物件で十分に快適な生活を送ることができたのであれば、それは「消費」としての価値を享受したと考えることができます。資産価値と快適性のバランスを考慮した上で購入を判断することが大切です。
マンションの資産価値を構成する要素と、その落とし穴
一般的にマンションの資産価値が高いとされる背景には、以下のような要素が挙げられます。
- 立地: 交通利便性(最寄り駅の人気、駅からの徒歩分数)、生活利便性(買い物施設、学校、病院への距離など)
- 環境: 静かな住環境
- ブランド力: 人気の地名や駅名
- 眺望・日当たり: 専有部分の条件
- 特殊な条件: 最上階、角部屋、ルーフバルコニー付きなど
これらはある程度の根拠に基づいているものの、その解釈には注意が必要です。特に、新築時からの「下落率」だけで資産価値を判断するのは早計です。
例えば、都心型のマンション(新築8000万円)と郊外型のマンション(新築4000万円)を比較してみましょう。建物代が同じ3000万円だと仮定すると、価格差は土地の値段(都心型5000万円、郊外型1000万円)に起因します。20年後に建物代が半分(1500万円)になったとすると、都心型は6500万円(下落率19%)、郊外型は2500万円(下落率37.5%)となります。
一見、都心型の方が資産価値を維持しているように見えますが、実は価格差の金額で見ると、どちらも1500万円の「消費」です。率だけで判断すると誤解を招くことがあります。重要なのは、建物の「消費分」と、変動する可能性のある「土地相当分」を切り分けて考えることです。特に、ここ数年は都心部の土地価格が上昇傾向にあったため、都心型が結果的に価格差を維持できたケースが多いですが、それが将来も続くとは限りません。
「消費分」が大きいマンションに注意
建物の価格やリフォーム費用といった「消費分」の比率が大きいマンションは、相対的に価格が下がりやすい傾向にあります。例えば、リフォーム済みの買取再販マンションは、リフォーム費用が上乗せされているため、消費分が大きくなります。しかし、その分新しく快適な住環境を手に入れられるというメリットもあります。
大切なのは、「消費分」と「土地相当分」のバランスをどう捉えるか、そしてご自身にとってどちらの価値を優先するかを判断することです。
中古マンション購入の戦略とリスク
中古マンションを狙う方の中には、新築時の大幅な価格下落(消費分)を過ぎた、価格が安定しやすい時期の物件を選ぶという考え方もあります。これは賢い戦略ですが、注意すべき点もあります。
それは、「ただでも売れない物件」の存在です。リゾートマンションのように、管理費や修繕積立金が高額になり、たとえ無償でも引き取り手が見つからない物件が増えています。将来的に都市部の居住用マンションでも同様の状況が起こる可能性も考えられます。10年、15年、あるいは20年経ってもスラム化せず、売却時に値が付くような物件を見極める目が必要となります。
また、今まで資産価値が維持されてきたマンションでも、それが将来も続く保証はありません。土地相当分の価格が下落すれば、物件全体の価格も大きく下がる可能性があります。
ランニングコストも「価格差」に影響する
資産価値の維持を考える上で、管理費や修繕積立金といった「ランニングコスト」も重要な要素です。これらも建物の「消費」と見なすことができ、金額が大きすぎると、価格差に影響を与え、将来的に物件の売却を難しくする要因にもなり得ます。修繕が滞り、スラム化するリスクも高まります。
まとめ:賢い物件選びのために
不動産の「資産価値」は、単純な新築時からの下落率だけでなく、「購入価格と売却価格の価格差」という具体的な金額で捉えることが重要です。そして、その価格差は「土地相当分の価値の維持・上昇」と、「建物やリフォームにかかる消費分の減価」のバランスによって決まります。
営業担当者のセールストークに惑わされず、ご自身で物件の条件を正確に分析し、将来的な価格変動、快適性、そしてランニングコストを含めた総合的な視点から、本当に価値のある物件を見極める目を養うことが、賢い不動産購入に繋がるでしょう。